咲かない桜

4章

Part 242『資格』

　翌日、俺は、篝さんの家を訪れた。実際、修行自体は、早い方が良いはずだし、あまり時間がないことは間違いなかった。

　しかし、焦りと同時に俺は、かなりの期待があった。魔法や呪いなど明確に当たり前の世界とは別の法則を操ることが出来るなんて、アニメや漫画の世界の様だ。

　前回と同じ様に小屋に挨拶をして乱丸と合流して、教えてもらう事を伝えると「まあ、別に良いんじゃないか。」と素っ気ない対応だった。店を訪れた時、椅子に座り船を漕いでいたので、眠いのだろう。

　実際、今も瞳は半開きで、時折、大きく口を開けてあくびをしているので、間違いないだろう。

　「ていうか、乱丸は、篝さんに教えてもらってる訳じゃないのか。」

　てっきり、後継者か何かだと思っていたのだが、篝さんの話によると後継者は今はいないらしい。

　「言ったろ。俺は、あっちの世界の住人だ。師匠は別に居るんだよ。」

　「なるほどな。じゃあ、一人で暮らしてたらそりゃあ、後継人もいない訳か。」

　「いや、一人じゃないぞ？　あのおやっさん、息子も孫もいるし」

　「え？　じゃあ、なんで俺に教えてくれるんだ？　ああいうのって家族が後を継ぐもんじゃ・・・・・・」

　「まあ、今時はそういう訳でもないだろうけどな。ただ、根本として資格がねぇんだよ。息子の方はな。」

　資格と言われて俺は首を傾げた。俺でも可能なのに資格など必要なのだろうか。

　乱丸は、「見えないんだよ。妖怪とかその類が」と自分の目を指さした。

　「代々のルールで見えない者には教えないんだと。まあ、俺らの世界じゃ見えないなんて事はありえないからわかんねぇけど、知らねぇ方が幸せって事もあるわな。」

　実際、妖怪が見えないなら極力、異常な事に関わらない方がいいというのは、確かにそうなのかもしれない。

　普通の暮らしが出来る事もそれはそれで幸せなのだ。常識の枠から外れてしまうというのは、ある意味では孤独なのだ。俺は、妖怪が知り合いにいるし、理解者がいる。

　見える人間からすれば半端者で、見えない人間からすれば、異常者だ。

　それは、確かに生きづらいだろう。

　「ん？　息子の方はって事は、もしかして、孫は見えるのか？」

　「ああ、ただ、あいつは・・・・・・だめだな。」

　乱丸は、笑いながらそう言った。笑う様な事があるのだろうか。

　「ん？　見える以外に資格がいるのか？」

　「いや、基本的にはない。だけど、あれは別次元だ。」

　言っている意味がわからず、呆然として居ると乱丸は、「会ったら分かる。」と言って篝さんのいる家に向かった。