たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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7章

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 藍栄高校の各学年の三大美人。彼女たちから祝福を受けた男子生徒は奇跡が起きる、という伝説。

 1年には織原結城、徳水日奈子、そして────。

「あ。ねぇあのコ…」

「わ…」

 廊下ですれ違った美女に、2人の女子生徒が見とれて振り返った。

 薄い茶髪に桃色の瞳。桃花眼は鋭さと丸みを兼ね備えている。すらりとした彼女は長身で、モデルにも見える。

 廊下を歩けば誰もが振り向く。彼女は1年生の中で目立つ存在でもあった。

「せーつなちゃん」

「やーたん」

 夜叉の声に振り向いた彼女は、満面の笑みになった。夜叉の後ろには阿修羅が控えている。

 せつなと呼ばれた彼女────豊峰とよみねせつなは、阿修羅のことを見て首をかしげた。阿修羅は小さく会釈した。

「転校生のコ? 4組まで噂流れてるよ。すっごい美人だって」

「そうなんだ。さすがだね阿修羅」

「恐れ入ります」

「ついでにやーたんといつも一緒にいて舎弟みたいだってのも…」

「マジでか。それ和馬にも言われちゃったよ」

 せつなと夜叉は結城経由で知り合った。結城はせつなと同じ中学で当時、護身をしていた。

 三大美人はクラスは違うが交流があり、特に日奈子の体調に気を配っているらしい。

「でもホントに綺麗なコだね。しかもやーちゃんに似てるし…。妹みたい」

「そうね。まぁ正直言うと2人目のおとうt…」

「やー様。次の授業の課題は終わってますか」

 阿修羅は夜叉を遮るようにかぶせた。そのことに特に違和感を持たなかったせつなは、”あ”という顔になって教室に戻る仕草をした。

「やっば…あたし六限目の課題途中だった…。早くやらなきゃ」

「それはマズい。がんばってね」

「うん、ありがと。じゃあね。やーたん、あーたん」

 手を振って小走りに去るせつなに2人で小さく手を振り返した。

 夜叉はほほえんで阿修羅と顔を見合わせた。彼は少しうれしそうだ。

「あーたん…。自分のことでよいのでしょうか…」

「そりゃそうだよ。私と一緒にいるの阿修羅だけだよ。よかったね」

「はい。クラスメイトには"青川さん"と呼ばれているので新鮮です。豊峰さん…三大美人ですか」

「見とれた?」

「否定はしませんが…自分はやー様の方がお綺麗だと思います」

「そんな気ぃ遣わなくていいよ。自分だって綺麗なんだから」

「はぁ…」

 阿修羅は特に表情をピクリと動かすことなく、束ねた細い髪の毛先を取った。いつも丁寧に手入れしているのか、気持ち夜叉よりつややかだ。

「そういえばさ、同居人さんは相変わらずお仕事忙しそう? 私も会ってみたいな」

「そうですね…。出たり入ったりです。冬休みの後から結局、3人と1匹で暮らすことになったんですけども」

「そうだったんだ!? 1匹…? 何か飼ってるの?」

「えぇ、犬を。1人が連れているので。やー様は犬はお好きですか?」

「好きっちゃ好きかも」

 夜叉の答えに阿修羅が少しだけ顔を輝かせた。

「ではこの後ウチに来ませんか? 荷物が増えて若干狭く感じるかもしれませんが…。よかったら犬を見に来てください」

「行きたい!」



 軽率に阿修羅のマンションへ遊びに来た夜叉は、阿修羅の連れの犬を見て首をかしげた。

 既視感のある大きなトイプードル。夜叉のことを見ると目を輝かせてしっぽを振った。今にも飛びつきそうだ。阿修羅が妙にかしこまった表情で手のひらを見せている。どうやらトイプードルの飛びつきたい衝動を抑えているらしい。

「んん…。ハニー?」

「なぜ名前を…うわっ」

 トイプードルはワンッと鳴き、阿修羅に勢いよく飛びついた。

「やめなさいコラ…。ハニー!」

 阿修羅はなめられていたが、彼女は珍しく大声を上げてハニーを離れさせた。

 今度は夜叉の足元へ走っていき、彼女の後ろの方で空中に向かって飛び跳ねた。

 すると舞花が現れ、彼女はいつもより低い位置でしゃがみこんで優しく目を細めた。

「主はわっちが見えんすか? なでられないのが残念にござんす…」

 舞花は煙管を持っていない方の手でなでる真似をした。その代わりではないが、夜叉がハニーの体をわしゃわしゃとなでた。

「ハニーは舞花のことが見えるんだ…。なんでだろ?」

「犬には霊感があるとかないとか。第六感みたいな」

「へー…おもしろいね」

 ハニーは返事をするようにワンッと吠えてお座りをし、後ろ足で頭をかいた。

 阿修羅は、まぁどうぞと言うように夜叉と舞花を招き入れてお茶を用意した。ハニーもその後をついていき、舞花の近くをうろうろとした。彼女のことが気になるらしい。舞花もハニーの行動を見てほほえんでいた。

 カーペットの上の低いテーブル。腰を下ろしても床暖房で暖かい。

「ところで…なぜやー様はハニーのことを知っているのですか?」

「この前…始業式の日にこの近くを通ったら、男の人がハニーを連れて歩いてたんだよ。そしたらさっきの阿修羅みたいに飛びつかれてさ、ちょっとしゃべってた」

「それは…水色の前髪が長い人ではありませんでした?」

「そうそう。わりとイケメンだったかも…あ」

 夜叉はそこで言葉を切った。目を合わせた阿修羅はうなずく。舞花もチラリと2人のことを見た。

「あの人が同居人さんだったんだ…」

「えぇ。またその内会えますよ。仕事が落ち着いたとかで同居メンバーに加わったんです」

「そっか。もう1人いるんだよね。その人はどんな人なの?」

「んん…鬼嫁…」

「お…鬼嫁?」

 舞花がクスクスと笑い出した。ハニーをなでるフリをしながら、反対の手で口元を押さえている。

「阿修羅さんにはそう見えるかもしれんせんが…。あの方のあれは鬼ではござんせん」

「舞花は知ってるの? 会ったことあるの?」

「あい。わっちがしばらく戯人族の間でお世話になっている時にお話しておりんした。可愛らしゅうお方にありんす」

「ほーぉ…?」

「主に伝わりやすい言い方…乙女? みたいな」

「なるほど納得した」

 夜叉はコクコクとうなずいた。阿修羅は隣で首をかしげているが。

「女心というのは分かりません…」

「女の子のカッコしてるのに?」

「それは関係ありません。心は男です」

「お、おぅ…」

 お茶を飲んでお菓子を食べ、宿題に手をつけ始めた。そこはやはり2人とも普通の人間ではないので、おしゃべりしながらでもかなり早い。

 冬休み明けで気持ちがダルい日が多いとか、体育ほぼ毎回昴に会ってる気がするとか、早く春になってほしいとか。

 その時。リビングのドアが開いた。2人して振り向くと、スーツ姿で水色の髪の女性が部屋の入口に立っていた。片手に食材が入っているらしいエコバッグを持っている。
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