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第1章
旅立ちの道標_1
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荒れ果てた村を後にし、フランシェスカとエリオットは広がる草原を歩いていた。夜明け前の空は薄紫色に染まり、静寂の中で鳥のさえずりが響いている。だが、二人の間には一切の会話がなかった。
エリオットは前を歩き、フランシェスカはその数歩後ろをついていく。青年の背中には何かを背負うような重みが感じられたが、彼女にはそれが何なのか分からない。ただ一つ確かなのは、彼の存在が村で感じた恐怖とは異なる、別種の威圧感を持っているということだった。
「……どこに向かっているの?」
耐え切れずにフランシェスカが声をかけると、エリオットは一瞬だけ振り返った。彼の目は相変わらず鋭く、まるで彼女の心の中を見透かしているようだった。
「まずは北の街、ラストールだ。そこには影喰らいの痕跡が残っているはずだ。」
「影喰らい……」
その言葉を聞いただけで、フランシェスカの胸がざわついた。自分の村を滅ぼした者たち、そしてその結果引き起こされたあの惨劇――その記憶が蘇る。
「どうして影喰らいを追うの?」
彼の足が止まり、振り返った。エリオットの顔には険しい表情が浮かんでいた。
「影喰らいを放置すれば、次に犠牲になるのは別の村だ。お前みたいに、すべてを失う人間が増えるだけだ。」
「……それでも、あなた一人で何ができるの?」
その問いにエリオットは鼻で笑った。
「俺一人じゃない。お前がいる。」
「えっ?」
フランシェスカは驚きのあまり立ち止まった。彼の言葉が何を意味するのか分からなかった。
「お前の力は見た。あの歌声は、人を殺し、影喰らいをも屈服させる。それが災厄だろうと何だろうと、俺にとっては武器になる。」
「そんな……!」
フランシェスカは首を横に振った。彼女の歌声は確かに影喰らいを倒したが、それと同時に村を破壊し、村人たちを傷つけた。その力を使って戦うなど、彼女には考えられない。
「私は、戦いたいわけじゃない! ただ、この歌が何なのかを知りたいだけ……!」
「その答えも見つかるさ。影喰らいを追えばな。」
エリオットはそう言い捨てて再び歩き出した。フランシェスカは呆然と立ち尽くしていたが、やがて仕方なくその背中を追った。
道中、エリオットはほとんど言葉を発しなかった。フランシェスカもまた、何を話せばいいのか分からず、ただ無言で歩き続けた。
日が高くなるにつれ、草原の空気が少しずつ暖かくなっていく。遠くには小さな村や川が見えたが、エリオットはそれらを無視して進んだ。
「休憩しないの……?」
フランシェスカがようやく声をかけると、エリオットは足を止め、周囲を見回した。
「そうだな。ここで少し休むか。」
彼は近くの木陰に腰を下ろし、腰に下げた水筒を取り出した。フランシェスカもその隣に座り、持っていたパンを取り出す。
「君は……その、旅をしているの?」
パンをちぎりながらフランシェスカが尋ねると、エリオットは少し間を置いて答えた。
「旅をしているというより、影喰らいを追っている。それが俺の目的だ。」
「どうして影喰らいを……?」
エリオットはフランシェスカの方を見ず、空を見上げたまま静かに答えた。
「……昔、俺の故郷も影喰らいに襲われた。俺は運良く助かったが、家族も友人も、全てを失った。」
その言葉には感情が込められていなかった。まるで、何度も繰り返してきた話をただ事実として述べているかのようだった。
「それから俺は剣を学び、影喰らいを追い続けている。奴らを根絶やしにするまで、俺の旅は終わらない。」
フランシェスカは彼の横顔を見つめた。彼の言葉には強い決意が感じられる一方で、どこか空虚さも漂っていた。
「……あなたは、復讐のために生きているの?」
その問いにエリオットは一瞬だけ目を細めたが、やがて微笑みを浮かべた。
「復讐だと思うか? まあ、そうかもしれないな。」
フランシェスカはその言葉に何も答えられなかった。ただ、彼の目に映る深い孤独が胸に刺さるように感じた。
休憩を終えた二人は再び歩き始めた。道中、フランシェスカは何度も自分の歌声のことを思い返していた。
「あの歌は、人を救えるのか。それとも破壊するだけなのか……」
