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7章
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「おかえりなさい。鬼子母神さん」
阿修羅は立ち上がり、現れた女性に近づいた。
「ただいま。そちらはもしかして…」
「やー様…いえ、夜叉様です」
女性は阿修羅の差し出した手に買い物袋を渡し、夜叉のことを見つめた。
「このコが? 朱雀様によく似ているのね。目の色が深くて」
「そうですか?」
「えぇ。初めまして、私は鬼子母神。あなたの父上のことはよく知っているつもりよ。私はあの方を一番尊敬しているわ。今でもね」
鬼子母神はウインクしながら夜叉に手を差し出した。夜叉は驚きつつ、こういうあいさつは初めてだなと思いながら手を握り返した。
「なんだか…外国人みたいですね。こういうの」
「あ…あぁ。私、つい最近まで仕事でアメリカにいたの。一族の指令でFBIにいたのよ」
「FBI! コ○ンで聞いたことあります」
「あは。さすが日本の少女ね」
鬼子母神は笑い、カーペットの敷かれた床に座った。阿修羅は買い物袋を持ったままキッチンへ消えた。ハニーはトコトコと鬼子母神に近づいてお尻をくっつけて座った。彼女はハニーの体をわしゃわしゃとなでた。
「鬼子母神さんはもしかして、髪が水色だから青龍さんの一族ですか?」
「そうよ。不服だけどあのロリコン野郎が私の頭領」
「ロ、ロリ…。そうですね、あっちに行った時も聞きました…」
「ふふ。ヤツの性癖は有名だもの」
鬼子母神の買ってきたものを冷蔵庫にしまい終わり、リビングへ戻ってきた。もちろん鬼子母神のお茶を持ってきて。
「それで…。例の悪魔は大丈夫?」
「影内朝来、ですか? あれから見てないですから大丈夫ですよ」
「それは過信かもしれないわ。私は長いことアメリカでヤツの動向を探っていたのだけれど、アイツはいろんな姿に変わることができる。もしかしたらあなたの近くで今も監視しているかもしれないわ…」
「そんな…」
「でも大丈夫よ。これからは私もあなたの護衛役になるから。もう1人いるしね」
首をかしげる夜叉に、鬼子母神はにっこりとほほえんでみせた。隣で阿修羅もうなずいている。
舞花はススッと花の香りを引き連れて夜叉の隣に来て正座をし、三つ指をついた。
「どうか娘をお願い致しんす…。幽体のわっちではできないことも多い。人間ではないからこそ持つそのお力…。どうかお貸し下さいませ」
「舞花さん、頭なんか下げちゃダメよ。私たちはこのコを守りたいだけよ。忌まわしい悪魔から…。同じ一族だからとか、朱雀様の娘だからとか、そんなちっぽけな情じゃないのよ。だからそんな仰々しく頼むことじゃないわ」
「鬼子母神さんの言う通りです。舞花さん、どうか頭を上げて下さい」
舞花はうなずき、そっと目元を押さえてほほえんだ。
夜叉も舞花ほどの丁寧さではないが会釈をし、キリッとした表情で顔を上げた。
「私も…お願いします。私はあなたたちのハーフだけど大した力を持ってないから…」
「気になさることではありません。それに、持ってなくなどないですよ。初めてあなたの戦闘中の姿を見た時、朱雀様に似たものを感じましたから。あの時は相手が悪かっただけです」
「阿修羅…あなた夜叉ちゃんには優しいのねぇ? 戯人族の間では他の女の子にそんな態度取らないじゃない」
「なっ…それはもちろん、朱雀様のご息女だからです。尊敬している方の忘れ形見を無下に接するワケないでしょう」
「いつも誰にでも平等に、をモットーにしている男の娘がねー…。ふーん…」
「なんですかその意味ありげな笑い方は。私にも気が変わることはあります」
