たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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3章

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「わわわわ…。織原さんが!!」

「どったの和馬。私のクラスに来るなんて珍しい」

「そ、そうだけど…。それは今話すことじゃない!」

 授業後の藍栄高校。夜叉のクラスに和馬が走ってやってきた。

 大した距離はないのに肩で息をしている。

 彦瀬と瑞江と帰ろうとしていた夜叉は、持ちかけたスクールバッグを机に置いて和馬を教室内へ招いた。

「織原さんがどうかした?」

「例の…。響高校の連中が今日、織原さんを殺しに来るって…」

「あの1番タチ悪い学校ね。殺す言っても無理でしょ、高校生なんだから」

「確かにそうだけど恐ろしいことには変わりないよ、あっちは複数人で来るけどこっちは織原さん1人…」

 彦瀬と瑞江が夜叉の両脇で彼女の手を握った。まるで行かせないと言いたげに。

 夜叉は目を細めて和馬を見つめた。

「それを言いにこっちに来たってことは…。私に加勢しろってか」

「…正直に言うと」

「バッカヤロー!」

「「やーちゃん!?」」

 彦瀬と瑞江の手を優しくほどいてから、夜叉は和馬に殴りかかった。彼は教室の外まで吹っ飛んだ。下校するために廊下にいた生徒たちが、異質なものを見る目で和馬を見下ろしている。

「姉を戦いに行かせる弟がどこにいる? この前までは止めてたくせに…。このドアホ!」

「ごめん、さくら…。でも織原さんのこと放っておけないし、さくらしか頼れる人いないし…」

「自分が行くっていうのはないのか」

「…ごめんなさい」

「真っ先に謝んな」

 夜叉は手をパンパンとはたき、自分のスクールバッグを和馬に向かって投げつけた。顔面に直撃し、起き上がりかけた彼は"ごふっ…"と再び沈んだ。

「彦瀬、みーちゃん。ごめん、今日は一緒に帰れない」

「やーちゃんケンカしに行くの!? ダメだよ、停学になっちゃうよ」

「織原さんは最強なんでしょ? 1人でも大丈夫だよ」

「珍しく性格悪いこと言うね2人とも。ケンカならもうしたから今さらだよ。その時に分かったけど、響高校ってのは大勢で1人を狙うから…。今回はなんとなく嫌な予感がするし。私行ってくるよ」

 不安そうな顔の2人に夜叉はにっこりと笑ってみせた。いつも以上に愛想がよさげな。

 和馬は罪悪感をにじませた表情でうつむき、だまって聞いていた。

「…ということで和馬。2人と私のスクバーは任せた。その辺にアイツらきてるかもしんないしね…。あと晩御飯は卵かけご飯でよろしく」

「分かった。他にもさくらが好きなものを用意します」

「当たり前。と、究極の卵かけごはんでね」

「「究極の卵かけご飯?」」

 和馬が顔を上げ、立ち上がって2つのバッグを肩にかけて彦瀬と瑞恵を教室の外に連れ出した。2人は夜叉と離れまいと抵抗していたが、夜叉にポンと背中を押されてしまった。振り向くと、彼女はやっぱり口角をあげてニコニコしてる。

「大丈夫だよ、もし先生に何か言われたら、私は正義の味方として加勢したから罪は軽いって言ってくれる? 織原さんも絡まれたから仕方なく相手してやっただけって」

「「わかった!」」

 夜叉に力強くうなずき、2人は夜叉に向かって大きく手を振りながら廊下を歩いた。

「じゃあねやーちゃん!」

「また明日。ケガしちゃダメだよ」

「虹の橋も渡っちゃダメだからね~」

「虹の橋…?」

「犬飼い用語で天国に行くこと~」

「バカヤロー! 殺す気!?」

 夜叉が走って追いかけようとしたら、今まで見たことないスピードで3人は走り去った。

 クラスメイトたちは苦笑いでこの様子を見ており、今度は彼らに向かって腕を組んだ。

「ということでクラスの皆々様…。くれぐれもよろしくお願いします」

 まばらにうなずくのを見届け、夜叉は2組の教室へ向かった。



 和馬は彦瀬と瑞恵に挟まれ、校庭を歩いていた。2人はバスで駅へ向かうからすぐ解散するが。

「ねーねー和馬。さっきやーちゃんが言ってた究極の卵かけご飯って何?」

「あぁそれ? 地元でおいしいって有名な鶏卵としょうゆを使ったたまかけで、江口えぐちさんってトコと、磯田いそださんってとこの直売所で売ってるヤツを使ってんの。Se○kinとHIK○KINの動画を見て感化されたみたいでね…」

「あ、もしかして機械のヤツ?」

「そうそう。けどウチは機械は使わずに食材と作り方だけこだわりたいって目覚めたみたい」

 和馬は、帰りながら直売所へ行かないと…。と考え、なかなかいいお値段がする商品を買うだけの所持金があるかも気になった。

「やーちゃんは意外とグルメ? あとYou○ube好きだよね!」

「家でもWi-Fiつなげて見てるよ。ただ偏りがあって」

「あ、踊ってみたは誰でも見るけどYou○uberはHIK○KINとSe○kinしか見ないってヤツ」

「やっぱり学校でもそうなんだ?」

「うん。あとは相田光守」

「なるほどね」

 和馬はうんうんとうなずき、両肩のバッグを持ち直した。この2人はやっぱり夜叉のことをよく知ってる。

「やーちゃん、無事だといいね…」

「彦ちゃん、さっきのは縁起でもないこと言ってヒヤッとしたよ」

「それはごめんて…。場を和ませたくて」

「やーちゃん怒ってたじゃん」

「明日謝りまぁす…」

 珍しく彦瀬がシュンとしたところで、和馬は2人と分かれて直売所へ向かった。
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