わたくしは何も存じません

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
100 / 143
本編

100.信頼できない商人をどうするか

しおりを挟む
 商人の一時的な滞在は、許可が不要だ。そのため定住許可は出せないが、滞在は許された。騎士達はそれぞれに私服に着替えたり、配下の情報屋や衛兵を使って監視を始める。パブロ商会の本店移転計画は、ロイスナー公国にとって難しい問題だった。

 独立した国である以上、産業の発展は必須だ。以前のようにアードラー王国の一領地であれば、自領の発展だけを考えればよい。得意な分野を伸ばし、苦手な分野は他領を頼る方法が使えた。しかし、独立したなら話は別だ。

 頼る先が同じ国内ではなく、他国となる。交易となるため、税や国内産業の保護も絡んだ。何より、この地域は食糧の自給自足が難しい。山脈を背負った標高の高い地域であるため、年間を通して気温が低かった。主食の小麦が育ちにくいのだ。

 暖かな地方の平地ならば二毛作も可能だが、ロイスナー公国では無理だった。加えて、酪農により得た乳製品の出荷もある。清流が豊かなため、川魚や山菜も豊富だった。足りないのは小麦などの穀物になるが、そこで必要なのが信頼できる商会となる。

 他国との取引ルートを持ち、様々な商品を扱う大きな商会……条件としてはパブロ商会も該当する。ただ本店を移転したこと、情報を隠していること。ロイスナー公国のことを調べる間もなく急いでカペル共和国を離脱した事情が、セラノへの不信感として残った。

「ラファエルはどう思った?」

「僕なら……距離を置いて接する」

 信頼はしない。けれど、契約書で縛るならその部分に関しては信用してもいい。それがラファエルの判断だった。人を見定める目が確かだと仮定するなら、契約を破る悪人ではないが信頼できるほど誠実ではない。表現になるほどと頷いた。

 名乗らず騎士の振りで交じったヨーゼフも、似たような判断を下した。裏事情がわからぬうちは、手を組めない。アウグストは兄と甥の意見を尊重する方向で、見張りだけを命じた。

「妙な動きをしたら、対処して構わない」

 副官ヴィリにも権限を与え、緊急時の想定も行った。ようやく上司がまともに動き出したと安心した矢先、ヴィリはその期待を裏切られる。

「俺はガブリエルと出かけてくる」

「どちらへ?」

「ルイス王国だ」

 山脈を越えた向こう、普段は国交も交易もない国だ。大きな山脈と海に挟まれた細長い国だった。王国を名乗っているが、世襲制ではない。王は二十年に一度、国民に選ばれる不思議な制度があった。

「っ、なぜ!」

「ガブリエルが必要だと言ったからだ」

 驚いて固まる副官を残し、アウグストは馬首を屋敷へ向ける。夢でお告げを受けたのか、ガブリエルは母ミヒャエラに相談した。ルイス王国へ行きたい、その願いにアウグストが護衛に選ばれたのだ。厳しい山越えは無理なため、隣のゼークト王国経由で向かう。

「さて、せっかく姪と旅行だ。楽しんでくるとしようか」

 王城で騎士団長という枠に押し込められた窮屈な生活と真逆の、自由な旅を楽しもう。同じように王太子の婚約者という柵から解放されたガブリエルとともに。アウグストの胸は期待に満ちていた。
しおりを挟む
感想 242

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたは、知らなくていいのです

楽歩
恋愛
無知は不幸なのか、全てを知っていたら幸せなのか  セレナ・ホフマン伯爵令嬢は3人いた王太子の婚約者候補の一人だった。しかし王太子が選んだのは、ミレーナ・アヴリル伯爵令嬢。婚約者候補ではなくなったセレナは、王太子の従弟である公爵令息の婚約者になる。誰にも関心を持たないこの令息はある日階段から落ち… え?転生者?私を非難している者たちに『ざまぁ』をする?この目がキラキラの人はいったい… でも、婚約者様。ふふ、少し『ざまぁ』とやらが、甘いのではなくて?きっと私の方が上手ですわ。 知らないからー幸せか、不幸かーそれは、セレナ・ホフマン伯爵令嬢のみぞ知る ※誤字脱字、勉強不足、名前間違いなどなど、どうか温かい目でm(_ _"m)

第二王女と次期公爵の仲は冷え切っている

山法師
恋愛
 グレイフォアガウス王国の第二王女、シャーロット。  フォーサイス公爵家の次期公爵、セオドア。  二人は婚約者であるけれど、婚約者であるだけだった。  形だけの婚約者。二人の仲は冷め切っているし冷え切っている。  そもそも温度など、最初から存在していない。愛も恋も、友情も親しみも、二人の間には存在しない。  周知の事実のようなそれを、シャーロットもセオドアも否定しない。  お互いにほとんど関わりを持とうとしない、交流しようとしない、シャーロットとセオドアは。  婚約者としての親睦を深める茶会でだけ、顔を合わせる。  親睦を深める茶会だというのに、親睦は全く深まらない。親睦を深めるつもりも深める意味も、二人にはない。  形だけの婚約者との、形だけの親睦を深める茶会。  今日もまた、同じように。 「久しぶりに見る君が、いつにも増して愛らしく見えるし愛おしく思えて、僕は今にも天に召されそうなほどの幸福を味わっている。──?!」 「あたしのほうこそセオ様とお顔を合わせること、夢みたいに思ってるんですからね。大好きなセオ様を独り占めしているみたいに思えるんですよ。はっ?!」  顔を合わせて確認事項を本当に『確認』するだけの茶会が始まるはずが、それどころじゃない事態に陥った。  

自称病弱いとこを優先させ続けた婚約者の末路

泉花ゆき
恋愛
令嬢エルアナは、ヴィンセントという婚約者がいた。 しかし彼は虚言癖のあるいとこ、リリアンの嘘に騙されてエルアナとの大切な約束を破り続ける。 「すまない、リリアンが風邪を引いたらしくて……」 エルアナが過労で倒れても、彼はリリアンの元へ走り去る始末。 ついに重大な婚約披露パーティまでも欠席した彼に、エルアナは婚約者への見切りをつけた。 「さようなら、ヴィンセント」 縋りつかれてももう遅いのです。

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです

藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。 ――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。 妹は父の愛人の子。 身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、 彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。 婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、 当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。 一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。 だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。 これは、誰かが罰した物語ではない。 ただ、選んだ道の先にあった現実の話。 覚悟のなかった婚約者が、 自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。 *こちらは元の小説の途中に、エピソードを追加したものです。 文字数が倍になっています。

処理中です...