18 / 135
第一章
18.話より食事を優先させてくれ
しおりを挟む
疲れすぎると夕食も入らなくなる。だが魔族は朝食抜きが基本なので、食べないと大事件なのだ。体を動かした翌日に、お昼まで食事を我慢できるか? 健康的な成人男子と考えれば、あり得ない。無理やりにでも口に押し込むしかなかった。
こっそり机の下で収納へパンを放り込む。バレないよう適度に口にも入れた。机の下でアベルとカインが手伝ってくれるのが心強い。
「狼煙は上げてきたのね?」
「ああ、前線基地のあの村は滅ぼした。建物も含めて、魔石の受け取りに来た連中も燃やしてやったが……貴族の坊ちゃんだけ生かした」
「理由を聞きたいわ」
パンにスープを染みこませて食べるオレはマナー違反だが、向かいで優雅にカトラリーを操るリリィは完璧だった。隙がなく強くて完璧、美人……もうケチのつけようがない。だが、天は二物を与えず。見事に性格が破綻していた。
まあオレも人のことは言えないが。この魔王城に住む連中は、グループごとに生活している。同族同士で集まって、自分達の文化や食生活を守っていると言い換えると理解しやすいかな。民族ごとに勝手に自分達のやりたいように暮らしているため、食事の場でオレが顔を合わせるのはリリィと愉快な仲間達だけ。
双子の黒狼アベルとカインは、すっかり青年に育った。普段は巨大な狼の姿で活動しており、人型になるのは両手を使う細かい作業の時ぐらいだ。イヴは侍女姿だが食事は一緒に済ませる。この辺は人間の貴族社会より緩くて融通が利いていた。
考え方にもよるが、イヴは好んで侍女の真似事をしてるだけで実際は家族だ。上限関係があるとしたら、オレが一番低い位置にいるはずだった。何しろ嫌われ者の人間で、さらに異世界から転がり込んだ異物の上、リリィに拾われたんだから。
「子爵って言ってたが、やたら育ちがいいから侯爵や伯爵の嫡男じゃない男児の可能性がある。魔石は国にとって重要な資源で、それを回収するのに地位が低い騎士なんて使わないだろ。だったら彼だけ生かして、今回の事件を喧伝してもらうのさ」
「情が湧いたんじゃなくて?」
「そんなの湧いてたら、他の奴も生かしてるっての。それに……げほっ」
「……はぁ、ひとまず食べちゃいなさい」
呆れたとリリィが呟く。食べるのに夢中で、話しながら流し込んだシチューで噎せた。彼女は優雅にスプーンで口に運ぶが、オレは皿から流し込む。5年前に殺されて以来、どうも食事への異常な執着が消えないんだ。リリィに言わせると、トラウマじゃないかって。そんな繊細なつもりはないけど。
食事を優先させて、勢いよく掻っ込む。呆れ顔のイヴがお代わりを注いでくれた側から、流して飲んだ。お腹の隅々まで食料を詰めた感じがしないと、食事の手が止められないのだ。満腹になったところで、オレは「ご馳走様」と挨拶してナプキンで顔を拭いた。
「どこまで話したっけ?」
「子爵を生かしたというから、情が湧いたの? と尋ねたところまでよ」
食後に果物と一緒に紅茶を楽しむのが日課のリリィが、レモンを一切れ滑らせる。漂う香りに目を細めた彼女の整った顔を見ながら、オレは続きを頭の片隅から引き出した。
「ああ、えっと……今回は子爵とその馬だけ残して焼き払ってきた。目が覚めるのが遅いと火だるまかも知れない」
「生きてるみたいだよ」
同族経由で状況を確認していたアベルが口を挟む。礼を言って、続きを話し始めた。
「奴が侯爵あたりの次男なら最高だ。国に戻って、魔石を全部奪われたところから、オレという反逆者まで話してくれる。村の住人を皆殺しにされたら、通常は確認に来るんじゃないか?」
苦労して集めた貴重な魔石が消えた。彼らは当てにしてたはずだ。それを奪われたとなれば……? 興奮して取り返しに来るだろ。にやりと笑ったオレに、紅茶を飲み干したリリィが笑う。
「素敵な作戦ね。でも魔王城に近づけたら負けよ?」
「分かってるよ」
