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54.あれが求婚だったなんて言わせない
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「ローザは確かに君の婚約者だった時期がある。結婚式も挙げたが、問題はここからだ。国王と教皇の名において、結婚式は無効となった。わかるか?」
驚いた顔を見せるレオナルドが、見開いた目を国王陛下に向ける。神妙に頷いて見せる陛下が付け足した。
「ローザリンデ嬢には事情があった。令嬢が高額の金銭で売買されるのは、貴族社会の崩壊を招く。奴隷の娘が何らかの貴族家を騙り、没落しかけた高位貴族の爵位を買うようなことがあれば……どうなる?」
まるで実例があったような言い方をする陛下に、集まった貴族達はざわめいた。それからお互いの素性を確かめるように、近くにいる貴族令嬢や子息、夫人の顔を確認する。知っている貴族家の特徴を持っているか、同じ髪や瞳の色をしているか。疑い出せば、誰もが足下を心配しなければならなかった。
何も知らぬ己の子や孫が、騙される可能性に怯える。滑稽なことだわ。今まで心配したこともなかったなんて。養子や養女ならば出自を調べるけれど、実子として登録されたら信じてしまう。身がない殻だけの貴族らしい考え方ね。
「今回は違います!」
必死で訴えるレオナルドに、しらけた視線が集まる。それでも彼は引かなかった。
「ローザリンデはアウエンミュラーの本家筋。その特徴も、親からの系図も間違いなく」
「だから購入したのか?」
冷たい声でヴィルが切り裂く。そのくせ、気遣うように私の手や腰を撫でる手は温かった。実際売られたのだから、傷ついたりしないわ。顔を上げて微笑んでみせる。
「ちがっ」
「ならば、領地の収入の2割も払って妻を娶るのはなぜだ。この国では妻が持参金を払うはずだが?」
ウーリヒ王国の慣わしのひとつ。嫁ぐ方が、お金を持参する。その額によって、婚家での今後の扱いに差が出ることもあると聞いた。どうしてもと請われた場合は別よ。でも私は請われていない。
「私が惚れたから、彼女に求婚……」
「あの下賎な守銭奴の目の前に金を積み、娘を寄越せと仰った。あれが求婚でしたの?」
我慢できなくて口を挟んでしまう。刺々しい口調と声は、怒りのあまり震えることもなかった。
「ローザ、俺の可愛い人。そんなに怒ると体に悪い」
意味ありげに腹を撫でる。ヴィルはわざと誤解されるように振る舞った。結婚前に婚約者と体の関係を持つことは出来る。ただ婚約は解消される可能性があるため、恋愛結婚以外では滅多になかった。恋愛での婚約ならば、邪魔が入らないよう結婚前に純潔を散らすこともあるのだ。
「ありがとう、ヴィル」
私達は嘘は言っていない。ただ誤解するよう誘導しただけ。青ざめたレオナルドに、ヴィルが続きを告げた。
「ローザは人身売買で奪われたが、俺が取り戻した。純潔は侍女の証言もあり、教会も証明した」
ざわりと人々の好奇の目が向けられる。怯む気はない。顔を上げて、シャルロッテ様と頷き合った。
「結婚は無効、純潔、何より彼女はアウエンミュラー侯爵となった。その意味をよく考えろ」
純潔を繰り返して潔白の被害者を強調したヴィル。荒療治だけど、構わないわ。私はヴィルのお嫁さんになる。もう嫁ぎ先も決まっている以上、醜聞を気にする必要はないんだもの。だって、醜聞を口にしたヴィルが私を守るから。
驚いた顔を見せるレオナルドが、見開いた目を国王陛下に向ける。神妙に頷いて見せる陛下が付け足した。
「ローザリンデ嬢には事情があった。令嬢が高額の金銭で売買されるのは、貴族社会の崩壊を招く。奴隷の娘が何らかの貴族家を騙り、没落しかけた高位貴族の爵位を買うようなことがあれば……どうなる?」
まるで実例があったような言い方をする陛下に、集まった貴族達はざわめいた。それからお互いの素性を確かめるように、近くにいる貴族令嬢や子息、夫人の顔を確認する。知っている貴族家の特徴を持っているか、同じ髪や瞳の色をしているか。疑い出せば、誰もが足下を心配しなければならなかった。
何も知らぬ己の子や孫が、騙される可能性に怯える。滑稽なことだわ。今まで心配したこともなかったなんて。養子や養女ならば出自を調べるけれど、実子として登録されたら信じてしまう。身がない殻だけの貴族らしい考え方ね。
「今回は違います!」
必死で訴えるレオナルドに、しらけた視線が集まる。それでも彼は引かなかった。
「ローザリンデはアウエンミュラーの本家筋。その特徴も、親からの系図も間違いなく」
「だから購入したのか?」
冷たい声でヴィルが切り裂く。そのくせ、気遣うように私の手や腰を撫でる手は温かった。実際売られたのだから、傷ついたりしないわ。顔を上げて微笑んでみせる。
「ちがっ」
「ならば、領地の収入の2割も払って妻を娶るのはなぜだ。この国では妻が持参金を払うはずだが?」
ウーリヒ王国の慣わしのひとつ。嫁ぐ方が、お金を持参する。その額によって、婚家での今後の扱いに差が出ることもあると聞いた。どうしてもと請われた場合は別よ。でも私は請われていない。
「私が惚れたから、彼女に求婚……」
「あの下賎な守銭奴の目の前に金を積み、娘を寄越せと仰った。あれが求婚でしたの?」
我慢できなくて口を挟んでしまう。刺々しい口調と声は、怒りのあまり震えることもなかった。
「ローザ、俺の可愛い人。そんなに怒ると体に悪い」
意味ありげに腹を撫でる。ヴィルはわざと誤解されるように振る舞った。結婚前に婚約者と体の関係を持つことは出来る。ただ婚約は解消される可能性があるため、恋愛結婚以外では滅多になかった。恋愛での婚約ならば、邪魔が入らないよう結婚前に純潔を散らすこともあるのだ。
「ありがとう、ヴィル」
私達は嘘は言っていない。ただ誤解するよう誘導しただけ。青ざめたレオナルドに、ヴィルが続きを告げた。
「ローザは人身売買で奪われたが、俺が取り戻した。純潔は侍女の証言もあり、教会も証明した」
ざわりと人々の好奇の目が向けられる。怯む気はない。顔を上げて、シャルロッテ様と頷き合った。
「結婚は無効、純潔、何より彼女はアウエンミュラー侯爵となった。その意味をよく考えろ」
純潔を繰り返して潔白の被害者を強調したヴィル。荒療治だけど、構わないわ。私はヴィルのお嫁さんになる。もう嫁ぎ先も決まっている以上、醜聞を気にする必要はないんだもの。だって、醜聞を口にしたヴィルが私を守るから。
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