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79.滅亡の足音が高らかに――SIDEビッテンフェルト
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ウーリヒ国に3つある公爵家のうち、もっとも王家の血が濃い家はリヒテンシュタインだ。続いてビッテンフェルト家、シュトローマン家の順だった。リヒテンシュタインは愚かにも、王家と並ぶアルブレヒツベルガー大公家を敵に回し滅びた。
呪術を扱い、人ならぬ力を振るうとされる一族相手に、なんと無謀なことか。ましてや国王陛下と大公閣下は友人なのだ。こういった情報を知っているかどうか、それが家格の差だと笑う。
次は我が家が筆頭公爵家となり、王女殿下を息子の妻に迎えることが叶う。安堵の息を吐いた。領地のあれこれを差配する書類を処理し、机に肘をついた。
屋敷が静かだ。今日は末っ子のイザベラが出かけている。着ていく夜会もないのに、ドレスを買い漁るのだろう。長女アデリナはシュトローマンの嫡男に嫁いだ。跡取りのヨーゼフは優秀に育ち、家は安泰だった。
唯一育児に失敗したのは、次女のイザベラ。あの子は可愛いが、頭が悪すぎた。どこの家に押し付けるのがいいか。あまり地位が低い家では本人が納得しないし、当家のうま味も少ない。辺境伯か侯爵あたり……いっそ社交界と離れた辺境伯は狙い目かも知れん。
嫁ぐ高位貴族の娘も少ない上、イザベラを社交界から遠ざけることが可能だった。最高ではないか。執事を呼び、すぐに嫁を探す辺境の貴族を調べるよう申し付けた。家のために嫁ぐ娘と、跡取り息子。両方が揃って油断したのがいけなかった。
愛らしい、可愛いと我が侭を許した結果がイザベラだ。己の浅慮と愚かさを具現したような娘を見るのが、この頃辛い。公爵令嬢の地位を振り翳し、姉アデリナのお茶会を台無しにした。怒ったアデリナから縁切りを伝えられ、あの子の社交界デビューの機会は失われたのだ。
社交界に出さずとも、家の名と圧力でどこぞの辺境に押しつければいい。お茶を用意するよう告げたところで、思いがけない呼び出しが届いた。
「アルブレヒツベルガー大公家!? これは……っ、イザベラが……あの厄介者め」
噛み締めた奥歯がぎりりと嫌な音を立てる。慌てて外出の準備をして飛び出した。待たせるわけにいかない。ビッテンフェルトの名は、風前の灯火なのだ。
馬車の中で、溢れてくる冷や汗を拭い続けた。国王陛下の招聘であっても、ここまで緊張したことはない。呼び出された先は洋品店だった。この王都で最も売れるドレス屋で、平民ながらマダムの称号を得た王家御用達の店舗だ。
アルブレヒツベルガー大公は男性だ。女性の服を買いに来たとしたら……あのアウエンミュラー女侯爵と一緒か? 溺愛振りを見せつけた、王妃殿下の友人でもある侯爵に、何かしでかしたとしたら。
恐ろしい想像が心臓を締め付ける。脂汗も流しながら、洋品店に足を踏み入れた。店内を通り、奥の個室へ案内される。漏れ聞こえたのは、楽しそうな笑い声。もしかして、イザベルは侯爵と仲良く過ごしているのかも知れない。
期待しながら開いた扉の向こうは――没落へ続く階段だった。
呪術を扱い、人ならぬ力を振るうとされる一族相手に、なんと無謀なことか。ましてや国王陛下と大公閣下は友人なのだ。こういった情報を知っているかどうか、それが家格の差だと笑う。
次は我が家が筆頭公爵家となり、王女殿下を息子の妻に迎えることが叶う。安堵の息を吐いた。領地のあれこれを差配する書類を処理し、机に肘をついた。
屋敷が静かだ。今日は末っ子のイザベラが出かけている。着ていく夜会もないのに、ドレスを買い漁るのだろう。長女アデリナはシュトローマンの嫡男に嫁いだ。跡取りのヨーゼフは優秀に育ち、家は安泰だった。
唯一育児に失敗したのは、次女のイザベラ。あの子は可愛いが、頭が悪すぎた。どこの家に押し付けるのがいいか。あまり地位が低い家では本人が納得しないし、当家のうま味も少ない。辺境伯か侯爵あたり……いっそ社交界と離れた辺境伯は狙い目かも知れん。
嫁ぐ高位貴族の娘も少ない上、イザベラを社交界から遠ざけることが可能だった。最高ではないか。執事を呼び、すぐに嫁を探す辺境の貴族を調べるよう申し付けた。家のために嫁ぐ娘と、跡取り息子。両方が揃って油断したのがいけなかった。
愛らしい、可愛いと我が侭を許した結果がイザベラだ。己の浅慮と愚かさを具現したような娘を見るのが、この頃辛い。公爵令嬢の地位を振り翳し、姉アデリナのお茶会を台無しにした。怒ったアデリナから縁切りを伝えられ、あの子の社交界デビューの機会は失われたのだ。
社交界に出さずとも、家の名と圧力でどこぞの辺境に押しつければいい。お茶を用意するよう告げたところで、思いがけない呼び出しが届いた。
「アルブレヒツベルガー大公家!? これは……っ、イザベラが……あの厄介者め」
噛み締めた奥歯がぎりりと嫌な音を立てる。慌てて外出の準備をして飛び出した。待たせるわけにいかない。ビッテンフェルトの名は、風前の灯火なのだ。
馬車の中で、溢れてくる冷や汗を拭い続けた。国王陛下の招聘であっても、ここまで緊張したことはない。呼び出された先は洋品店だった。この王都で最も売れるドレス屋で、平民ながらマダムの称号を得た王家御用達の店舗だ。
アルブレヒツベルガー大公は男性だ。女性の服を買いに来たとしたら……あのアウエンミュラー女侯爵と一緒か? 溺愛振りを見せつけた、王妃殿下の友人でもある侯爵に、何かしでかしたとしたら。
恐ろしい想像が心臓を締め付ける。脂汗も流しながら、洋品店に足を踏み入れた。店内を通り、奥の個室へ案内される。漏れ聞こえたのは、楽しそうな笑い声。もしかして、イザベルは侯爵と仲良く過ごしているのかも知れない。
期待しながら開いた扉の向こうは――没落へ続く階段だった。
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