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本編
131.様子のおかしな二人を引き離す
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男性が青ざめ「シェンデル公爵閣下……」と呟く。その様子に、女性も冷静になったようだ。俯いて申し訳なさそうに頭を下げた。
「おじい様、叔父様。私も無事ですし……そんなに怒らないで」
「そうはいかん。ロイスナー公女殿下の御前で、シェンデル公爵夫妻の晩餐を台無しにした貴族を放置すれば、ゼークト王国の恥となる」
居並ぶ貴族が慌てて立ち上がった。紹介されなければ、互いに挨拶は不要だ。私的な場面で、夜会のように長々と挨拶するほうが無礼に当たる。そのためこの店に来た貴族達は、シェンデル公爵夫妻に気づきながらも騒がなかった。
だが、人前で名乗った以上は貴族として礼を尽くさねばならない。令嬢や夫人が足を引いてカーテシーを披露し、同行した紳士達も目上への礼を行った。
「構わん、そなたらは楽にせよ」
軽く手を振り、それ以上の挨拶は要らないと示した祖父の表情に、ガブリエルは困ったわねと肩を落とした。祖母クラーラも「あらやだ、珍しく本気ね」と苦笑いする。厳しい祖父だが、高位貴族らしく鷹揚に振る舞ってきた。
あのまま、カップルの口喧嘩で終われば何もしない。けれど、隣国の公女であるガブリエルに危害が及ぶ形で、騒動が大きくなった。もしアウグストが動かなければ? 動いても何かを被っていたら。この程度の怒りでは済まなかっただろう。
「正式な抗議はしないが……ロイスナー公国への出入りはご遠慮いただくとしよう。我が国で問題を起こされては困るからな」
名乗らず言い切った叔父様の正体に気づき、カップルの顔色が青を通り越して白くなっていく。公女ガブリエルが「叔父」と呼称したなら、かつてアードラー王国騎士団長を務めた人物だと気づくはずだ。ロイスナー公国の貴族は八家、その筆頭であるバーレ侯爵の名は広まっていた。
情報に疎ければ、貴族として致命傷だ。たとえ偽情報であっても、早く手に入れて真偽を改める必要がある。彼らとて貴族なら、この状況の拙さが理解できるはず。
「お許しください。私が彼とこのような場で言い争わず、大人しくしていればよかったのです」
女性が震えながら膝をつき、祈りの姿勢を取った。上位者へ詫びる際にも使われる姿勢だが、ガブリエルが反応した。アウグストの袖を引き、彼女の腕の痣を示す。目配せで知らせ、頷きで動いた。
「彼女は預かろう。その男は帰ってよい」
アウグストの厳しい声に、男は悲鳴を上げて逃げて行った。呆れるほどの逃げ足の速さで、振り返りさえしない。
「ふん。店主よ。今夜の席代や損害はシェンデル公爵家へ請求せよ」
店に集まった客の分は迷惑料として払う。そう言い放ち、割れた食器を避けて歩き出した。ほとんど食事は終わっている。ただ……ガブリエルは出口で店の中を振り返った。一礼して、最後に厨房のほうへ目を向ける。
デザートも食べたかったわ。その呟きは声に出されることなく、呑み込まれて消えた。
「おじい様、叔父様。私も無事ですし……そんなに怒らないで」
「そうはいかん。ロイスナー公女殿下の御前で、シェンデル公爵夫妻の晩餐を台無しにした貴族を放置すれば、ゼークト王国の恥となる」
居並ぶ貴族が慌てて立ち上がった。紹介されなければ、互いに挨拶は不要だ。私的な場面で、夜会のように長々と挨拶するほうが無礼に当たる。そのためこの店に来た貴族達は、シェンデル公爵夫妻に気づきながらも騒がなかった。
だが、人前で名乗った以上は貴族として礼を尽くさねばならない。令嬢や夫人が足を引いてカーテシーを披露し、同行した紳士達も目上への礼を行った。
「構わん、そなたらは楽にせよ」
軽く手を振り、それ以上の挨拶は要らないと示した祖父の表情に、ガブリエルは困ったわねと肩を落とした。祖母クラーラも「あらやだ、珍しく本気ね」と苦笑いする。厳しい祖父だが、高位貴族らしく鷹揚に振る舞ってきた。
あのまま、カップルの口喧嘩で終われば何もしない。けれど、隣国の公女であるガブリエルに危害が及ぶ形で、騒動が大きくなった。もしアウグストが動かなければ? 動いても何かを被っていたら。この程度の怒りでは済まなかっただろう。
「正式な抗議はしないが……ロイスナー公国への出入りはご遠慮いただくとしよう。我が国で問題を起こされては困るからな」
名乗らず言い切った叔父様の正体に気づき、カップルの顔色が青を通り越して白くなっていく。公女ガブリエルが「叔父」と呼称したなら、かつてアードラー王国騎士団長を務めた人物だと気づくはずだ。ロイスナー公国の貴族は八家、その筆頭であるバーレ侯爵の名は広まっていた。
情報に疎ければ、貴族として致命傷だ。たとえ偽情報であっても、早く手に入れて真偽を改める必要がある。彼らとて貴族なら、この状況の拙さが理解できるはず。
「お許しください。私が彼とこのような場で言い争わず、大人しくしていればよかったのです」
女性が震えながら膝をつき、祈りの姿勢を取った。上位者へ詫びる際にも使われる姿勢だが、ガブリエルが反応した。アウグストの袖を引き、彼女の腕の痣を示す。目配せで知らせ、頷きで動いた。
「彼女は預かろう。その男は帰ってよい」
アウグストの厳しい声に、男は悲鳴を上げて逃げて行った。呆れるほどの逃げ足の速さで、振り返りさえしない。
「ふん。店主よ。今夜の席代や損害はシェンデル公爵家へ請求せよ」
店に集まった客の分は迷惑料として払う。そう言い放ち、割れた食器を避けて歩き出した。ほとんど食事は終わっている。ただ……ガブリエルは出口で店の中を振り返った。一礼して、最後に厨房のほうへ目を向ける。
デザートも食べたかったわ。その呟きは声に出されることなく、呑み込まれて消えた。
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