たとえこの恋が世界を滅ぼしても6

堂宮ツキ乃

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3章

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 13年前。和馬がまだ4歳だった頃のこと。その頃、母方の祖父母の持病があまり良くなく2人は入退院を繰り返していた。

 そんな矢先、2人は突然亡くなった。まだ五十代という若さで2人とも同じ日に。桜が満開を過ぎて花弁が舞い散る季節だった。そしてさらに彼らが飼っていた穏やかな老犬も後を追うように息を引き取った。2人と一匹は同じ日に葬儀が執り行われ、同じお墓に眠った。

 優しくておだやかな2人と一匹のことが和馬は本当に大好きだった。もう会えないと聞いた時は幼心でも理解できて毎日わんわんと大泣きした。

 悲しみに暮れている中、祖父母と老犬と共に過ごしていた少女を迎えに行くことになった。和馬はその頃、人見知りが激しい質だったのでその少女とはまともに顔を合わせたことがない。いつも両親の影に隠れていた。

 しかし彼女と今日から家族になり一緒に暮らすんだと両親から聞かされた時に和馬も覚悟を決めた。いつまでもうじうじとしてはいられないと。

 迎えに行った当日。祖父母と老犬が暮らしていた家に行って探しても例の少女は見つからない。祖父母の家に住む母の弟もさっきまでリビングで遊んでいたと思ったのに、と首を傾げていた。

 和馬は1人、庭がある和室に入って縁側に桜の花弁が舞い降りたのを見つけた。この家には大きな桜の木が植えられている。

 次々に舞い降りてくるそれに引かれるように顔を上げると、桜の木が薄桃色の花弁を辺り一面に散らしている。その巨木の根元に彼女はいた。

 和馬よりも小さな体。白い肌に長いまつ毛、桜の花弁のように小さくてピンク色の唇。彼女は大きな根の上で腕を組んで頭を乗せ、微かに背中を上下させて眠っている。右目はガーゼで覆われていた。が。

 初めてまともに見た新しい家族は保育園では見たことないほど可愛い女の子だった。

「和馬ー。女の子いた~?」

 父親の間延びした声に続いて母親も和室に現れた。2人とも例の美少女のことを一目見て微笑んだ。

「お昼寝していたのね。本当に可愛い…お人形さんみたい」

「リ○ちゃん以上だな」

「バー○ー以上よ」

────その美少女の名前はリ○ちゃんでもバー○ーでもなく。

「あのコが“さくら"…」

「そう。今日から俺たちの家族だ。これから一緒に住むんだよ」

「誕生日は和馬より早いからさくらちゃんがお姉ちゃんね」

 和馬はまだ、その時は知らなかった。美少女────さくらの正体も、彼女のそばにずっといた存在も、彼女が見た目に反して性格が美少女らしくないことを。



 2人で住み始めてからというものリビングのソファで寝ていたり、ほぼ下着姿で過ごしていたり、バスタオル一枚で風呂場から出てきたりと無防備な姿をさらすことがある。

 男っ気がない彼女は実は和馬に他の人より心を開いているんだ、と少し慢心していた。

 なのに。
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