【完結】愛してないなら触れないで

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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97.私を形作るすべてを捧げます

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 結婚式には貴族を招待しなかった。代わりにお披露目の夜会へ参加するよう、国王陛下から連絡が入ったみたい。前にロッテ様が口になさった「次の夜会」がこれね。

「失礼するわね、おめでとう……ローザ、とっても綺麗よ」

 親族がいない私のために、身重のロッテ様が参加なさった。ヴィルの友人である国王陛下も、後見として私の側に座ってくださるの。なんて恵まれた結婚式でしょう。友人や親しい人達に囲まれて、心からの祝福の言葉を受ける。私が嫁ぐヴィクトールは最愛の人で……。

 すべてが初めて尽くしだった。化粧が涙で流れないよう、口を横に引いて笑みを作る。そうしないと溢れてきちゃうわ。

「ありがとう、ロッテ様。お腹は平気ですか?」

 ゆったりした腹部を締め付けないドレスは、胸の下で絞ってから膨らんでいる。異国の民族衣装を参考にしたと聞くけれど、これは本当に素敵ね。今後、妊婦さんの間で流行りそうだわ。

 大きなお腹を撫でて、ロッテ様は幸せそうに眦を下げた。

「ええ、重いけど幸せの重さだもの。とても幸せ。次はあなたが幸せになるのよ、ローザ」

 花嫁を花婿より先に別の男性に見せるわけにいかないルールに従い、国王陛下はお庭で待っておられる。神殿ではなく、王都にある別邸の庭で結婚式を行う。綺麗に花が咲き揃うよう、庭師が丹精込めて世話をした庭。執事や侍女が整えた屋外会場、駆けつけてくれた友人達。全部揃ったわね。

「お時間でございます」

 鐘の音を聞き取ったエルマが恭しく頭を下げる。アンネの手が私をエスコートし、長いスカートを踏まないよう歩き始めた。婚礼衣装のドレスは、摘んだりしない。流したまま歩くので、前部分はつま先が見える程度に短くするのが通例だった。

 行き先を示すように敷き詰められた絨毯は濃紺、真っ白な花びらが左右から投げかけられる。侍女や使用人がこぞって参加してくれたのだ。お礼を言って微笑みながら踏み締めた。一歩一歩、ヴィルヘ近づいていく。

 庭へ出る数段の階段を降りると、正面に祭壇が見えた。教皇猊下が教えを記した聖書を手に佇み、その手前に正装姿のヴィルがいる。

 黒を基調とした礼服は、騎士服に似ていた。かっちりした襟に透かし彫刻された銀細工が輝く。袖やボタンも銀細工で、繊細な模様が美しい。房飾りが風に揺れ、彼の黒髪は後ろで結ばれていた。耳には大粒の赤い宝石が光り、胸元には赤い薔薇が揺れる。

 見惚れてしまい、慌てて俯いた。心臓が飛び出しそう。深呼吸してから足を踏み出す。下を向いてしまった顔を上げて、一歩ずつ愛するひとへ向かって――あと数歩。

「とても美しい、僕のローザ」

「あなたも素敵よ、私のヴィル」

 私のと枕詞をつけるには、恥ずかしい。でもこの人の妻になるの、夫が喜ぶことは何でもしてあげたいわ。嬉しそうに笑ったヴィルの顔に、私も頬が緩んだ。

 神の代理人たる教皇猊下の前で、互いの名で生涯の愛を誓う。

「ヴィクトール・ラ・ヒ・ルドルフ・フォン・ウント・ツー・アルブレヒツベルガーは、ローザリンデ・フォン・アウエンミュラーの夫として、この命が尽きても愛し抜くと神と精霊に誓う。我が命も魂の一片に至るまで、すべては彼女の物である」

 堪えきれず、涙が溢れた。

「私、ローザリンデ・フォン・アウエンミュラーはヴィクトール・ラ・ヒ・ルドルフ・フォン・ウント・ツー・アルブレヒツベルガーの妻となり、魂が砕けようと愛し抜くことを、神と精霊の御名において誓います。私を形作るすべてを、夫に捧げます」

 魂も体も命も心も……何もかも、あなたのものよ。本心からそう誓える幸せを噛み締めて、私は濡れた目を瞬いた。近付いたヴィルの手でヴェールが上がると、ぽろりと涙が落ちる。微笑みあって、唇を重ねた。
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