【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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81.事件は波紋を広げ闇に染まる

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 項垂れたビッテンフェルト公爵を見て、少しばかり気の毒になる。騒動を起こしたのは娘であり、両親に厳しい罰を課すのは酷ではないか。確かにこんな娘に育てた罪はあるが、娘を平民に落とすだけでも十分に罰だと思えた。

 詫びて帰宅する公爵が見えなくなった頃、ヴィルとお茶を楽しみながら雑談として話す。考えた後、ヴィルは黒髪を揺らして首を傾げた。

「君がそう望むの? ローザ」

「そうね。私が過去に侯爵の地位を奪われたのも、不可抗力だと思っていたわ。でも未来は変えられる。そういうことじゃないかしら」

 周囲に事情を知らないマダム達がいるので、曖昧に伝えた。だけど内情を知るヴィルやアンネは理解している。

 私が父に地位を奪われたのは、無知と躊躇いが大きい。国王陛下に嘆願する方法を前世で知り、今回活かしただけ。前世で殺されたことを知っているから、必死になり非情になれた。ならば同じように、公爵にやり直す機会を与えてはどうか。彼は娘を切り捨て、平民に落ちた娘にどう接するのか。それを見て判断しても遅くない。

 誰にでもチャンスは与えられるべきよ。直接大きな危害を加えられていないから、私は寛大になれる。その理由すら、あなたが私を守ってくれるからなの。ヴィルへ伝えるほどに、彼は赤くなった。

「わかった。ローザがそう望むなら」

 置いていかれ、父親に切り捨てられたイザベルが騎士に連行される。彼女の今後は、イザベルの心掛け次第。心から反省して平民として生きていく覚悟があれば、誰かが手を差し伸べてくれるでしょう。まあ、あの態度では無理だと思うけど。

 この事件はここで終わり。そう思っていた私は、まだ貴族社会の裏を知らなかった。噂はただの噂ではなく、現実を脅かす可能性があるのだと……知っていたら。





 ウーリヒ国に存在する3つの公爵家は、それぞれに役目がある。王家の血を強く受け継ぎ、王族に不幸があれば予備となるリヒテンシュタイン。文官を統制し、王国の運営を担うビッテンフェルト。そして……剣を持ち国を守る武のシュトローマンだ。

 第二の王家となり得るリヒテンシュタインを、国王陛下は切り捨てた。その後、ビッテンフェルトが末娘の失態により勢いをなくす。これらが何を意味するのか。なぜ公爵家が3つ存在していたのか。

 気づいた時には、事態は大きく動いていた。思わぬうねりに、国王陛下自身が驚くほどに。抜いた剣は月光を弾き、誰かの血に触れずして収まらぬ――ヴィルは知っていたのかしら。容易に想像がついてしまう。彼は知っていても、同じ道を選んだ。きっと……私のために。

 数日後、ヴィルと私は国王陛下に会うため、馬車に揺られていた。王宮は夜会の日より高く聳え立ち、私は緊張に喉を鳴らす。通されたのは客間ではなく、謁見の間だった。
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