【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
18 / 112

17.精霊の予言だからね――SIDEヴィル

しおりを挟む
 ローザリンデ嬢は無事戻れただろうか。見上げた月の青白い光に目を細める。段々と制約が増える中で、今回は結婚式まで戻すのがやっとだった。次の機会はもう来ないだろう。

 失った右目が疼く。まだ塞がり切らぬ傷が痛みを訴えていた。対価はもう支払われている。今度こそ、彼女は幸せを掴めるといいが……。

『そんなに願うなら、君が奪えばいいのに』

 ふわりと頬を撫でる精霊の言葉に、首を横に振った。

「ダメだよ、僕はもう完璧じゃない。初めて出会った頃ならともかく、今はあれもこれも足りないガラクタだからね」

 怒りを含んだ冷たい風が頬を掠める。切れたかと思うほど、鋭い冷気に彼の怒りを感じた。申し訳ない言い方をしてしまったな。

「悪かった。もう言わない」

『全部なかったことにして、元に戻したら返ってくるよ』

「それはしない」

 失敗したことも含めて、僕の愛したあの子なんだ。この命を賭ければ、もう一回くらいはチャンスをあげられるさ。そう呟いた僕に、精霊は悲しそうに呟いた。

『君とあの子が一緒になればいいんだよ。それで幸せな物語は終わる』

「してはいけないんだ。過去と未来に介入するなんて、人のすることじゃない」

 自分が行った呪術を棚に上げて、僕は普通の人のように振る舞う。僕の持つ力や体の一部を対価に、時を操った。それも一回ではなく、何度も。

 左腕に宿る魔力と引き換えに、放置され餓死したあの子を救った。巻き戻せたのは結婚式の2年前。やり直した彼女のために、アンネという侍女の運命を変えた。お陰で餓死はないが、今度は離れに火を放たれる。運命を弄ったせいだろう。より苦しい死に方をさせてしまった。

 後悔から僕は右目を捧げた。過去と未来を見通すと言われた瞳を対価に、もう一度だけやり直しを求める。これが最後だ。もし失敗するなら、次は僕の命を懸けることになるだろう。もう失敗しても助けてあげられなくなるのが辛かった。ただ幸せになって欲しいだけなのに……ね。

『ヴィクトール。君が動かないなら、僕らが動くよ』

「やめろ! 消滅してしまうぞ」

『それでも君が幸せにならない未来なんて、僕らは認めない』

 親友でもある精霊の言葉に、ぽろりと涙が溢れた。左頬を伝う温かな涙が、唇の端を掠めて顎へ流れる。それを乱暴に拭った。

「わかった。君達を失うくらいなら、僕は潔く振られてくるよ」

 降参だと笑った僕の頬に残る涙を、精霊は優しく手のひらで受け止めた。くすくす笑いながら、こっそりと囁く。

『あの子は君に相応しい。だから安心していいよ。これは精霊の予言だからね』

 違えることがない精霊の予言を使った親友に頷き、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。部屋の隅に置かれた姿見の布を、覚悟を決めて取り払った。右目は疼くが包帯や眼帯で隠せる。顔に目立つ大きな傷はないし、見た目で怖がられる要素はないはず。身長は高い方だが、細身なので威圧感は少ないと思う。あれこれと己の容姿を確認し、久しぶりに見た鏡に微笑みかけた。

「この顔で問題ないか?」

『僕らの基準だと美しいけど、人間はもっと繊細な顔立ちを好むらしいね。でもあの子は君の内面を愛してくれるさ』

 親友の太鼓判に肩の力を抜いた。受け入れられず振られるとしても、告白の勇気をくれた親友に恥じる言動はしない。そう心に決めて、暗く静かな屋敷の扉を開いた。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

完結  やっぱり貴方は、そちらを選ぶのですね

ポチ
恋愛
卒業式も終わり 卒業のお祝い。。 パーティーの時にソレは起こった やっぱり。。そうだったのですね、、 また、愛する人は 離れて行く また?婚約者は、1人目だけど。。。

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。 結婚だってそうだった。 良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。 夫の9番目の妻だと知るまでは―― 「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」 嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。 ※最後はさくっと終わっております。 ※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...