わたくしは何も存じません

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

139.それでも兄であり弟だ

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 双子は感情や体調が互いに影響しあう。不思議な共鳴現象が有名だった。ネロとミロの間にも共鳴は発生し、熱を出したネロのぼんやりした思考はミロにも伝染する。怠くて動く気力がない。それでも外で声を上げ、指揮をする兄の声は聞こえていた。

 体調が悪いだけでもつらいのに、加えての足止め。食料や水の不足、狭い馬車での寝起きは苦痛に思えた。窓の外をぼんやりと見るミロの目に、騎士が服を泥だらけにして岩を動かす姿が映った。あんな必死になって……と眉を寄せる。

 騎士たるものの仕事ではない。それでも汗を流し、状況を改善しようとする姿から目が逸らせなかった。その中に、シャツ姿の兄が交じる。王太子という肩書きに驕らず、騎士と一緒に瓦礫を避けて岩を押していた。

「兄上はどうして……」

 ぽつりと呟くミロは、怠さに溜め息を吐いた。ゆっくり視線を動かし、寝込んで動けないネロを見つめる。昨夜から少し、呼吸が楽になったらしい。激しい咳やくしゃみも一段落し、熱もやや下がった。

 取り留めなく視線をさまよわせるミロの耳に、ノックの音が聞こえる。首を傾げた先で、兄テオパルトが水の入った水筒を振った。持ってきてくれたのだろう。扉を開ければ「失礼するぞ」と馬車に乗り込む。

 吹き込んだ風に、ネロがぶるりと身を震わせた。すると扉を閉め、抱えた上着をネロの上にかける。それはテオパルトが眠る際に使っていた、自分の上着だった。

「熱はまだ下がらないみたいだな。大丈夫だ、必ず城に連れ帰る。つらいだろうが我慢してくれ」

 笑顔で干し肉と水筒を置く。ミロはぶるりと身を震わせた。己の手は汚れていない。目の前の兄は爪も割れて黒い土が食い込んでいた。岩を押して、引っ張って……泥にまみれて一日動いたのに。

「どうして、文句を言わないの?」

 俺達はここで役立たずとして閉じこもっているのに、なぜ何も言わない。引きずり出して働かせればいい。口減らしで処分すればいい。病にかかった弟と動かない弟、どちらも足手纏いのはずだ。

 ぽつりと零れた声に、様々な感情が滲んだ。ミロの苦しそうな表情に、テオパルトは気持ちが穏やかになるのを感じた。やはり昔と同じだ。この子は冷たくなりきれない。悪事の方法を覚えても、使う前に躊躇する……いや、躊躇させる重石になるのが兄としての務めだろう。

「私が文句を言ったら、騎士が不安になる。それにな……兄は弟を守るものだ。王太子だからじゃないぞ? ネロとミロの兄だからな」

 ぽんと頭の上に手を置いて揺らす。撫でるより強い動きに、ミロはくしゃりと顔を歪めた。なぜだか涙がこぼれそうで、そんな自分が許せない。鼻の奥がツンと痛んだ。

「国を壊すより、作るほうが何倍も大変だ。今もそうだろう? 落石は一瞬で、復旧は大変な時間を要する。だからこそ、本気で取り組むんだ。楽なほうへ逃げるのは、カッコ悪いからな。私にはできん」

 現場のことになぞらえて、自分達の話をしている。ミロはそう受け取った。そして共鳴反応でネロにも……同じ思いが流れ込む。

 世界はそこまで暗くない。そう知らせるように、テオパルトは明るく笑ってみせた。
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