「なーにを言ってるんだガンコ者が! 好きなんでしょ夜叉ちゃんが。可愛いけど雰囲気かっこいいし。あんたのタイプドストライクなんでしょ」
「…してやー様、これから護衛が増えますのでよろしくお願い致します」
「まぁー! そうやって話をそらす! 都合悪くなるとすぐそれよね…」
鬼子母神が蔑んだ目で阿修羅を見たが、彼はお構いなし。姿勢よく正座をしたまま夜叉のことを見つめていた。それはもう、熱いほどに。夜叉の方はその視線にたじたじとして足を崩し、舞花のことを見上げようとしたが、彼女は煙管を吹かしながら姿を消した。
「舞花? ちょっとこのいなくなり方は初めてじゃない?」
「気づいていないのねあなた…おもしろいからいいんだけど」
「はぁ…?」
夜叉は曖昧な返事と表情で鬼子母神のことを見て、ウインクをされて反応に困った。
タイミングがいいのか悪いのか、ハニーは夜叉の元へ寄ってお尻をくっつけた。
「あら。ハニーは夜叉ちゃんのことを信用してるのね」
「え?」
「ハニーがお尻をくっつけてるでしょ? そういう意味の行動なのよ」
「へー…知らなかった…」
「私も彼から聞いて知ったのよ」
「彼ってもしかして、ハニーの飼い主さんですか?」
鬼子母神がほほえんでうなずいた。ここぞとばかりに阿修羅は無言で彼女のことをじっと見たが、鬼子母神にギランッとにらみ返されて体ごとそらした。彼女は夜叉に笑いかけた。
「そう。同じ青龍様の元で、つい最近まで私と同じように一族の指令で動いていたのよ」
「あの人もそうだったんだ…。鬼子母神さんと同じFBIですか?」
「いいえ。彼は日本で活動しているわ。私はこれでアメリカから引き揚げてきたけど、彼は今も現役バリバリよ。ただ…何してるかはちょっと言えないんだけど」
「…? 自衛官の偉い人とか?」
「いいえ。いつか彼から聞くといいわ。勝手に私たちが言うわけにはいかないから」
鬼子母神は謎めいたほほえみで片目を閉じ、唇に人差し指を当てた。
阿修羅は立ち上がり、現れた女性に近づいた。
「ただいま。そちらはもしかして…」
「やー様…いえ、夜叉様です」
女性は阿修羅の差し出した手に買い物袋を渡し、夜叉のことを見つめた。
「このコが? 朱雀様によく似ているのね。目の色が深くて」
「そうですか?」
「えぇ。初めまして、私は鬼子母神。あなたの父上のことはよく知っているつもりよ。私はあの方を一番尊敬しているわ。今でもね」
鬼子母神はウインクしながら夜叉に手を差し出した。夜叉は驚きつつ、こういうあいさつは初めてだなと思いながら手を握り返した。
「なんだか…外国人みたいですね。こういうの」
「あ…あぁ。私、つい最近まで仕事でアメリカにいたの。一族の指令でFBIにいたのよ」
「FBI! コ○ンで聞いたことあります」
「あは。さすが日本の少女ね」
鬼子母神は笑い、カーペットの敷かれた床に座った。阿修羅は買い物袋を持ったままキッチンへ消えた。ハニーはトコトコと鬼子母神に近づいてお尻をくっつけて座った。彼女はハニーの体をわしゃわしゃとなでた。
「鬼子母神さんはもしかして、髪が水色だから青龍さんの一族ですか?」
「そうよ。不服だけどあのロリコン野郎が私の頭領」
「ロ、ロリ…。そうですね、あっちに行った時も聞きました…」
「ふふ。ヤツの性癖は有名だもの」
鬼子母神の買ってきたものを冷蔵庫にしまい終わり、リビングへ戻ってきた。もちろん鬼子母神のお茶を持ってきて。
「それで…。例の悪魔は大丈夫?」
「影内朝来、ですか? あれから見てないですから大丈夫ですよ」
