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5章

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「…そこからは舞花から聞いたことがある」

「ならば話は早いですね────時の女神は預かった幼子、夜叉様の母親を死神様に探し出してもらって現代へ送りました」

「…うん」

 夜叉は心半分でうなずき、チラと外を見る仕草を見せた。

 舞花の話を聞いている途中、彼女は気を失って倒れてしまった。今は布団を敷いた朱雀の部屋で眠っている。

 朱雀が死んでいるというショックも重なっているだろう。彼女は長いこと泣いていた。

 母親が泣いている所を見るのは初めてだった。

「阿修羅…さんは」

「阿修羅で結構ですよ」

「あ、じゃあ私のことも夜叉で。敬語じゃなくていいし」

「それはいけません。朱雀様の娘様ですから」

「は、はぁ…」

 謎の律義さに夜叉は頬をかき、足をくずしたいができないのでうずうずとしていた。

「…で、朱雀────父さんはなんで亡くなったの? 今の所何も関係なさそうだけど」

「…朱雀様は舞花様に会いに行ってました。そこで吉原を火の海に変えた人物と会い、殺されか火事に巻き込まれたと考えております」

「今で言う放火? そんなに話題になったの?」

「いえ。我が一族は大昔から警察のような組織にまぎれておりましたので。江戸時代だと奉行所。そこから同心とか岡っ引きとか…。聞いたことあるかもしれませんね」

「かもしんない」

 夜叉はうんうんとうなずき、さりげなく座布団の上で足を崩した。

「話を戻しますが…犯人は人間ではないと、奉行所にいる仲間から情報が入ったのです。それが────さっきの男」

「…!」

 唇の歯を立てられた部分が、思い出したように痛み出した。

 名前を言われなくても分かった。

 背中に悪寒が走る。

「…影内朝来」

「…! ヤツの名前をご存知ですか」

「あ…うん。友だちからヤバいヤツって聞いた」

「なんと…ヤツはそんな堂々と人間の前で…」

 阿修羅は美しい顔をゆがめて舌打ちをした。どうやら朝来のことを知っていて嫌っているらしい。

「でも…江戸時代から今まで生きてるってこと? もしかしてアイツもあなたたちと同じ不死身なの?」

「えぇ。ヤツは人間ではありません────我々は悪魔だと推測しています。朱雀様を殺したのもヤツです。吉原を炎で焼き尽くしたのも。ヤツは朱雀様と舞花様の仲を知っていたようで」

 阿修羅は膝の上で拳を握り締めた。しかも震えている。

 ここまで話を聞いていたがどうやら阿修羅は朱雀のことをかなり慕っているようだと、夜叉は気づき始めていた。

「朱雀様は戯人族の頭領の1人。並大抵の相手なら負けることはありえません。だがヤツは…こちらが思っている以上の力を保持していた。しかも普通の悪魔より相当タチが悪い…。我らには大昔から突っかかってくるのです。人間には滅多に手を出しませんが、我らへの攻撃のためなら傷つけることを厭わない」

「織原さん…」

 夜叉のつぶやきに阿修羅はうなずき、目を伏せた。

「先ほどは自分が出るのが遅くて申し訳ありませんでした…。夜叉様の大切なご友人を。それにファーストk…」

「それは別に気にしなくていいよ」

 一連の出来事を思い出しそうだったので遮った。そこまでデリケートだと思われたくもなかった。

 阿修羅は咳払いをした。

「朱雀様ですらかなわなかったあの悪魔は、姿を自由に変えながら生きながらえてきました。自分は夜叉様のお目付け役としてしばらく行動していたのですが、偶然あの悪魔を見つけることができました」

「あ…うん。阿修羅だったんだ…。おかげで妙に校内で一時期有名になっちゃったよ…。阿修羅もTw○tterでバズってたよ」

「それは自分も知ってます。さすがにまずいので一族のIT屋さんに削除してもらうように依頼しました」

「ホントにどこでも仲間がいるのね」



 舞花は目覚める気配がない。布団の中で眠り続ける彼女のことに目を伏せ、そっと障子をしめた。

 朱雀の部屋を後にすると、他の頭領に会ってみないかと阿修羅に誘われた。

「他の頭領…」

「はい。青龍様というお方で、一言にまとめるとロリコンです」

「ロ、ロリ…」

 頭領らしからぬというか人外らしからぬというか。偉い人ならもっとそれらしい趣味を持ってほしかった。
 
 …というのは黙っておき、阿修羅の後についていった。

 先ほどのいかにも日本な和室から、中華な雰囲気を醸し出す場所へ移動していった。

「なんでこんなに変わるの?」

「各頭領の趣味です。朱雀様は日本庭園を愛してました。なので衣服も和を好んでいます」

「ふーん…だから阿修羅も派手な浴衣みたいなの着てるんだ」

「えぇ。服飾担当の者に製作してもらいました」

「ホントになんでもありだな…」

 途中、短いチャイナドレスの少女や、チャイナドレスにカンフーパンツを合わせた者たちとすれ違った。

 衣服が中華でタイプは違うが、髪色は全ての者が水色系だ。

「阿修羅と私の髪色が似ているのは同じ朱雀族だから?」

「えぇ。夜叉様は人間であるお母上の血も流れておられるからまた違う色ですが。基本、その頭領と同じ髪色になります」

「ふーん」

 夜叉が適当に質問しながら歩き続けていると、そこだけ妙に目立つ部屋があった。

 扉はなく、のれんのような長い布が垂らされているだけ。

「青龍様、阿修羅にございます。朱雀様のご息女をお連れしました」

「入りなさい」

 優雅で、それでいて威厳のある声が返ってきた。阿修羅に続いて部屋に入ると、水色の長髪の男が玉座から立ち上がって両腕を広げた。

 夜叉はミュージカル映画にまぎれこんだ気分にでもなった。

 水色髪の美しい男────青龍は、腕を下ろしてほほえんだ。

「ようこそ、青龍の間へ。君が朱雀の娘か…。会えてうれしいよ」

 ロリコンと教えられていて少しだけ警戒心を持っていたのだが、どうやら大丈夫なようだ。よくよく考えたら自分は高校生なのだから、彼の対象にはならないだろう。

 まぁ座りなさいと勧められ、2人は革のソファに腰掛けた。
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