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58.過去の不幸は今の幸福で塗り替えられる
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付き添う侍従に下がるよう命じ、侍女にワインやつまみを用意させた国王陛下は、王妃シャルロッテ様と並んで座った。応接用のソファは机を挟んで向かいに置かれるので、当然私達は残ったソファに腰掛ける。自然と並んで向き合う形になった。
目の前が国王陛下なのは緊張するわね。シャルロッテ様の方が気が楽だけど、男性と女性が正しい位置に向かい合うなら、私の正面が男性になるのは仕方ないわ。
「あなた、逆に座ってちょうだい」
思わぬことを言い出したシャルロッテ様が、私の正面に移動した。国王陛下は苦笑いして、彼女を膝に乗せてから下ろす。なんだか……プライベートを覗いたみたいで照れるわね。
「男同士で話してよ。私はローザと仲良くなるから」
うふふと笑って、シャルロッテ様は用意されたワインをグラスに注いだ。侍女がいないから私の役割じゃないかしら。慌てて手を伸ばすが、シャルロッテ様は首を横に振る。その表情は微笑んでいた。
「友人同士で、他人の目がない場所くらい……やらせて。王妃になったら、あれもダメ、これもダメで窮屈なんだもの」
「後悔してるのか?」
茶化す口調で国王陛下が声をかけると、また首を横に振って頬に手を当てた。
「後悔してないから困ってるのよ。だから私の友人であるローザは、ありのままの私を受け入れて欲しいわ」
「かしこまりました」
「分かった、でいいの」
そう言って笑うシャルロッテ様の横で、「そうしてやってくれ」と国王陛下のお墨付きをいただく。さらにヴィルまで「こういう人で」と苦笑いで促した。まだ緊張するけど、頑張るわ。
「分かったわ、シャルロッテ様」
「ロッテと呼んで」
「はい、ロッテ様」
ふふっと笑ったロッテ様はとても可愛い。くるりと巻いた金髪は光の束のようだし、緑の瞳も魅力的だった。国母となる女性に相応しい慈愛と柔らかな物腰の持ち主、姉がいたらこんな感じかしら。
隣では少し物騒な相談が始まり、私の視界の端を精霊が自由に歩き回る。今までも同じ状態だったはずなのに、見えると気になるわ。目で追ってしまうの。
「ローザ。大公妃になるなら、侯爵の地位も持ったまま嫁げるわよ」
前半を聞き逃してしまったが、後半の予想外の言葉に目を見開く。ロッテ様を失礼にも凝視してしまい、慌てて視線を伏せた。誤魔化すようにワイングラスを手に取り、白ワインを揺らす。
「侯爵の地位は、婿を取った場合のみ継承では……」
だから私とヴィルは結婚できない。いえ、事実婚になるのだと思っていた。爵位持ち同士なら、それが一般的だから。公爵夫人にならなかった私は、大公妃にもなれないはず。
「それがね、大公の地位は一国の王と同じと定められているの。自治領だし、いつでも独立出来るだけの力があるせいね。数代前のその記述が前例になってて、嫁いだ王女は、大公妃であり王女のままよ。最終的に王妹になられたけど」
実際の前例なのだろう。具体的な話を持ち出され、私は頬が熱くなるのを感じた。生き残るため侯爵の地位を得たけど、ヴィルの妻を名乗ってもいいのね? 過去の不幸がこのためにあったなら、今の幸福で帳消しになる気がした。
目の前が国王陛下なのは緊張するわね。シャルロッテ様の方が気が楽だけど、男性と女性が正しい位置に向かい合うなら、私の正面が男性になるのは仕方ないわ。
「あなた、逆に座ってちょうだい」
思わぬことを言い出したシャルロッテ様が、私の正面に移動した。国王陛下は苦笑いして、彼女を膝に乗せてから下ろす。なんだか……プライベートを覗いたみたいで照れるわね。
「男同士で話してよ。私はローザと仲良くなるから」
うふふと笑って、シャルロッテ様は用意されたワインをグラスに注いだ。侍女がいないから私の役割じゃないかしら。慌てて手を伸ばすが、シャルロッテ様は首を横に振る。その表情は微笑んでいた。
「友人同士で、他人の目がない場所くらい……やらせて。王妃になったら、あれもダメ、これもダメで窮屈なんだもの」
「後悔してるのか?」
茶化す口調で国王陛下が声をかけると、また首を横に振って頬に手を当てた。
「後悔してないから困ってるのよ。だから私の友人であるローザは、ありのままの私を受け入れて欲しいわ」
「かしこまりました」
「分かった、でいいの」
そう言って笑うシャルロッテ様の横で、「そうしてやってくれ」と国王陛下のお墨付きをいただく。さらにヴィルまで「こういう人で」と苦笑いで促した。まだ緊張するけど、頑張るわ。
「分かったわ、シャルロッテ様」
「ロッテと呼んで」
「はい、ロッテ様」
ふふっと笑ったロッテ様はとても可愛い。くるりと巻いた金髪は光の束のようだし、緑の瞳も魅力的だった。国母となる女性に相応しい慈愛と柔らかな物腰の持ち主、姉がいたらこんな感じかしら。
隣では少し物騒な相談が始まり、私の視界の端を精霊が自由に歩き回る。今までも同じ状態だったはずなのに、見えると気になるわ。目で追ってしまうの。
「ローザ。大公妃になるなら、侯爵の地位も持ったまま嫁げるわよ」
前半を聞き逃してしまったが、後半の予想外の言葉に目を見開く。ロッテ様を失礼にも凝視してしまい、慌てて視線を伏せた。誤魔化すようにワイングラスを手に取り、白ワインを揺らす。
「侯爵の地位は、婿を取った場合のみ継承では……」
だから私とヴィルは結婚できない。いえ、事実婚になるのだと思っていた。爵位持ち同士なら、それが一般的だから。公爵夫人にならなかった私は、大公妃にもなれないはず。
「それがね、大公の地位は一国の王と同じと定められているの。自治領だし、いつでも独立出来るだけの力があるせいね。数代前のその記述が前例になってて、嫁いだ王女は、大公妃であり王女のままよ。最終的に王妹になられたけど」
実際の前例なのだろう。具体的な話を持ち出され、私は頬が熱くなるのを感じた。生き残るため侯爵の地位を得たけど、ヴィルの妻を名乗ってもいいのね? 過去の不幸がこのためにあったなら、今の幸福で帳消しになる気がした。
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