心の中で何度も問いかけるが、答えは出ない。だが、エリオットと共に歩く中で、彼女は一つの決意を固めつつあった。
「もし、この歌声が誰かを救えるのなら……私は、それを見つけたい。」
その小さな決意が、やがて大きな運命を引き寄せることになるのだが、この時のフランシェスカはまだそれを知らない。
エリオットは前を歩き、フランシェスカはその数歩後ろをついていく。青年の背中には何かを背負うような重みが感じられたが、彼女にはそれが何なのか分からない。ただ一つ確かなのは、彼の存在が村で感じた恐怖とは異なる、別種の威圧感を持っているということだった。
「……どこに向かっているの?」
耐え切れずにフランシェスカが声をかけると、エリオットは一瞬だけ振り返った。彼の目は相変わらず鋭く、まるで彼女の心の中を見透かしているようだった。
「まずは北の街、ラストールだ。そこには影喰らいの痕跡が残っているはずだ。」
「影喰らい……」
その言葉を聞いただけで、フランシェスカの胸がざわついた。自分の村を滅ぼした者たち、そしてその結果引き起こされたあの惨劇――その記憶が蘇る。
「どうして影喰らいを追うの?」
彼の足が止まり、振り返った。エリオットの顔には険しい表情が浮かんでいた。
「影喰らいを放置すれば、次に犠牲になるのは別の村だ。お前みたいに、すべてを失う人間が増えるだけだ。」
「……それでも、あなた一人で何ができるの?」
その問いにエリオットは鼻で笑った。
「俺一人じゃない。お前がいる。」
「えっ?」
フランシェスカは驚きのあまり立ち止まった。彼の言葉が何を意味するのか分からなかった。
「お前の力は見た。あの歌声は、人を殺し、影喰らいをも屈服させる。それが災厄だろうと何だろうと、俺にとっては武器になる。」
「そんな……!」
フランシェスカは首を横に振った。彼女の歌声は確かに影喰らいを倒したが、それと同時に村を破壊し、村人たちを傷つけた。その力を使って戦うなど、彼女には考えられない。
「私は、戦いたいわけじゃない! ただ、この歌が何なのかを知りたいだけ……!」
「その答えも見つかるさ。影喰らいを追えばな。」
エリオットはそう言い捨てて再び歩き出した。フランシェスカは呆然と立ち尽くしていたが、やがて仕方なくその背中を追った。
道中、エリオットはほとんど言葉を発しなかった。フランシェスカもまた、何を話せばいいのか分からず、ただ無言で歩き続けた。
日が高くなるにつれ、草原の空気が少しずつ暖かくなっていく。遠くには小さな村や川が見えたが、エリオットはそれらを無視して進んだ。
「休憩しないの……?」
フランシェスカがようやく声をかけると、エリオットは足を止め、周囲を見回した。
「そうだな。ここで少し休むか。」
彼は近くの木陰に腰を下ろし、腰に下げた水筒を取り出した。フランシェスカもその隣に座り、持っていたパンを取り出す。
「君は……その、旅をしているの?」
パンをちぎりながらフランシェスカが尋ねると、エリオットは少し間を置いて答えた。
「旅をしているというより、影喰らいを追っている。それが俺の目的だ。」
「どうして影喰らいを……?」
エリオットはフランシェスカの方を見ず、空を見上げたまま静かに答えた。
「……昔、俺の故郷も影喰らいに襲われた。俺は運良く助かったが、家族も友人も、全てを失った。」
その言葉には感情が込められていなかった。まるで、何度も繰り返してきた話をただ事実として述べているかのようだった。
「それから俺は剣を学び、影喰らいを追い続けている。奴らを根絶やしにするまで、俺の旅は終わらない。」
フランシェスカは彼の横顔を見つめた。彼の言葉には強い決意が感じられる一方で、どこか空虚さも漂っていた。
「……あなたは、復讐のために生きているの?」
その問いにエリオットは一瞬だけ目を細めたが、やがて微笑みを浮かべた。
「復讐だと思うか? まあ、そうかもしれないな。」
フランシェスカはその言葉に何も答えられなかった。ただ、彼の目に映る深い孤独が胸に刺さるように感じた。
休憩を終えた二人は再び歩き始めた。道中、フランシェスカは何度も自分の歌声のことを思い返していた。
「あの歌は、人を救えるのか。それとも破壊するだけなのか……」
心の中で何度も問いかけるが、答えは出ない。だが、エリオットと共に歩く中で、彼女は一つの決意を固めつつあった。
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