たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

文字の大きさ
23 / 43
5章

しおりを挟む
「…そこからは舞花から聞いたことがある」

「ならば話は早いですね────時の女神は預かった幼子、夜叉様の母親を死神様に探し出してもらって現代へ送りました」

「…うん」

 夜叉は心半分でうなずき、チラと外を見る仕草を見せた。

 舞花の話を聞いている途中、彼女は気を失って倒れてしまった。今は布団を敷いた朱雀の部屋で眠っている。

 朱雀が死んでいるというショックも重なっているだろう。彼女は長いこと泣いていた。

 母親が泣いている所を見るのは初めてだった。

「阿修羅…さんは」

「阿修羅で結構ですよ」

「あ、じゃあ私のことも夜叉で。敬語じゃなくていいし」

「それはいけません。朱雀様の娘様ですから」

「は、はぁ…」

 謎の律義さに夜叉は頬をかき、足をくずしたいができないのでうずうずとしていた。

「…で、朱雀────父さんはなんで亡くなったの? 今の所何も関係なさそうだけど」

「…朱雀様は舞花様に会いに行ってました。そこで吉原を火の海に変えた人物と会い、殺されか火事に巻き込まれたと考えております」

「今で言う放火? そんなに話題になったの?」

「いえ。我が一族は大昔から警察のような組織にまぎれておりましたので。江戸時代だと奉行所。そこから同心とか岡っ引きとか…。聞いたことあるかもしれませんね」

「かもしんない」

 夜叉はうんうんとうなずき、さりげなく座布団の上で足を崩した。

「話を戻しますが…犯人は人間ではないと、奉行所にいる仲間から情報が入ったのです。それが────さっきの男」

「…!」

 唇の歯を立てられた部分が、思い出したように痛み出した。

 名前を言われなくても分かった。

 背中に悪寒が走る。

「…影内朝来」

「…! ヤツの名前をご存知ですか」

「あ…うん。友だちからヤバいヤツって聞いた」

「なんと…ヤツはそんな堂々と人間の前で…」

 阿修羅は美しい顔をゆがめて舌打ちをした。どうやら朝来のことを知っていて嫌っているらしい。

「でも…江戸時代から今まで生きてるってこと? もしかしてアイツもあなたたちと同じ不死身なの?」

「えぇ。ヤツは人間ではありません────我々は悪魔だと推測しています。朱雀様を殺したのもヤツです。吉原を炎で焼き尽くしたのも。ヤツは朱雀様と舞花様の仲を知っていたようで」

 阿修羅は膝の上で拳を握り締めた。しかも震えている。

 ここまで話を聞いていたがどうやら阿修羅は朱雀のことをかなり慕っているようだと、夜叉は気づき始めていた。

「朱雀様は戯人族の頭領の1人。並大抵の相手なら負けることはありえません。だがヤツは…こちらが思っている以上の力を保持していた。しかも普通の悪魔より相当タチが悪い…。我らには大昔から突っかかってくるのです。人間には滅多に手を出しませんが、我らへの攻撃のためなら傷つけることを厭わない」

「織原さん…」

 夜叉のつぶやきに阿修羅はうなずき、目を伏せた。

「先ほどは自分が出るのが遅くて申し訳ありませんでした…。夜叉様の大切なご友人を。それにファーストk…」

「それは別に気にしなくていいよ」

 一連の出来事を思い出しそうだったので遮った。そこまでデリケートだと思われたくもなかった。

 阿修羅は咳払いをした。

「朱雀様ですらかなわなかったあの悪魔は、姿を自由に変えながら生きながらえてきました。自分は夜叉様のお目付け役としてしばらく行動していたのですが、偶然あの悪魔を見つけることができました」

「あ…うん。阿修羅だったんだ…。おかげで妙に校内で一時期有名になっちゃったよ…。阿修羅もTw○tterでバズってたよ」

「それは自分も知ってます。さすがにまずいので一族のIT屋さんに削除してもらうように依頼しました」

「ホントにどこでも仲間がいるのね」



 舞花は目覚める気配がない。布団の中で眠り続ける彼女のことに目を伏せ、そっと障子をしめた。

 朱雀の部屋を後にすると、他の頭領に会ってみないかと阿修羅に誘われた。

「他の頭領…」

「はい。青龍様というお方で、一言にまとめるとロリコンです」

「ロ、ロリ…」

 頭領らしからぬというか人外らしからぬというか。偉い人ならもっとそれらしい趣味を持ってほしかった。
 
 …というのは黙っておき、阿修羅の後についていった。

 先ほどのいかにも日本な和室から、中華な雰囲気を醸し出す場所へ移動していった。

「なんでこんなに変わるの?」

「各頭領の趣味です。朱雀様は日本庭園を愛してました。なので衣服も和を好んでいます」

「ふーん…だから阿修羅も派手な浴衣みたいなの着てるんだ」

「えぇ。服飾担当の者に製作してもらいました」

「ホントになんでもありだな…」

 途中、短いチャイナドレスの少女や、チャイナドレスにカンフーパンツを合わせた者たちとすれ違った。

 衣服が中華でタイプは違うが、髪色は全ての者が水色系だ。

「阿修羅と私の髪色が似ているのは同じ朱雀族だから?」

「えぇ。夜叉様は人間であるお母上の血も流れておられるからまた違う色ですが。基本、その頭領と同じ髪色になります」

「ふーん」

 夜叉が適当に質問しながら歩き続けていると、そこだけ妙に目立つ部屋があった。

 扉はなく、のれんのような長い布が垂らされているだけ。

「青龍様、阿修羅にございます。朱雀様のご息女をお連れしました」

「入りなさい」

 優雅で、それでいて威厳のある声が返ってきた。阿修羅に続いて部屋に入ると、水色の長髪の男が玉座から立ち上がって両腕を広げた。

 夜叉はミュージカル映画にまぎれこんだ気分にでもなった。

 水色髪の美しい男────青龍は、腕を下ろしてほほえんだ。

「ようこそ、青龍の間へ。君が朱雀の娘か…。会えてうれしいよ」

 ロリコンと教えられていて少しだけ警戒心を持っていたのだが、どうやら大丈夫なようだ。よくよく考えたら自分は高校生なのだから、彼の対象にはならないだろう。

 まぁ座りなさいと勧められ、2人は革のソファに腰掛けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました

らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。 そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。 しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような… 完結決定済み

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...