33 / 43
7章
2
しおりを挟む
「おかえりなさい。鬼子母神さん」
阿修羅は立ち上がり、現れた女性に近づいた。
「ただいま。そちらはもしかして…」
「やー様…いえ、夜叉様です」
女性は阿修羅の差し出した手に買い物袋を渡し、夜叉のことを見つめた。
「このコが? 朱雀様によく似ているのね。目の色が深くて」
「そうですか?」
「えぇ。初めまして、私は鬼子母神。あなたの父上のことはよく知っているつもりよ。私はあの方を一番尊敬しているわ。今でもね」
鬼子母神はウインクしながら夜叉に手を差し出した。夜叉は驚きつつ、こういうあいさつは初めてだなと思いながら手を握り返した。
「なんだか…外国人みたいですね。こういうの」
「あ…あぁ。私、つい最近まで仕事でアメリカにいたの。一族の指令でFBIにいたのよ」
「FBI! コ○ンで聞いたことあります」
「あは。さすが日本の少女ね」
鬼子母神は笑い、カーペットの敷かれた床に座った。阿修羅は買い物袋を持ったままキッチンへ消えた。ハニーはトコトコと鬼子母神に近づいてお尻をくっつけて座った。彼女はハニーの体をわしゃわしゃとなでた。
「鬼子母神さんはもしかして、髪が水色だから青龍さんの一族ですか?」
「そうよ。不服だけどあのロリコン野郎が私の頭領」
「ロ、ロリ…。そうですね、あっちに行った時も聞きました…」
「ふふ。ヤツの性癖は有名だもの」
鬼子母神の買ってきたものを冷蔵庫にしまい終わり、リビングへ戻ってきた。もちろん鬼子母神のお茶を持ってきて。
「それで…。例の悪魔は大丈夫?」
「影内朝来、ですか? あれから見てないですから大丈夫ですよ」
「それは過信かもしれないわ。私は長いことアメリカでヤツの動向を探っていたのだけれど、アイツはいろんな姿に変わることができる。もしかしたらあなたの近くで今も監視しているかもしれないわ…」
「そんな…」
「でも大丈夫よ。これからは私もあなたの護衛役になるから。もう1人いるしね」
首をかしげる夜叉に、鬼子母神はにっこりとほほえんでみせた。隣で阿修羅もうなずいている。
舞花はススッと花の香りを引き連れて夜叉の隣に来て正座をし、三つ指をついた。
「どうか娘をお願い致しんす…。幽体のわっちではできないことも多い。人間ではないからこそ持つそのお力…。どうかお貸し下さいませ」
「舞花さん、頭なんか下げちゃダメよ。私たちはこのコを守りたいだけよ。忌まわしい悪魔から…。同じ一族だからとか、朱雀様の娘だからとか、そんなちっぽけな情じゃないのよ。だからそんな仰々しく頼むことじゃないわ」
「鬼子母神さんの言う通りです。舞花さん、どうか頭を上げて下さい」
舞花はうなずき、そっと目元を押さえてほほえんだ。
夜叉も舞花ほどの丁寧さではないが会釈をし、キリッとした表情で顔を上げた。
「私も…お願いします。私はあなたたちのハーフだけど大した力を持ってないから…」
「気になさることではありません。それに、持ってなくなどないですよ。初めてあなたの戦闘中の姿を見た時、朱雀様に似たものを感じましたから。あの時は相手が悪かっただけです」
「阿修羅…あなた夜叉ちゃんには優しいのねぇ? 戯人族の間では他の女の子にそんな態度取らないじゃない」
「なっ…それはもちろん、朱雀様のご息女だからです。尊敬している方の忘れ形見を無下に接するワケないでしょう」
「いつも誰にでも平等に、をモットーにしている男の娘がねー…。ふーん…」
「なんですかその意味ありげな笑い方は。私にも気が変わることはあります」
「なーにを言ってるんだガンコ者が! 好きなんでしょ夜叉ちゃんが。可愛いけど雰囲気かっこいいし。あんたのタイプドストライクなんでしょ」
「…してやー様、これから護衛が増えますのでよろしくお願い致します」
「まぁー! そうやって話をそらす! 都合悪くなるとすぐそれよね…」
鬼子母神が蔑んだ目で阿修羅を見たが、彼はお構いなし。姿勢よく正座をしたまま夜叉のことを見つめていた。それはもう、熱いほどに。夜叉の方はその視線にたじたじとして足を崩し、舞花のことを見上げようとしたが、彼女は煙管を吹かしながら姿を消した。
「舞花? ちょっとこのいなくなり方は初めてじゃない?」
「気づいていないのねあなた…おもしろいからいいんだけど」
「はぁ…?」
夜叉は曖昧な返事と表情で鬼子母神のことを見て、ウインクをされて反応に困った。
タイミングがいいのか悪いのか、ハニーは夜叉の元へ寄ってお尻をくっつけた。
「あら。ハニーは夜叉ちゃんのことを信用してるのね」
「え?」
「ハニーがお尻をくっつけてるでしょ? そういう意味の行動なのよ」
「へー…知らなかった…」
「私も彼から聞いて知ったのよ」
「彼ってもしかして、ハニーの飼い主さんですか?」
鬼子母神がほほえんでうなずいた。ここぞとばかりに阿修羅は無言で彼女のことをじっと見たが、鬼子母神にギランッとにらみ返されて体ごとそらした。彼女は夜叉に笑いかけた。