手前で全部殲滅してやる。自信満々に返したオレに、双子の狼は顔を見合わせて溜め息をついていた。なんだよ、失礼な奴らだな。
こっそり机の下で収納へパンを放り込む。バレないよう適度に口にも入れた。机の下でアベルとカインが手伝ってくれるのが心強い。
「狼煙は上げてきたのね?」
「ああ、前線基地のあの村は滅ぼした。建物も含めて、魔石の受け取りに来た連中も燃やしてやったが……貴族の坊ちゃんだけ生かした」
「理由を聞きたいわ」
パンにスープを染みこませて食べるオレはマナー違反だが、向かいで優雅にカトラリーを操るリリィは完璧だった。隙がなく強くて完璧、美人……もうケチのつけようがない。だが、天は二物を与えず。見事に性格が破綻していた。
まあオレも人のことは言えないが。この魔王城に住む連中は、グループごとに生活している。同族同士で集まって、自分達の文化や食生活を守っていると言い換えると理解しやすいかな。民族ごとに勝手に自分達のやりたいように暮らしているため、食事の場でオレが顔を合わせるのはリリィと愉快な仲間達だけ。
双子の黒狼アベルとカインは、すっかり青年に育った。普段は巨大な狼の姿で活動しており、人型になるのは両手を使う細かい作業の時ぐらいだ。イヴは侍女姿だが食事は一緒に済ませる。この辺は人間の貴族社会より緩くて融通が利いていた。
考え方にもよるが、イヴは好んで侍女の真似事をしてるだけで実際は家族だ。上限関係があるとしたら、オレが一番低い位置にいるはずだった。何しろ嫌われ者の人間で、さらに異世界から転がり込んだ異物の上、リリィに拾われたんだから。
「子爵って言ってたが、やたら育ちがいいから侯爵や伯爵の嫡男じゃない男児の可能性がある。魔石は国にとって重要な資源で、それを回収するのに地位が低い騎士なんて使わないだろ。だったら彼だけ生かして、今回の事件を喧伝してもらうのさ」
「情が湧いたんじゃなくて?」
「そんなの湧いてたら、他の奴も生かしてるっての。それに……げほっ」
「……はぁ、ひとまず食べちゃいなさい」
呆れたとリリィが呟く。食べるのに夢中で、話しながら流し込んだシチューで噎せた。彼女は優雅にスプーンで口に運ぶが、オレは皿から流し込む。5年前に殺されて以来、どうも食事への異常な執着が消えないんだ。リリィに言わせると、トラウマじゃないかって。そんな繊細なつもりはないけど。
食事を優先させて、勢いよく掻っ込む。呆れ顔のイヴがお代わりを注いでくれた側から、流して飲んだ。お腹の隅々まで食料を詰めた感じがしないと、食事の手が止められないのだ。満腹になったところで、オレは「ご馳走様」と挨拶してナプキンで顔を拭いた。
「どこまで話したっけ?」
「子爵を生かしたというから、情が湧いたの? と尋ねたところまでよ」
食後に果物と一緒に紅茶を楽しむのが日課のリリィが、レモンを一切れ滑らせる。漂う香りに目を細めた彼女の整った顔を見ながら、オレは続きを頭の片隅から引き出した。
「ああ、えっと……今回は子爵とその馬だけ残して焼き払ってきた。目が覚めるのが遅いと火だるまかも知れない」
「生きてるみたいだよ」
同族経由で状況を確認していたアベルが口を挟む。礼を言って、続きを話し始めた。
「奴が侯爵あたりの次男なら最高だ。国に戻って、魔石を全部奪われたところから、オレという反逆者まで話してくれる。村の住人を皆殺しにされたら、通常は確認に来るんじゃないか?」
苦労して集めた貴重な魔石が消えた。彼らは当てにしてたはずだ。それを奪われたとなれば……? 興奮して取り返しに来るだろ。にやりと笑ったオレに、紅茶を飲み干したリリィが笑う。
「素敵な作戦ね。でも魔王城に近づけたら負けよ?」
「分かってるよ」
手前で全部殲滅してやる。自信満々に返したオレに、双子の狼は顔を見合わせて溜め息をついていた。なんだよ、失礼な奴らだな。
10
あなたにおすすめの小説
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる