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第一章
21.それはオレの命令じゃないぞ
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地震を知らないこの世界で、大地が揺れるのは魔法だけ。魔術で振動を与えることはできても、大地がうねるほど揺れることはなかった。魔王は容易にこなしてたが、それ故に恐れられたんだろう。
オレが覚えたのは魔術じゃなく魔法だ。教えたリリィは魔術も使うが、オレは魔力量が多いからと魔法を叩き込まれた。人間という器に入りきらないほどの魔力があるらしい。常に頭上に魔力が満タンのタンクを持ち歩き、減った分だけ供給している感じだと理解していた。
使っても変調を来さないなら、使わない理由がない。なぜかリリィには「感謝して使いなさい」と言い聞かされたが、いまだに理由は教えてもらえなかった。
「早すぎるとか、いつも子供扱いしやがって」
ぶつぶつ文句を言いながら、分かりやすい軍服の残りを数える。16人か。数人が手元の石板に魔法陣を描き始めた。それを守る騎士が護衛につき、蝋石ががりがりと削れる音が響く。
「粉砕せよ」
オレは大地の魔法と相性がいい。戦うなら火や氷の方が強いんじゃないかと思ったが、向き不向きは変更できなかった。結局、他の属性もそれなりに使える大地の魔法使い。これがオレに与えられた評価だ。大地に関する魔法なら、「火よ」「風よ」と対象を指示しなくても発動した。
パリン、ガラスが割れるような音がして、石板が粉々に砕ける。作りかけの魔法陣は無効となり、魔術師の1人が爆発で指先を失った。発動させようとして、魔力を流し始めていたらしい。
「な、なんだこれは」
「地面が変だ」
敵の魔術を妨害しながら、オレは足元に魔力を放出し続けた。このために大地に足をつけたのだ。叫ぶ連中を横目に、オレは楽しんでいた。じわじわと大地の揺れが大きくなる。揺れには増幅効果があり、大地は隆起して陥没した。その歪みが大きくなったところで、オレは口笛を吹く。
「我が道を作れ」
立っていられなくなった大地から離れ、オレは空中に作った透明の大地を駆け上がる。以前に使った魔法だが、これは使い勝手が良かった。魔力を感じ取る訓練をしたオレ以外の人間は、その存在が見えず感じられないのだから。
「何を!?」
「うわっ!」
「なんだこれは」
騒ぐ連中の足元が崩壊していく。揺れ過ぎた大地は割れた。片側が隆起して人の身長より大きな段差が出来る。地面に両手両足をついて這いつくばる人間を嘲笑うように、陥没した側の大地から水と砂が吹き出した。液状化現象って知ってるか? 地震の後によく見られる現象だ。散々内部を揺すってやったので、大地がゲロ吐いたってわけだ。
砂に足を取られた者や隆起した大地の裂け目に飲まれた者。被害は魔術師だけでなく、周囲の騎士や兵士も巻き込んだ。空中へ逃れたオレを、銀のドラゴンが拾う。パクリと肩を噛んで放り投げ、背中で上手にキャッチした。口笛で呼んだ彼女に礼を言うと、誇らしげに高い声で鳴いた。
彼女の背から見下ろした大地はひどい有様だ。その地域だけ沼地のように荒れて、中央突破したフェンリル2人に攻撃された部隊は、這う這うの体で逃げていく。指揮系統は崩壊したらしく、好き勝手に逃げ出す兵士達を頭上から攻撃した。
卑怯? そんな概念はない。彼らは敵で、自らオレ達の領地に攻め込んだ。それを殲滅して何が悪い。もし防衛に失敗したら、城に逃げた魔獣達が殺される。生きて腹を割かれ、魔石を取り出される未来が待っていた。
コイツらを生かして帰す理由がない。まあ……あの先頭まで逃げた連中は、宣伝のために帰してやろう。全滅させると、すぐに追加を送る能無しばかりだからな。ぐるると喉を鳴らしたドラゴンが急降下し、逃げる人間を爪で引っ掛け、火を噴いて追い回す。オレが命令したんじゃないぞ? ジト目で睨む双子に心の中で言い訳しながら、オレはドラゴンの首にしがみついた。
