わたくしは何も存じません

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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本編

141.意地と覚悟と決断

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 救出された王子と騎士は、すぐにアルバロの街へ運ばれた。さすがに往路で使った荷馬車は申し訳ないと訴える領主に、テオパルトは笑顔で首を横に振る。

「弟の熱が下がらない。医者に見せたいので、優先してくれないか? 我が儘ですまない」

 王太子であるテオパルトに「我が儘」とまで言われたら、断り切れない。領主は精いっぱいのもてなしをして送り出した。クッションや毛布の代わりになる物をかき集め、すぐ食べられるものと一緒に手渡す。農夫の半数は戻るため、彼らも馬車に同行した。

 そもそも荷馬車は速度が出ない。歩いて移動する農民と大差なく、馬車の足手纏いにはならなかった。人が大勢移動することで、獣も避けてくれる。領主の気遣いに感謝しながら、大半の騎士達も馬車に乗った。並んだ荷馬車二台は街の門をくぐり、領主の館へ向かう。

 すぐに医者が手配され、ネロは手厚い看護を受けた。王城へも使いが出され、迎えの準備が始まる。と同時に、騎士達も身なりを整えて休息をとった。柔らかなベッド、温かい食事、安心して眠れる環境。わずか数日の不自由で、その大切さを身に沁みて理解する。

 残った領主は、様々な指揮を執っていた。土木の親方に、できる限り早く馬が通れる幅に広げてほしいと訴える。その理由は、向こう側にいる軍馬の存在だった。育てるのに金と時間がかかる軍馬は、騎士の相棒だ。一部の騎士がこの場に残った理由は、軍馬を回収するためでもある。

 単に戦力や財産というだけでなく、戦場で命を預ける仲間だ。数時間かけて水を運び、馬たちの汚れた体を洗った。たっぷりと水を飲ませ、運んだ藁を敷き詰める。幸い草食なので、餌は街道沿いに残った草で足りた。

 甲斐甲斐しく世話を焼く騎士の様子に、親方はぐしゃりと髪をかき回し……にやりと笑った。

突貫とっかん工事だから多少粗いが、何とかしてやる」

 その言葉通り、土木作業は日が昇って暮れるまで続き、わずか二日で軍馬の通れる幅を確保した。物流の要である馬車が通れるのは数週間先だ。それでも希望の道は通った。




 青白い狼煙を受けた国境の街でも、落石と瓦礫の除去が始まっていた。巻き込まれた可能性があるのは、二組。そのどちらも無事であるよう祈りながら、掘り進める。通れるほどの幅を確保するまで二週間かかった。

 ここが運命の分かれ道だ。もし、王子達が国境側へ戻ろうとしたなら……アルバロ側の数倍規模の崩落を相手にする必要があった。前に進むことを選び、商人による通報があったから命を拾ったのだ。

 この選択は王太子テオパルトの今後を示すうえでも、重要な決断となった。弟達を切り捨てない、前に進む。その覚悟が、傾くウテシュ王国をぎりぎりのところで支える楔となった。
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