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本編
115.肉親の情を上回る憎しみの懺悔
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王弟ローマンは初めて、恐怖という感情を覚えた。なぜ襲われたのか、彼には理解できなかった。事情を説明されなかったこともある。治療を施したあと、誰もローマンに構わず、話さず、ただ静かに距離を置いた。
斬りつけられた肩が痛む。胸にかけて大きく切り裂かれた傷が、眠りや考えを阻害した。何をしても、しなくても、痛みが頭を支配する。と同時に、足元の地面が消えたような不安定さを覚えた。
王族として生まれ、何もかも恵まれている。誰かに傷つけられた記憶もない。それがどれほど周囲に守られた状態だったか、奇跡に近い平穏なのか。ようやく理解し始めていた。両親の愛情、兄の保護、立場と地位が盾として機能する。それらが失われたことに、震えるほどの恐怖と寒さを覚えた。
好き勝手してきたローマンが襲撃されたことは、驚きをもって王宮に広がった。だが、誰も同情はしない。傲慢に振る舞い、国のために働かない彼を気遣う貴族や使用人はいなかった。これこそが答えなのだ。だから襲撃した騎士に同情が集まり、人々は王弟の傷を自業自得と語る。
かつては無視し、踏み躙ってきた人々の感情が刃となり、ローマンの心に突き刺さった。心無い言葉は彼が示した無関心への仕返しのようだ。痛みに震えながら眠り、浅い眠りをかき集める。足りない休息をさらに削る人々の噂は、大きく成長した。
尾ひれ背びれを見せつけるように増やし、立派な尾をたなびかせる。雄大な姿で王宮を駆け巡る噂は、やがて事実になり替わろうと呑み込む仕草を見せた。
「新しい枢機卿がお見えです」
マルクス王の元に、シュテファンが就任の挨拶に訪れた。抑えようとしても広がる噂と追いかけっこする王の疲労を和らげようと、懺悔の時間を設ける。王宮内に作られた女神像の前で、国王マルクスは心情を吐露した。
出来のいい弟に追われた王子時代、王太子の座を掴んでもローマンの影が侵食してくる。ようやく追い払ったと思ったのに、他国へ干渉した証拠が発見され……隠しても噂はまき散らされた。新たな証拠や罪状が見つかる前に、さっさと処分したい。そんな本音が零れ出る。
ウテシュ王国の名を貶めるローマンへ、それでも兄である責任と感情が傾く。それが自分で許せなくて、母に頼まれた言葉に縛られる。まるで呪いのようだ、とマルクス王は嘆いた。
いっそコンツ王国の騎士に殺されればよかったとまで、口にする。生き残った以上、治療をしないわけにもいかない。処刑する運命が待っているのに……実の弟を殺す罪を背負うことになるのに。
我が子への譲位を行い、女神に仕える神職になり一生を終えたい。その言葉を聞きながら、シュテファンは当たり障りのない相槌を打った。
話し終えた王が落ち着くのを待って、一つ提案する。これは小さな布石だ。断られたら、次の手を打てばいい。追いかける必要はなかった。いくらでも手段は残されている。
「王弟殿下……いえ、ローマン様に懺悔の機会をお与えになってはいかがでしょうか」
微笑んだシュテファンの表情は、女神像によく似た印象をマルクス王に与えた。
斬りつけられた肩が痛む。胸にかけて大きく切り裂かれた傷が、眠りや考えを阻害した。何をしても、しなくても、痛みが頭を支配する。と同時に、足元の地面が消えたような不安定さを覚えた。
王族として生まれ、何もかも恵まれている。誰かに傷つけられた記憶もない。それがどれほど周囲に守られた状態だったか、奇跡に近い平穏なのか。ようやく理解し始めていた。両親の愛情、兄の保護、立場と地位が盾として機能する。それらが失われたことに、震えるほどの恐怖と寒さを覚えた。
好き勝手してきたローマンが襲撃されたことは、驚きをもって王宮に広がった。だが、誰も同情はしない。傲慢に振る舞い、国のために働かない彼を気遣う貴族や使用人はいなかった。これこそが答えなのだ。だから襲撃した騎士に同情が集まり、人々は王弟の傷を自業自得と語る。
かつては無視し、踏み躙ってきた人々の感情が刃となり、ローマンの心に突き刺さった。心無い言葉は彼が示した無関心への仕返しのようだ。痛みに震えながら眠り、浅い眠りをかき集める。足りない休息をさらに削る人々の噂は、大きく成長した。
尾ひれ背びれを見せつけるように増やし、立派な尾をたなびかせる。雄大な姿で王宮を駆け巡る噂は、やがて事実になり替わろうと呑み込む仕草を見せた。
「新しい枢機卿がお見えです」
マルクス王の元に、シュテファンが就任の挨拶に訪れた。抑えようとしても広がる噂と追いかけっこする王の疲労を和らげようと、懺悔の時間を設ける。王宮内に作られた女神像の前で、国王マルクスは心情を吐露した。
出来のいい弟に追われた王子時代、王太子の座を掴んでもローマンの影が侵食してくる。ようやく追い払ったと思ったのに、他国へ干渉した証拠が発見され……隠しても噂はまき散らされた。新たな証拠や罪状が見つかる前に、さっさと処分したい。そんな本音が零れ出る。
ウテシュ王国の名を貶めるローマンへ、それでも兄である責任と感情が傾く。それが自分で許せなくて、母に頼まれた言葉に縛られる。まるで呪いのようだ、とマルクス王は嘆いた。
いっそコンツ王国の騎士に殺されればよかったとまで、口にする。生き残った以上、治療をしないわけにもいかない。処刑する運命が待っているのに……実の弟を殺す罪を背負うことになるのに。
我が子への譲位を行い、女神に仕える神職になり一生を終えたい。その言葉を聞きながら、シュテファンは当たり障りのない相槌を打った。
話し終えた王が落ち着くのを待って、一つ提案する。これは小さな布石だ。断られたら、次の手を打てばいい。追いかける必要はなかった。いくらでも手段は残されている。
「王弟殿下……いえ、ローマン様に懺悔の機会をお与えになってはいかがでしょうか」
微笑んだシュテファンの表情は、女神像によく似た印象をマルクス王に与えた。
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