「それは過信かもしれないわ。私は長いことアメリカでヤツの動向を探っていたのだけれど、アイツはいろんな姿に変わることができる。もしかしたらあなたの近くで今も監視しているかもしれないわ…」
「そんな…」
「でも大丈夫よ。これからは私もあなたの護衛役になるから。もう1人いるしね」
首をかしげる夜叉に、鬼子母神はにっこりとほほえんでみせた。隣で阿修羅もうなずいている。
舞花はススッと花の香りを引き連れて夜叉の隣に来て正座をし、三つ指をついた。
「どうか娘をお願い致しんす…。幽体のわっちではできないことも多い。人間ではないからこそ持つそのお力…。どうかお貸し下さいませ」
「舞花さん、頭なんか下げちゃダメよ。私たちはこのコを守りたいだけよ。忌まわしい悪魔から…。同じ一族だからとか、朱雀様の娘だからとか、そんなちっぽけな情じゃないのよ。だからそんな仰々しく頼むことじゃないわ」
「鬼子母神さんの言う通りです。舞花さん、どうか頭を上げて下さい」
舞花はうなずき、そっと目元を押さえてほほえんだ。
夜叉も舞花ほどの丁寧さではないが会釈をし、キリッとした表情で顔を上げた。
「私も…お願いします。私はあなたたちのハーフだけど大した力を持ってないから…」
「気になさることではありません。それに、持ってなくなどないですよ。初めてあなたの戦闘中の姿を見た時、朱雀様に似たものを感じましたから。あの時は相手が悪かっただけです」
「阿修羅…あなた夜叉ちゃんには優しいのねぇ? 戯人族の間では他の女の子にそんな態度取らないじゃない」
「なっ…それはもちろん、朱雀様のご息女だからです。尊敬している方の忘れ形見を無下に接するワケないでしょう」
「いつも誰にでも平等に、をモットーにしている男の娘がねー…。ふーん…」
「なんですかその意味ありげな笑い方は。私にも気が変わることはあります」
「なーにを言ってるんだガンコ者が! 好きなんでしょ夜叉ちゃんが。可愛いけど雰囲気かっこいいし。あんたのタイプドストライクなんでしょ」
「…してやー様、これから護衛が増えますのでよろしくお願い致します」
「まぁー! そうやって話をそらす! 都合悪くなるとすぐそれよね…」
鬼子母神が蔑んだ目で阿修羅を見たが、彼はお構いなし。姿勢よく正座をしたまま夜叉のことを見つめていた。それはもう、熱いほどに。夜叉の方はその視線にたじたじとして足を崩し、舞花のことを見上げようとしたが、彼女は煙管を吹かしながら姿を消した。
「舞花? ちょっとこのいなくなり方は初めてじゃない?」
「気づいていないのねあなた…おもしろいからいいんだけど」
「はぁ…?」
夜叉は曖昧な返事と表情で鬼子母神のことを見て、ウインクをされて反応に困った。
タイミングがいいのか悪いのか、ハニーは夜叉の元へ寄ってお尻をくっつけた。
「あら。ハニーは夜叉ちゃんのことを信用してるのね」
「え?」
「ハニーがお尻をくっつけてるでしょ? そういう意味の行動なのよ」
「へー…知らなかった…」
「私も彼から聞いて知ったのよ」
「彼ってもしかして、ハニーの飼い主さんですか?」
鬼子母神がほほえんでうなずいた。ここぞとばかりに阿修羅は無言で彼女のことをじっと見たが、鬼子母神にギランッとにらみ返されて体ごとそらした。彼女は夜叉に笑いかけた。
「そう。同じ青龍様の元で、つい最近まで私と同じように一族の指令で動いていたのよ」
「あの人もそうだったんだ…。鬼子母神さんと同じFBIですか?」
「いいえ。彼は日本で活動しているわ。私はこれでアメリカから引き揚げてきたけど、彼は今も現役バリバリよ。ただ…何してるかはちょっと言えないんだけど」
「…? 自衛官の偉い人とか?」
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