咲かない桜

御伽 白

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4章

Part 312 『不死の呪い』

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 のたうち回る百足は、明らかに先ほどの様に動きが鈍くなった様子はない。しかし、瞼のないあのいくつもの瞳には刺激が強すぎた様子で何かを狙って暴れているわけではない様子だった。

 すぐに動けるのは自分しかいない。しかし、自分にはあの化物と戦うだけの技量がない。体を鍛えてはいてもこれだけ大きな相手は想定していない。

 戦闘として戦力にならないことは分かりきっている。ならば、やるべき行動は救助だ。

 俺は、百足が暴れるのを横目に見ながら乱丸たちの方へ急いだ。

 駆け寄った場所は、死の気配に満ちていた。熱線によって焼け焦げた木々や地面。周囲が充満する焦げ臭い香り。そして、近くで響く百足の暴れる音。

 それに少なからず恐怖を覚えながら気配を出来るだけ殺して乱丸に駆け寄った。

 「大丈夫か・・・・・・意識はあるか?」

 どうやら、血は出ていないので大きな怪我を負っている訳ではなさそうだった。しかし、体中に火傷の痕が出来ており、百足の魔法の強さがよく分かった。

 とっさに顔は守れたのか顔には火傷はほとんどなかった。しかし、背中の火傷は酷い。見るだけで痛々しいほどで風が吹いても痛そうなレベルだ。

 俺の声かけに乱丸はピクリと反応し、瞳を開け苛立ちを込めて呟いた。

 「・・・・・・いてぇ・・・・・・あの虫もどきが・・・・・・」

 悪態をつきながらゆっくりと起き上がると乱丸は、「・・・・・・魔石を食ってるなんて聞いてねぇぞ・・・・・・」と呟いた。

 そう言いながら乱丸は起き上がる。落ちている小刀を拾い上げると軽く振るった。

 「魔石を食うってどう言うことだ。」

 「そのまんまの意味だ。魔石を食うと強くなる。適合しない場合は死ぬけどな。姿が一致しないのはそのせいだろう。あいつ魔法が使えるとは思ってなかった。まだまだ未熟者だな。」

 そう言いながら乱丸はおぼつかない足取りでゆっくりと百足に近づいていく。

 「もしかして、まだ戦うつもりなのか?」

 「当たり前だろ。あれが街に出ればそれだけ被害が増える。あんな未知の生物が外に出ればパニックだ。仕方ない。おやっさんには悪いが始末する。生かしておくのは危険すぎる。」

 「・・・・・・無理だ。」

 俺たちの会話に割り込む様に篝さんが入ってくる。篝さんはどうやら火傷を免れた様で外傷はなく足取りもしっかりしていた。

 「あいつは天罰によって死ねない体になっている。死の呪いじゃ死なない。」

 篝さんの話に俺と乱丸は、この不死となった存在に呆然とした。死なないのならこれをどうやって止めればいいのかわからない。

 「だから10分。10分だけ時間をくれ。あいつを止められるのは俺だけだ。」
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