オレが覚えたのは魔術じゃなく魔法だ。教えたリリィは魔術も使うが、オレは魔力量が多いからと魔法を叩き込まれた。人間という器に入りきらないほどの魔力があるらしい。常に頭上に魔力が満タンのタンクを持ち歩き、減った分だけ供給している感じだと理解していた。
使っても変調を来さないなら、使わない理由がない。なぜかリリィには「感謝して使いなさい」と言い聞かされたが、いまだに理由は教えてもらえなかった。
「早すぎるとか、いつも子供扱いしやがって」
ぶつぶつ文句を言いながら、分かりやすい軍服の残りを数える。16人か。数人が手元の石板に魔法陣を描き始めた。それを守る騎士が護衛につき、蝋石ががりがりと削れる音が響く。
「粉砕せよ」
オレは大地の魔法と相性がいい。戦うなら火や氷の方が強いんじゃないかと思ったが、向き不向きは変更できなかった。結局、他の属性もそれなりに使える大地の魔法使い。これがオレに与えられた評価だ。大地に関する魔法なら、「火よ」「風よ」と対象を指示しなくても発動した。
パリン、ガラスが割れるような音がして、石板が粉々に砕ける。作りかけの魔法陣は無効となり、魔術師の1人が爆発で指先を失った。発動させようとして、魔力を流し始めていたらしい。
「な、なんだこれは」
「地面が変だ」
敵の魔術を妨害しながら、オレは足元に魔力を放出し続けた。このために大地に足をつけたのだ。叫ぶ連中を横目に、オレは楽しんでいた。じわじわと大地の揺れが大きくなる。揺れには増幅効果があり、大地は隆起して陥没した。その歪みが大きくなったところで、オレは口笛を吹く。
「我が道を作れ」
立っていられなくなった大地から離れ、オレは空中に作った透明の大地を駆け上がる。以前に使った魔法だが、これは使い勝手が良かった。魔力を感じ取る訓練をしたオレ以外の人間は、その存在が見えず感じられないのだから。
「何を!?」
「うわっ!」
「なんだこれは」
騒ぐ連中の足元が崩壊していく。揺れ過ぎた大地は割れた。片側が隆起して人の身長より大きな段差が出来る。地面に両手両足をついて這いつくばる人間を嘲笑うように、陥没した側の大地から水と砂が吹き出した。液状化現象って知ってるか? 地震の後によく見られる現象だ。散々内部を揺すってやったので、大地がゲロ吐いたってわけだ。
砂に足を取られた者や隆起した大地の裂け目に飲まれた者。被害は魔術師だけでなく、周囲の騎士や兵士も巻き込んだ。空中へ逃れたオレを、銀のドラゴンが拾う。パクリと肩を噛んで放り投げ、背中で上手にキャッチした。口笛で呼んだ彼女に礼を言うと、誇らしげに高い声で鳴いた。
彼女の背から見下ろした大地はひどい有様だ。その地域だけ沼地のように荒れて、中央突破したフェンリル2人に攻撃された部隊は、這う這うの体で逃げていく。指揮系統は崩壊したらしく、好き勝手に逃げ出す兵士達を頭上から攻撃した。
卑怯? そんな概念はない。彼らは敵で、自らオレ達の領地に攻め込んだ。それを殲滅して何が悪い。もし防衛に失敗したら、城に逃げた魔獣達が殺される。生きて腹を割かれ、魔石を取り出される未来が待っていた。
コイツらを生かして帰す理由がない。まあ……あの先頭まで逃げた連中は、宣伝のために帰してやろう。全滅させると、すぐに追加を送る能無しばかりだからな。ぐるると喉を鳴らしたドラゴンが急降下し、逃げる人間を爪で引っ掛け、火を噴いて追い回す。オレが命令したんじゃないぞ? ジト目で睨む双子に心の中で言い訳しながら、オレはドラゴンの首にしがみついた。
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