315 / 352
4章
Part 313『その迷いを断つ刀』
しおりを挟む
***
生きるとはなんだろうか。心臓が動き続けていれば、生きているのだろうか。
そんな問いかけをあの日からずっとしていた。
嫁が醜悪な肉の塊に変わってから俺はずっと考えていた。
動くこともままならず、餌を与えられそれを食べるだけの生き物。
言葉も解さずただ、漫然と日々を生きるだけ。
それで本当に嫁は生きているのだろうか。
このまま生き続けることが彼女の幸せなのだろうか。ただそこにあることが俺には幸せには思えなかった。
何度も何度も嫁を元の体に戻してやろうとした。けれど、天罰の力は呪術師の呪術よりも強く解除することが難しかった。
一度受けた神罰を解除する成功例は存在しなかった。不死の呪いなど希も希。そもそも情報が全くなかった。
ただ呪術のシステムは、根本は大きく変わらない。
より大きな代価を払えば、呪術は起動する。神が供物として欲しがる様な究極の一品を見せることが出来れば、呪術は成立し、嫁の姿を戻すことが出来るはずだ。
研鑽を積めばいつかは届くかもしれない。けれど、自分自身の寿命が持つ保証はない。
人間は老いる。時が経てば経つほどに体は動かなくなっていく。
自分には、あと何年残っているのだろうか。年をとるごとに焦燥感は増していく。
毎日毎日、作品を生み出しては失敗する。神罰を許される供物など自分に用意できるのだろうか。
そんな不安ばかりを抱え、作品作りに埋没していった。
自分は天才ではない。それはとうの昔に分かり切っていることだ。
天才であれば、こんな悩みなど閃きと技術で全て解決してしまうのだろう。
俺に出来ることは愚鈍にも技術を磨くことだけだ。俺はそれしか知らない。越えられない壁があれば越えられる様に努力し、乗り越える。
凡人は、壁を乗り越えるために石を積んで足場を高くする。
天才は、凡人と跳べる量が違うのだ。あるいは、積み上げる速度が段違いなのだ。
自分は出来なかったことが出来る様になるには、時間がかかる。
今の技術は、長年の努力によるものだ。
突然、才覚に目覚めて急激に技術が上達するなんてことはありはしない。
時間がかかるのは間違いない。嫁をこのままにはしておけない。
だから、いつかきちんと終わらせよう。
ーーーーーーーそう思っていた。
目の前には作りかけの俺の作品、そして、手には脱ぎ捨てられた弟子の服に入っていた短刀。
自分の将来、得る技術の可能性を一時的に自身に宿す妖刀。
「もう先延ばしには出来ないらしい。」
そう呟いた。自分でもどうするのが正しいのか分からなかった。だから作りながらも迷っていた。
そして、技術不足を遅延の理由にしていた。けれど、もう潮時だ。
勢いよく妖刀を自分自身に突き刺した。
***
生きるとはなんだろうか。心臓が動き続けていれば、生きているのだろうか。
そんな問いかけをあの日からずっとしていた。
嫁が醜悪な肉の塊に変わってから俺はずっと考えていた。
動くこともままならず、餌を与えられそれを食べるだけの生き物。
言葉も解さずただ、漫然と日々を生きるだけ。
それで本当に嫁は生きているのだろうか。
このまま生き続けることが彼女の幸せなのだろうか。ただそこにあることが俺には幸せには思えなかった。
何度も何度も嫁を元の体に戻してやろうとした。けれど、天罰の力は呪術師の呪術よりも強く解除することが難しかった。
一度受けた神罰を解除する成功例は存在しなかった。不死の呪いなど希も希。そもそも情報が全くなかった。
ただ呪術のシステムは、根本は大きく変わらない。
より大きな代価を払えば、呪術は起動する。神が供物として欲しがる様な究極の一品を見せることが出来れば、呪術は成立し、嫁の姿を戻すことが出来るはずだ。
研鑽を積めばいつかは届くかもしれない。けれど、自分自身の寿命が持つ保証はない。
人間は老いる。時が経てば経つほどに体は動かなくなっていく。
自分には、あと何年残っているのだろうか。年をとるごとに焦燥感は増していく。
毎日毎日、作品を生み出しては失敗する。神罰を許される供物など自分に用意できるのだろうか。
そんな不安ばかりを抱え、作品作りに埋没していった。
自分は天才ではない。それはとうの昔に分かり切っていることだ。
天才であれば、こんな悩みなど閃きと技術で全て解決してしまうのだろう。
俺に出来ることは愚鈍にも技術を磨くことだけだ。俺はそれしか知らない。越えられない壁があれば越えられる様に努力し、乗り越える。
凡人は、壁を乗り越えるために石を積んで足場を高くする。
天才は、凡人と跳べる量が違うのだ。あるいは、積み上げる速度が段違いなのだ。
自分は出来なかったことが出来る様になるには、時間がかかる。
今の技術は、長年の努力によるものだ。
突然、才覚に目覚めて急激に技術が上達するなんてことはありはしない。
時間がかかるのは間違いない。嫁をこのままにはしておけない。
だから、いつかきちんと終わらせよう。
ーーーーーーーそう思っていた。
目の前には作りかけの俺の作品、そして、手には脱ぎ捨てられた弟子の服に入っていた短刀。
自分の将来、得る技術の可能性を一時的に自身に宿す妖刀。
「もう先延ばしには出来ないらしい。」
そう呟いた。自分でもどうするのが正しいのか分からなかった。だから作りながらも迷っていた。
そして、技術不足を遅延の理由にしていた。けれど、もう潮時だ。
勢いよく妖刀を自分自身に突き刺した。
***
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
62
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる