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序章

産みの親

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 物心ついた頃、とで言うのだろうか。それは彼女の1番古い記憶だ。

 両親と弟といつもの公園に遊びに来た日のこと。

 ボール遊びに夢中になり、遠くに飛んでいったボールを追いかけて茂みに突っ込んでいった。母にかわいらしく結ってもらった髪に構わず。

 両親が”あらあら…”と苦笑いする声が聞こえた。”僕も行く!”と弟が走り出したが、すぐに転んだらしい。遠くでそんな音が聞こえた。家族からは、自分は保育園で1番足が速かったと言われている。

「ボール…たぶんここ…」

「探し物はこれかしら?」

 見上げると金色の髪に青い瞳の少女が、黄色いボールを持って立っていた。

 差し出されたのを受け取り上目遣いで見つめた。

「ありがとう…」

「あら、偉いわね。その歳でしっかりしてるのね」

 少女によしよしと頭をなでられ、この人は誰だろ…というのを隠せずジトッと見てしまった。

「お姉ちゃん誰?」

「私? あなたの協力者よ」

「きょうりょくしゃ…」

「直に意味が分かるようになるわ。なんたって天才なんだから…」

「天才…!」

 それなら意味が分かる。急に嬉しくなり、目を輝かせた。

「今日はね、あなたのお母さんに会わせにきたの」

「お母さん…? あっちにいるよ」

「あの人は育ての親でしょう。あなたには難しい話だけど…。まぁ、今はこの話はいいでしょう。久しぶりにあなたに会いたいでしょうから…」

「もう一人のお母さん…」

 ボールを持って戻ることも忘れ、彼女は未知の存在にまた目をキラキラさせて少女のことを改めて見上げた。

「────舞花まいかさん」

「まいか…」

 瞬間、フワッと花の香りがし、風で自分の髪が舞い上がった。

 そして少女の右上にその人は現れた。

 炎のような深紅の髪、橙色の瞳。花の模様を施された打掛、無地の着物、手には煙管きせる

 驚くことに彼女には足がない────否、膝から下はぼんやりとしていた。

 彼女────舞花は煙管を下ろし、彼女のことを見下ろしてほほえんだ。

「いつの間にこんなに大きく…。元気でありんしたか?」

────それが産みの親と、初めて対面した日だった。

 花の香りと艶やかな着物姿が印象的だった。
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