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99.最高の結婚式になったわ
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披露パーティーは大騒ぎになる! と思いきや、意外な展開となった。男性陣が力を合わせ、「せーの」の掛け声でソファを持ち上げる。あっという間に室内へ移動してしまった。
出産経験がある女性がお湯やタオルの準備に走る。侍女に指示を出し、大量のシーツも用意させた。何をするのかと思えば、ベッドの天蓋を利用して産室作りを始める。ここは若い男性も手伝い固定された。
男性のお手伝いはここまでだ。侍女によって全員外へ出された。
「待て、俺は夫だぞ」
「関係ありません。経験豊富な女性にお任せください」
さすがは大公家の侍女達、ヴィルはもちろん国王陛下も押し出される。ぴしゃんと閉めた扉に鍵をかけ、安全を確保した。なお、この部屋の鍵は、外で見張る女性騎士が預かっているとか。
残ってしまった私は、ベッドに移ったロッテ様の手を握った。反対側に控えるアンネが、慣れた様子でお湯の温度を調整する。
「奥様、きつく握ってあげて。引っ掻かれても離してはダメですよ」
恰幅のいい分家の伯爵夫人の言葉に頷く。その脇で、呪術で痛みを散らす呪いを始める女性もいた。あちこちで皆が役割を果たす。なんだか素敵だった。私のお産もこんな風になったらいいわ。
「……っ、痛ぁ……こんな、痛いの?」
「まだまだ、これからもっと痛いわよ。覚悟なさい。赤ちゃんは命懸けで生まれるんだから、お母さんが命懸けで応じなくてどうするの!」
叱咤されて頷くロッテ様の額に浮かんだ汗を、そっと拭う。その間も握った左手は離さなかった。痛くなるほど握られ、時折緩む。それを何時間繰り返したのか。お湯の温度が冷めるたび、交換された。体の汗を拭いたり、蒸気を満たしたり。もしこの瞬間に産まれたら産湯になる。
お湯を半分ずつ交換する侍女達に疲れが見え始めた頃、ようやく産まれた。精一杯気張ったロッテ様の手から、力が抜けていく。血管が浮くほど握った白い手がぶわっと赤くなった。一気に血が巡る。それと同時に、赤子の泣き声が部屋に響き渡った。
「おめでとうございます。立派な王子様ですわ」
部屋の指揮を取っていた伯爵夫人の声に、ロッテ様の頬を涙が伝う。顔に浮かんだ汗を拭いながら、私は泣いていた。感動してしまったの。激痛と出血による貧血で朦朧とした出産が、外から見たらこんな祝福の姿だったなんて。
待ち望んだ我が子を抱いて、乳を含ませる。疲れて動きたくないだろうに、ロッテ様の口元は笑みを浮かべていた。
「まだ、どっちに似たのか……わからないわね」
「髪の色はロッテ様、瞳は……王族の金ですから国王陛下に似てますわ」
ぱちくりと開いた目を確認し、私はそっと囁いた。ほっとした表情のロッテ様は「そう? よかった」と呟いて目を閉じる。すごく疲れてしまったのね。乳を飲み終えた王子を預かり、眠るロッテ様を見守る。
ドン、ドンドン! ノックより手荒な音が聞こえた。ゲップをさせながら眉を寄せた私に、侍女エルマが苦笑いする。
「殿方は我慢が利かない生き物です。扉を開けます」
ロッテ様の胸元を整えて、隣に王子殿下を横たえた。降ろされた気配に気づき、ふわぁ……と息を吸い込んだ赤子が泣き出す。その声と同時に乱入した国王陛下は感動のあまり絶句し、膝を突いてロッテ様の髪を撫でた。頬を寄せ、何度も褒め称える。眠っておられるから、聞こえてないと思うけれど。
