【完結】うたかたの夢

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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「オレのミスだ」

 反論を遮る。

 先ほど、病院で警察関係者から聞いた。サリエルを刺した犯人は、数時間前に会った車の運転手――ある組織の構成員で、チンピラ紛いの男だ。飛び出したタカヤを庇ったサリエルに、人前で恥をかかされたと騒いでいるらしい。

「オレがちゃんと避けてりゃ、タカヤに心配させることもなかったんだからな」

「そんなことない」

「この件はおしまい、もう寝ようぜ」

 さっさと話を打ち切ったのは、これ以上タカヤに自分を責めて欲しくないからだ。

 ちゅっと額にキスを落とし、笑顔で促せば……おずおずと手が伸ばされる。それを受け止めて寝室へ向かった。

 肩にケガをしていなければ、抱き上げて移動できたんだけど。残念と嘆くサリエルの隣に滑り込み、タカヤはぎゅっと三つ編みの先を握った。病院でシャワーを貸してもらっていたので、ガウンに着替えたサリエルは、タカヤを抱き寄せて目を閉じる。

 いつもと同じ天井、同じベッド、同じ部屋……なのに、隣にタカヤがいる。それが嬉しくて、嬉しく思う自分を笑いながら「おやすみ」と囁かれた声に「おやすみ」と答えた。






 高価なスーツに袖を通しながら、サリエルは溜め息をついた。食事を終えたタカヤは、ソファでクッションを抱き締めている。昼頃に起きてから一緒に過ごしたが、外の景色は夜色に塗り替えられた。

 そろそろ出勤の時間だ。

「じゃ、行ってくるから」

 仕事だと理解しているから「行かないで」とは言えず、ただ無言でサリエルの後ろについてくる。玄関で振り向いたサリエルの三つ編みを握り、じっと上目遣いに見上げた。

 この部屋に1人で残される心細さはない。昨日のケガもあるし、休んで欲しいのに。タカヤの蒼い眼差しから読み取った心配に、嬉しくなって身を屈めた。

 少し視線の低いタカヤの瞼に、キスを落とす。反射的に目を閉じたタカヤが、驚いたように瞬いた。

「大丈夫、もうケガしたりしない。出来るだけ早く帰るから、ここで待ってて欲しいんだ」

 軽い口調で告げたが、後半はかなり切実な願いだった。豪華なだけで寒い部屋も、タカヤが待って居てくれれば『帰る場所』になる。

 それに心配でもあった。

 あの事件以来、ずっとタカヤを探してきたのに会えなかった。もし、この部屋からいなくなってしまったら……もう二度と会えないのではないか? そんな漠然とした、根拠のない不安が足元から這い上がってくる。

「お願い」

 顔の前で両手を合わせて拝む仕草をすれば、くすっと笑ったタカヤが頷いてくれた。握っていた三つ編みを離し、名残惜しそうにサリエルを見上げる。

「キスしていい?」

 聞いてしまったのは、何故だろう。

 黙って目を閉じて顔を上に向けたタカヤの整った顔を、そっと手で包み込んで唇に触れた。舌を絡めるでもない、触れるだけの優しいキス――。

「行って来ます」

「気を付けて……」

 見送ってくれる存在の有難さを噛み締めながら、サリエルはドアを閉めた。振り返ると出勤が嫌になるだろうと、彼は一度も立ち止まらずドアも見ない。だから、サリエルは知らなかった。

 エレベーターに乗る直前に、そっとドアが開いた事を……。
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