たとえこの恋が世界を滅ぼしても1

堂宮ツキ乃

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9章

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「今日って何日目なの?」

「3日目」

「もう!?」

「うん。君、2日くらい寝てたから。もう今日の夕暮れまでに君を返さなくちゃね」

 誘われて入ったお茶屋で、陽の当たる席でだんごを2人で食べていた。

「そうか…」

「寝ている間にめっちゃ時間進んでラッキーって感じ?」

「半分は」

「あはは」

 朝来は夜叉の正直な答えにカラカラと笑った。その手には三色団子。夜叉がよく知っているものよりは、色あざやかさはない。

「ねぇ。これからどうするの? だんご食べてはいバイバイってワケじゃないんでしょ?」

「うん、それはもちろん。この後は別の時代に行くよ」

「さらに!? なんでまず江戸時代に来たの…」

「せっかくだから君が生まれた時代を見せたいなって。余計かもだけど」

「そう…だったんだ」

 意外な気遣いに、だんごを食べる手が止まった。

 男らしさが加わった端正な顔立ちに引かれたが、不意ににんまりとした顔で見つめられた。

「どう、こういうの。ドキッとした? ポイント跳ね上がった?」

「はあぁぁ? バカじゃないの? 今ので大してないポイントが下がったわ」

「それは残念」

 ちろっと舌を小さく見せた顔は、素顔の雰囲気が出ている。



 だんごを食べ、お茶を飲む彼女の姿が、懐かしい顔と重なって朝来は目を細めた。

────味気ないわね…。これでどうかしら。

────…君は一体何をしてるんだい?

 彼女・・とこうして店に来た時、彼女がぼやいておもむろに懐から出したのは赤い小瓶。蓋をひねり、大福の上にふりかけ始めた。出てきたのは赤い粉末。

────これはとうがらしの粉よ。中国のある地域に行った時に勧められてね。山椒もいいって言われたけど、彩りが加わるから私はとうがらし派。

────だからってお菓子にかけるか? 君の味覚バカなんだろ。

────バカとは失礼ね。私はただ、辛いものが好きなだけよ。

 そう言って真っ赤になった大福を頬張る彼女は満面の笑みになった。

 一度だけ朝来もとうがらしをかけてもらったことがあるが、とても食べられるものではなかった。やっぱり彼女は味覚バカだと確信した。

「…君は────偏食?」

「そんなことないと思うけど…。和馬がバランス考えてご飯作ってくれるし」

「そっか。普通そうだよね」

「まぁ…あえて言うなら卵かけご飯はめちゃくちゃ好き。毎日食べれるくらい好き」

 きれいな顔からは意外な好みに、やはり"彼女・・"と重なる。

(君はただの子孫だよな…。生まれ変わって、まためぐり会えたなんてロマンチックな展開はないよね)

 だんごを一口頬張って彼女を見ると、朝来のことは気にせずすでに3本食べ終えていた。

「卵かけご飯か。予想外だね。君みたいな最近の女の子はパンケーキが好きそうだけど」

「うーん。まぁ周りには多いけど、私は好きじゃないな。パサパサしてて苦手」

「へー。生クリームダバダバに乗ってるのとかあるじゃない。あぁいうのは?」

「生クリームがダメ。受け付けない」

 夜叉は首を振って湯のみに手を伸ばした。

「和馬が作ってくれるホットケーキは好きだよ。ふわふわしてて軽くて食べやすいから。ちょっと水分あるし」

「君の弟はご飯もスイーツも得意なんだ。良いところへ行けたね」

「そうね。両親も…おじいもおばあも良くしてくれたから。私は昔から恵まれてるよ」

 夜叉はうんうんとうなずいた。

 欲の無い娘。朝来は彼女を見て思った。

 江戸時代で親子3人、平和に生き続けたかったとか、純粋な戯人族と同じように永遠に生きたいとも言わない。

「ねぇねぇ。舞花や父さんに会うことってできるかな…?」

 遠慮がちに聞いてきた内容は、彼女からの初めてのお願いだったが、立場上彼女の父親に会わせることはできない。朝来が曖昧な笑みと共に首を振ると、そうだよねと夜叉は寂しげな表情で足元を見た。

「変なこと言ってごめん」

「いや…いいんだ」

 明確な理由は言えなかった。彼女のしゅんとした様子が心に痛かった。

「でも、代わりと言えるかどうか分かんないけど。後でもう一軒茶屋を回ろうか。だんごだけじゃ物足りないだろ?」

「言われてみれば確かに…。ご飯食べたいなー」

 急に食い意地を張る彼女に笑みが浮かんだ。食欲旺盛らしい。この時代で食べられそうな物は…と、指折り考え始めた。
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