OLと女子高生と悪魔の副業【アルファポリス版】

堂宮ツキ乃

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4章

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 睦月のクラスでは最近、例の魔女と手下の話題で度々盛り上がる。

 彼が何の話をしに行ったかは言えなかったが、実際に会ってみた感想を話すとクラスメイトが食いついた。

「いい人だったぜ。お茶もうまかったしお菓子も出してくれたし」

 朝のホームルーム前の教室。

 生徒のほとんどが睦月の席を囲んでいる。皆一様に魔女のことに興味津々だ。

「そのお茶って庭で採れたハーブティーとか? お菓子は魔女の手作り?」

「ううん、普通のお茶だった。あとどら焼きはもらったモンだってさ」

「意外と普通なんだ……」

 彼らも睦月と同じように翼のことを自分の祖父母から聞いて知っている。

「話をすればなんでも叶うんだろ? この無料ガチャの排出率がクソ過ぎるからSSR出るようにお願いしてこようかな……」

「魔女は神社じゃねーし……」

 一部勘違いしている者もいるが、翼に相談して解決した者が校内に何人もいる。近隣の高校にも。

 学校で美人として有名な美紅もその一人だ。彼女は魔女の家を訪れた後に大学生の彼氏に浮気されていたことが分かった。問いただそうとしたら彼氏の方から誠心誠意謝罪されたそうだ。

 別れた今、その大学生は女という女を遠ざけ、真面目に勉学に励んでいると専らの噂だ。噂の出所は大学生の友だちの高校生のきょうだいらしい。

「私も行ってみようかな……」

 おとなしい女子がポツリとつぶやいた。彼女はずっとだまっていたが、睦月の話を一番熱心に聞いていた。

 他の同級生は彼女のつぶやきに興味を示さなかった。そもそも聞こえてないだろう。彼女は普段から自己主張が控えめで、あまり目立たない。

 睦月は彼女に向かって親指を立てて見せた。

「いいじゃんいいじゃん。変な男もいるけど意外と話が分かるヤツだぜ」

「変な男?」

「意地悪いんだよ。でもお前だったら大丈夫かも。女にはめちゃ優しい。ホストやってそうなチャラ男だったぜ」

 不安そうな表情をしているので”一緒に行こうか?”と名乗り出たが、彼女は首を振った。切りそろえた前髪が揺れる。

「大丈夫。行くかどうか決めてないから」

「一人で不安だったら声かけろよ」

「ありがとう」

 ぎこちない笑みでお礼を言い、彼女は自分の席へ戻っていった。

 魔女の家へ訪れる女子の大半が恋愛相談をしている、と聞いたことがある。彼女もそうなのだろうか。

「睦月君は今日も人気だねぇ」

「あ。先生」

 いつの間にか担任が教室に入ってきた。彼は教卓の前に立つのではなく、同級生に紛れて睦月の席へやってきた。

 大人の乱入にクラスメイトは煙たがるどころか、睦月から聞いた話を興奮気味に話した。

 ワイシャツの上に白衣を羽織った男性教師は、彼らの話にゆっくりとうんうんとうなずく。”これはいい話を聞いたなぁ”とのんきに頭をかいた。

 形のよさそうな頭は天然パーマで覆われ、温厚そうな顔にまん丸レンズのメガネをかけている。

「いやぁ。先生も相談しに行ってみたいなぁ」

「先生が? 何を相談するんですか?」

「もしかして結婚のことですか?」

「先生って確か35でしたよね? 行き遅れってやつ?」

「君たち……痛いところを突かないでおくれよ……」

 レンズの奥の瞳が悲しそうに涙ぐんだ。生徒たちは”冗談です!”と言っているが、彼に背を向けて肩を震わせている。

 教師は涙目のまま手を叩き、着席するよう促した。

「そろそろホームルームを始めるよ。魔女のことは休み時間にね」

「はーい」

 バラバラに返事をした生徒たちは睦月の席を離れた。

 担任は教卓の上で手帳を開き、一礼してホームルームを始めた。

「皆さん、おはよございます。連絡事項は特にありませんが、今日も一日頑張りましょう。季節の変わり目で急に疲れが、ダルさが、という人も在るかもしれません。そういう時は早く寝て休息を取って下さい。それからご飯をしっかり食べること。青春時代の皆さんは学校でたくさん体を動かすから、どれだけ食べてもカロリーはゼロになるはずです」

 ちょっとしたユーモアで生徒を笑わせると、彼自身ものほほんとした笑みを浮かべた。手帳を閉じてホームルームを締めると、一人の生徒が挙手して立ち上がった。

「ユメ先生。委員会からのお知らせがあるんでいいですか」

「うん、どうぞ」

 ユメ先生と呼ばれた彼────夢原は、うなずきながら手を差し出した。
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