「そう。同じ青龍様の元で、つい最近まで私と同じように一族の指令で動いていたのよ」
「あの人もそうだったんだ…。鬼子母神さんと同じFBIですか?」
「いいえ。彼は日本で活動しているわ。私はこれでアメリカから引き揚げてきたけど、彼は今も現役バリバリよ。ただ…何してるかはちょっと言えないんだけど」
「…? 自衛官の偉い人とか?」
「いいえ。いつか彼から聞くといいわ。勝手に私たちが言うわけにはいかないから」
鬼子母神は謎めいたほほえみで片目を閉じ、唇に人差し指を当てた。
阿修羅は立ち上がり、現れた女性に近づいた。
「ただいま。そちらはもしかして…」
「やー様…いえ、夜叉様です」
女性は阿修羅の差し出した手に買い物袋を渡し、夜叉のことを見つめた。
「このコが? 朱雀様によく似ているのね。目の色が深くて」
「そうですか?」
「えぇ。初めまして、私は鬼子母神。あなたの父上のことはよく知っているつもりよ。私はあの方を一番尊敬しているわ。今でもね」
鬼子母神はウインクしながら夜叉に手を差し出した。夜叉は驚きつつ、こういうあいさつは初めてだなと思いながら手を握り返した。
「なんだか…外国人みたいですね。こういうの」
「あ…あぁ。私、つい最近まで仕事でアメリカにいたの。一族の指令でFBIにいたのよ」
「FBI! コ○ンで聞いたことあります」
「あは。さすが日本の少女ね」
鬼子母神は笑い、カーペットの敷かれた床に座った。阿修羅は買い物袋を持ったままキッチンへ消えた。ハニーはトコトコと鬼子母神に近づいてお尻をくっつけて座った。彼女はハニーの体をわしゃわしゃとなでた。
「鬼子母神さんはもしかして、髪が水色だから青龍さんの一族ですか?」
「そうよ。不服だけどあのロリコン野郎が私の頭領」
「ロ、ロリ…。そうですね、あっちに行った時も聞きました…」
「ふふ。ヤツの性癖は有名だもの」
鬼子母神の買ってきたものを冷蔵庫にしまい終わり、リビングへ戻ってきた。もちろん鬼子母神のお茶を持ってきて。
「それで…。例の悪魔は大丈夫?」
「影内朝来、ですか? あれから見てないですから大丈夫ですよ」
「それは過信かもしれないわ。私は長いことアメリカでヤツの動向を探っていたのだけれど、アイツはいろんな姿に変わることができる。もしかしたらあなたの近くで今も監視しているかもしれないわ…」
「そんな…」
「でも大丈夫よ。これからは私もあなたの護衛役になるから。もう1人いるしね」
首をかしげる夜叉に、鬼子母神はにっこりとほほえんでみせた。隣で阿修羅もうなずいている。
舞花はススッと花の香りを引き連れて夜叉の隣に来て正座をし、三つ指をついた。
「どうか娘をお願い致しんす…。幽体のわっちではできないことも多い。人間ではないからこそ持つそのお力…。どうかお貸し下さいませ」
「舞花さん、頭なんか下げちゃダメよ。私たちはこのコを守りたいだけよ。忌まわしい悪魔から…。同じ一族だからとか、朱雀様の娘だからとか、そんなちっぽけな情じゃないのよ。だからそんな仰々しく頼むことじゃないわ」
「鬼子母神さんの言う通りです。舞花さん、どうか頭を上げて下さい」
舞花はうなずき、そっと目元を押さえてほほえんだ。
夜叉も舞花ほどの丁寧さではないが会釈をし、キリッとした表情で顔を上げた。
「私も…お願いします。私はあなたたちのハーフだけど大した力を持ってないから…」
「気になさることではありません。それに、持ってなくなどないですよ。初めてあなたの戦闘中の姿を見た時、朱雀様に似たものを感じましたから。あの時は相手が悪かっただけです」
「阿修羅…あなた夜叉ちゃんには優しいのねぇ? 戯人族の間では他の女の子にそんな態度取らないじゃない」
「なっ…それはもちろん、朱雀様のご息女だからです。尊敬している方の忘れ形見を無下に接するワケないでしょう」
「いつも誰にでも平等に、をモットーにしている男の娘がねー…。ふーん…」
「なんですかその意味ありげな笑い方は。私にも気が変わることはあります」
「なーにを言ってるんだガンコ者が! 好きなんでしょ夜叉ちゃんが。可愛いけど雰囲気かっこいいし。あんたのタイプドストライクなんでしょ」
「…してやー様、これから護衛が増えますのでよろしくお願い致します」
「まぁー! そうやって話をそらす! 都合悪くなるとすぐそれよね…」
鬼子母神が蔑んだ目で阿修羅を見たが、彼はお構いなし。姿勢よく正座をしたまま夜叉のことを見つめていた。それはもう、熱いほどに。夜叉の方はその視線にたじたじとして足を崩し、舞花のことを見上げようとしたが、彼女は煙管を吹かしながら姿を消した。
「舞花? ちょっとこのいなくなり方は初めてじゃない?」
「気づいていないのねあなた…おもしろいからいいんだけど」
「はぁ…?」
夜叉は曖昧な返事と表情で鬼子母神のことを見て、ウインクをされて反応に困った。
タイミングがいいのか悪いのか、ハニーは夜叉の元へ寄ってお尻をくっつけた。
「あら。ハニーは夜叉ちゃんのことを信用してるのね」