落ち着くと、産まれたばかりの王子を抱き上げようとして、伯爵夫人に指導を受けた。首が据わってない赤子の扱いを、厳しい口調で教え込まれる。そんな姿に頬を緩めるヴィルと抱き合った。結婚式のドレスは汗と血で汚れてしまったけれど、最高の結婚式だわ。王子殿下のお誕生日は、私達の結婚記念日ですもの。
出産経験がある女性がお湯やタオルの準備に走る。侍女に指示を出し、大量のシーツも用意させた。何をするのかと思えば、ベッドの天蓋を利用して産室作りを始める。ここは若い男性も手伝い固定された。
男性のお手伝いはここまでだ。侍女によって全員外へ出された。
「待て、俺は夫だぞ」
「関係ありません。経験豊富な女性にお任せください」
さすがは大公家の侍女達、ヴィルはもちろん国王陛下も押し出される。ぴしゃんと閉めた扉に鍵をかけ、安全を確保した。なお、この部屋の鍵は、外で見張る女性騎士が預かっているとか。
残ってしまった私は、ベッドに移ったロッテ様の手を握った。反対側に控えるアンネが、慣れた様子でお湯の温度を調整する。
「奥様、きつく握ってあげて。引っ掻かれても離してはダメですよ」
恰幅のいい分家の伯爵夫人の言葉に頷く。その脇で、呪術で痛みを散らす呪いを始める女性もいた。あちこちで皆が役割を果たす。なんだか素敵だった。私のお産もこんな風になったらいいわ。
「……っ、痛ぁ……こんな、痛いの?」
「まだまだ、これからもっと痛いわよ。覚悟なさい。赤ちゃんは命懸けで生まれるんだから、お母さんが命懸けで応じなくてどうするの!」
叱咤されて頷くロッテ様の額に浮かんだ汗を、そっと拭う。その間も握った左手は離さなかった。痛くなるほど握られ、時折緩む。それを何時間繰り返したのか。お湯の温度が冷めるたび、交換された。体の汗を拭いたり、蒸気を満たしたり。もしこの瞬間に産まれたら産湯になる。
お湯を半分ずつ交換する侍女達に疲れが見え始めた頃、ようやく産まれた。精一杯気張ったロッテ様の手から、力が抜けていく。血管が浮くほど握った白い手がぶわっと赤くなった。一気に血が巡る。それと同時に、赤子の泣き声が部屋に響き渡った。
「おめでとうございます。立派な王子様ですわ」
部屋の指揮を取っていた伯爵夫人の声に、ロッテ様の頬を涙が伝う。顔に浮かんだ汗を拭いながら、私は泣いていた。感動してしまったの。激痛と出血による貧血で朦朧とした出産が、外から見たらこんな祝福の姿だったなんて。
待ち望んだ我が子を抱いて、乳を含ませる。疲れて動きたくないだろうに、ロッテ様の口元は笑みを浮かべていた。
「まだ、どっちに似たのか……わからないわね」
「髪の色はロッテ様、瞳は……王族の金ですから国王陛下に似てますわ」
ぱちくりと開いた目を確認し、私はそっと囁いた。ほっとした表情のロッテ様は「そう? よかった」と呟いて目を閉じる。すごく疲れてしまったのね。乳を飲み終えた王子を預かり、眠るロッテ様を見守る。
ドン、ドンドン! ノックより手荒な音が聞こえた。ゲップをさせながら眉を寄せた私に、侍女エルマが苦笑いする。
「殿方は我慢が利かない生き物です。扉を開けます」
ロッテ様の胸元を整えて、隣に王子殿下を横たえた。降ろされた気配に気づき、ふわぁ……と息を吸い込んだ赤子が泣き出す。その声と同時に乱入した国王陛下は感動のあまり絶句し、膝を突いてロッテ様の髪を撫でた。頬を寄せ、何度も褒め称える。眠っておられるから、聞こえてないと思うけれど。
落ち着くと、産まれたばかりの王子を抱き上げようとして、伯爵夫人に指導を受けた。首が据わってない赤子の扱いを、厳しい口調で教え込まれる。そんな姿に頬を緩めるヴィルと抱き合った。結婚式のドレスは汗と血で汚れてしまったけれど、最高の結婚式だわ。王子殿下のお誕生日は、私達の結婚記念日ですもの。
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