【完結】虚

綾雅(りょうが)今年は7冊!

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第一章

20.まずは先制攻撃から

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「ぐぁああああ!」

 艶のある銀色ドラゴンに向けて唸り声をあげ、近くの木に飛び移った。木の枝を渡るときの技術を利用し、忍者のように2本の木を利用して縦に駆け上がる。左右に飛び移りながら上まで登ると、今度は両手を空に伸ばした。

 滑降してきたドラゴンがオレの腕を掴み、高く舞い上がる。ぶわっと腹の下がざわつき、上空で放り出された。今度は落下する体を、下に滑り込んだドラゴンが嘴で掴み直した。日本で見るとしたら、西洋風のトカゲが立ち上がったようなドラゴンなので、顔はワニに近い。鋭い牙が首筋から肩にかけて触れるのは、どきどきした。噛まれる心配はしないが、本能的に攻撃しないように注意しないと。

 ぐるるっ、喉を鳴らして着いたと知らせる銀ドラゴンへ向け、大量の矢が飛んできた。怒号と興奮した兵の叫びが煩い。多少悲鳴も混じっているが、関係なかった。足元の集団に、同じ紺色の制服を着た連中がいる。あれがアーベルライン国のお抱え魔術師だ。

 直接攻撃に弱い魔術師は目立たないのが原則だが、軍属に関してはお揃いの軍服があった。おかげで見分けが楽で助かる。一般の魔術師だと蝋石で白くなった指先くらいしか特徴がなかった。

 アーベルライン国が動いたなら、近日バルト国も動くだろう。隣国同士で何かと張り合う彼らだが、オレを追放して殺そうとしたのはバルト国だった。アーベルラインは直接手を下さず、見殺しにしただけ。まあ同罪だけどな。

 にやりと笑って着地点を決める。ドラゴンを守るために強い風の流れを作り、オレを離したらすぐに上昇気流で逃げられるようにした。その上で、矢を弾いていく。風の流れへ故意に穴を作り、そこへ落としてくれるよう唸って伝えた。心配そうにするものの、彼女は穴の上でオレを離してくれた。

 切り裂くような空気の圧力を受けながら真っすぐに落下し、両手を前に突き出す。飛んできた矢がオレのすぐ脇を抜けた。だが恐怖心はない。復讐を決めたこのオレが、ここで死ぬならそれも運命だった。何より魔力を纏って壁を作ったオレは、矢も魔術も弾く。

 半分ほど距離を詰めたところで、乾いた唇をぺろりと舐めた。

「敵を切り裂く風!」

 両手から吐き出した魔力が、風の魔法を構築する。この手順は何度もたたき込まれた。厳しさも半端ないが、リリィの技術は確かだ。イメージを頼りに具現化するために、魔力を消費する。その仕組みが反射的に使えるようになるまで、オレは文字通り血反吐を吐いて覚えた。

 風が収束して真下の魔術師を数人吹き飛ばす。螺旋を描くように渦巻き、周囲を巻き込んだところに新しい魔法を展開する。

「炎よ、この身を守れ」

 何もない地面が発火する。吹き飛ばされて転がった魔術師を巻き込んだ炎は、踊りながらオレの着地点を確保した。炎の壁に遮られた真ん中に着地し、頭上に上げた右手を下に振り下ろす。魔法を打ち消す呪文を省略し、動作と連携させた。同時に遮断された魔力が体の周囲に戻り、炎が姿を消す。

 気を付けないとオレが窒息するからな。炎が燃えるのに酸素を使う、この辺の知識は異世界人ならではだった。まあ逆を言えば、炎の筒を作ってその真ん中に降りる馬鹿はオレくらいだ。火が消えた途端、周囲をぐるりと敵に囲まれた。

 残った魔術師の数は半分程度。風で切ると血が飛び散って臭いから魔獣に評判が悪い。後で焼き払うか埋める必要があるから……うーん。見た目はえぐいが、恐怖心を掻き立てる方向性で行ってみよう。そうと決まれば、もたもたする時間はなかった。

 ぱちん、指を鳴らして魔力を流す。オレの立つ大地が大きく波打った。
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