「え?」
「ハニーがお尻をくっつけてるでしょ? そういう意味の行動なのよ」
「へー…知らなかった…」
「私も彼から聞いて知ったのよ」
「彼ってもしかして、ハニーの飼い主さんですか?」
鬼子母神がほほえんでうなずいた。ここぞとばかりに阿修羅は無言で彼女のことをじっと見たが、鬼子母神にギランッとにらみ返されて体ごとそらした。彼女は夜叉に笑いかけた。
「そう。同じ青龍様の元で、つい最近まで私と同じように一族の指令で動いていたのよ」
「あの人もそうだったんだ…。鬼子母神さんと同じFBIですか?」
「いいえ。彼は日本で活動しているわ。私はこれでアメリカから引き揚げてきたけど、彼は今も現役バリバリよ。ただ…何してるかはちょっと言えないんだけど」
「…? 自衛官の偉い人とか?」
「いいえ。いつか彼から聞くといいわ。勝手に私たちが言うわけにはいかないから」
鬼子母神は謎めいたほほえみで片目を閉じ、唇に人差し指を当てた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜
高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。
婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。
それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。
何故、そんな事に。
優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。
婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。
リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。
悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。
忘れ去られた婚約者
かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』
甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。
レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。
恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。
サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!?
※他のサイトにも掲載しています。
毎日更新です。
ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように
柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」
笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。
夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。
幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。
王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【書籍化決定】アシュリーの願いごと
ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」
もしかして。そう思うことはありました。
でも、まさか本当だっただなんて。
「…それならもう我慢する必要は無いわね?」
嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。
すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。
愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。
「でも、もう変わらなくてはね」
この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。
だって。私には願いがあるのだから。
✻基本ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
✻1/19、タグを2つ追加しました
✻1/27、短編から長編に変更しました
✻2/2、タグを変更しました
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる