【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
59 / 112

58.過去の不幸は今の幸福で塗り替えられる

しおりを挟む
 付き添う侍従に下がるよう命じ、侍女にワインやつまみを用意させた国王陛下は、王妃シャルロッテ様と並んで座った。応接用のソファは机を挟んで向かいに置かれるので、当然私達は残ったソファに腰掛ける。自然と並んで向き合う形になった。

 目の前が国王陛下なのは緊張するわね。シャルロッテ様の方が気が楽だけど、男性と女性が正しい位置に向かい合うなら、私の正面が男性になるのは仕方ないわ。

「あなた、逆に座ってちょうだい」

 思わぬことを言い出したシャルロッテ様が、私の正面に移動した。国王陛下は苦笑いして、彼女を膝に乗せてから下ろす。なんだか……プライベートを覗いたみたいで照れるわね。

「男同士で話してよ。私はローザと仲良くなるから」

 うふふと笑って、シャルロッテ様は用意されたワインをグラスに注いだ。侍女がいないから私の役割じゃないかしら。慌てて手を伸ばすが、シャルロッテ様は首を横に振る。その表情は微笑んでいた。

「友人同士で、他人の目がない場所くらい……やらせて。王妃になったら、あれもダメ、これもダメで窮屈なんだもの」

「後悔してるのか?」

 茶化す口調で国王陛下が声をかけると、また首を横に振って頬に手を当てた。

「後悔してないから困ってるのよ。だから私の友人であるローザは、ありのままの私を受け入れて欲しいわ」

「かしこまりました」

「分かった、でいいの」

 そう言って笑うシャルロッテ様の横で、「そうしてやってくれ」と国王陛下のお墨付きをいただく。さらにヴィルまで「こういう人で」と苦笑いで促した。まだ緊張するけど、頑張るわ。

「分かったわ、シャルロッテ様」

「ロッテと呼んで」

「はい、ロッテ様」

 ふふっと笑ったロッテ様はとても可愛い。くるりと巻いた金髪は光の束のようだし、緑の瞳も魅力的だった。国母となる女性に相応しい慈愛と柔らかな物腰の持ち主、姉がいたらこんな感じかしら。

 隣では少し物騒な相談が始まり、私の視界の端を精霊が自由に歩き回る。今までも同じ状態だったはずなのに、見えると気になるわ。目で追ってしまうの。

「ローザ。大公妃になるなら、侯爵の地位も持ったまま嫁げるわよ」

 前半を聞き逃してしまったが、後半の予想外の言葉に目を見開く。ロッテ様を失礼にも凝視してしまい、慌てて視線を伏せた。誤魔化すようにワイングラスを手に取り、白ワインを揺らす。

「侯爵の地位は、婿を取った場合のみ継承では……」

 だから私とヴィルは結婚できない。いえ、事実婚になるのだと思っていた。爵位持ち同士なら、それが一般的だから。公爵夫人にならなかった私は、大公妃にもなれないはず。

「それがね、大公の地位は一国の王と同じと定められているの。自治領だし、いつでも独立出来るだけの力があるせいね。数代前のその記述が前例になってて、嫁いだ王女は、大公妃であり王女のままよ。最終的に王妹になられたけど」

 実際の前例なのだろう。具体的な話を持ち出され、私は頬が熱くなるのを感じた。生き残るため侯爵の地位を得たけど、ヴィルの妻を名乗ってもいいのね? 過去の不幸がこのためにあったなら、今の幸福で帳消しになる気がした。
しおりを挟む
感想 288

あなたにおすすめの小説

我慢するだけの日々はもう終わりにします

風見ゆうみ
恋愛
「レンウィル公爵も素敵だけれど、あなたの婚約者も素敵ね」伯爵の爵位を持つ父の後妻の連れ子であるロザンヌは、私、アリカ・ルージーの婚約者シーロンをうっとりとした目で見つめて言った――。 学園でのパーティーに出席した際、シーロンからパーティー会場の入口で「今日はロザンヌと出席するから、君は1人で中に入ってほしい」と言われた挙げ句、ロザンヌからは「あなたにはお似合いの相手を用意しておいた」と言われ、複数人の男子生徒にどこかへ連れ去られそうになってしまう。 そんな私を助けてくれたのは、ロザンヌが想いを寄せている相手、若き公爵ギルバート・レンウィルだった。 ※本編完結しましたが、番外編を更新中です。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※独特の世界観です。 ※中世〜近世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物など、その他諸々は現代風です。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました

帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。 そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。 もちろん返済する目処もない。 「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」 フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。 嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。 「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」 そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。 厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。 それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。 「お幸せですか?」 アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。 世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。 古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。 ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。 ※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】お飾りではなかった王妃の実力

鏑木 うりこ
恋愛
 王妃アイリーンは国王エルファードに離婚を告げられる。 「お前のような醜い女はいらん!今すぐに出て行け!」  しかしアイリーンは追い出していい人物ではなかった。アイリーンが去った国と迎え入れた国の明暗。    完結致しました(2022/06/28完結表記) GWだから見切り発車した作品ですが、完結まで辿り着きました。 ★お礼★  たくさんのご感想、お気に入り登録、しおり等ありがとうございます! 中々、感想にお返事を書くことが出来なくてとても心苦しく思っています(;´Д`)全部読ませていただいており、とても嬉しいです!!内容に反映したりしなかったりあると思います。ありがとうございます~!

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

処理中です...