【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
55 / 112

54.あれが求婚だったなんて言わせない

しおりを挟む
「ローザは確かに君の婚約者だった時期がある。結婚式も挙げたが、問題はここからだ。国王と教皇の名において、結婚式は無効となった。わかるか?」

 驚いた顔を見せるレオナルドが、見開いた目を国王陛下に向ける。神妙に頷いて見せる陛下が付け足した。

「ローザリンデ嬢には事情があった。令嬢が高額の金銭で売買されるのは、貴族社会の崩壊を招く。奴隷の娘が何らかの貴族家を騙り、没落しかけた高位貴族の爵位を買うようなことがあれば……どうなる?」

 まるで実例があったような言い方をする陛下に、集まった貴族達はざわめいた。それからお互いの素性を確かめるように、近くにいる貴族令嬢や子息、夫人の顔を確認する。知っている貴族家の特徴を持っているか、同じ髪や瞳の色をしているか。疑い出せば、誰もが足下を心配しなければならなかった。

 何も知らぬ己の子や孫が、騙される可能性に怯える。滑稽なことだわ。今まで心配したこともなかったなんて。養子や養女ならば出自を調べるけれど、実子として登録されたら信じてしまう。身がない殻だけの貴族らしい考え方ね。

「今回は違います!」

 必死で訴えるレオナルドに、しらけた視線が集まる。それでも彼は引かなかった。

「ローザリンデはアウエンミュラーの本家筋。その特徴も、親からの系図も間違いなく」

「だから購入したのか?」

 冷たい声でヴィルが切り裂く。そのくせ、気遣うように私の手や腰を撫でる手は温かった。実際売られたのだから、傷ついたりしないわ。顔を上げて微笑んでみせる。

「ちがっ」

「ならば、領地の収入の2割も払って妻を娶るのはなぜだ。この国では妻が持参金を払うはずだが?」

 ウーリヒ王国の慣わしのひとつ。嫁ぐ方が、お金を持参する。その額によって、婚家での今後の扱いに差が出ることもあると聞いた。どうしてもと請われた場合は別よ。でも私は請われていない。

「私が惚れたから、彼女に求婚……」

「あの下賎な守銭奴の目の前に金を積み、娘を寄越せと仰った。あれが求婚でしたの?」

 我慢できなくて口を挟んでしまう。刺々しい口調と声は、怒りのあまり震えることもなかった。

「ローザ、俺の可愛い人。そんなに怒ると体に悪い」

 意味ありげに腹を撫でる。ヴィルはわざと誤解されるように振る舞った。結婚前に婚約者と体の関係を持つことは出来る。ただ婚約は解消される可能性があるため、恋愛結婚以外では滅多になかった。恋愛での婚約ならば、邪魔が入らないよう結婚前に純潔を散らすこともあるのだ。

「ありがとう、ヴィル」

 私達は嘘は言っていない。ただ誤解するよう誘導しただけ。青ざめたレオナルドに、ヴィルが続きを告げた。

「ローザは人身売買で奪われたが、俺が取り戻した。純潔は侍女の証言もあり、教会も証明した」

 ざわりと人々の好奇の目が向けられる。怯む気はない。顔を上げて、シャルロッテ様と頷き合った。

「結婚は無効、純潔、何より彼女はアウエンミュラー侯爵となった。その意味をよく考えろ」

 純潔を繰り返して潔白の被害者を強調したヴィル。荒療治だけど、構わないわ。私はヴィルのお嫁さんになる。もう嫁ぎ先も決まっている以上、醜聞を気にする必要はないんだもの。だって、醜聞を口にしたヴィルが私を守るから。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください

LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。 伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。 真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。 (他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…) (1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有
恋愛
調合魔法を扱う私エミリーのポーションは有名で、アシェル王子との婚約が決まるほどだった。 その後、聖女キアラを婚約者にしたかったアシェルは、私に「代わりはいる」と婚約破棄を言い渡す。 元婚約者と家族が嫌になった私は、家を出ることを決意する。 代わりはいるのなら問題ないと考えていたけど、代わりはいなかったようです。

完結  やっぱり貴方は、そちらを選ぶのですね

ポチ
恋愛
卒業式も終わり 卒業のお祝い。。 パーティーの時にソレは起こった やっぱり。。そうだったのですね、、 また、愛する人は 離れて行く また?婚約者は、1人目だけど。。。

9番と呼ばれていた妻は執着してくる夫に別れを告げる

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から言いたいことを言えずに、両親の望み通りにしてきた。 結婚だってそうだった。 良い娘、良い姉、良い公爵令嬢でいようと思っていた。 夫の9番目の妻だと知るまでは―― 「他の妻たちの嫉妬が酷くてね。リリララのことは9番と呼んでいるんだ」 嫉妬する側妃の嫌がらせにうんざりしていただけに、ターズ様が側近にこう言っているのを聞いた時、私は良い妻であることをやめることにした。 ※最後はさくっと終わっております。 ※独特の異世界の世界観であり、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

処理中です...