【完結】虚

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第一章

41.戦いの合間の休息

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 目を覚ましたオレの前に、知らない魔族の女性がいた。見た目は少女のようで、口調も幼い。しかしその眼差しは穏やかで年齢を感じさせた。女性に言うと殴られるから「大人っぽい」くらいの表現に押さえておく。

 銀髪に緑の瞳の可愛い系。肌に薄く模様が浮いていて、人間ではないと判断させるのに十分だった。感じる魔力量も震えが来るほど多い。知ってるような、知らないような。どっちつかずの不思議な印象だった。

「誰だ?」

 直球で尋ねたオレに、拗ねた様子で唇を尖らせる。所作も幼い感じだが、狙って演技するあざとさは感じない。素のようだった。ぱたんと後ろで音がして、彼女から生えている尻尾で気づいた。鱗に覆われた銀の尻尾、膨大な魔力、他に心当たりはない。

「エイシェット?」

「うん」

 泣きそうな顔で俯く彼女に手を伸ばして、オレより頭一つ低い身長の細い体を抱き寄せた。妹を泣かせた兄の罪悪感がすごい。尖った2本の角を避け、よしよしと銀髪を撫でた。ぎゅっと腰に手を回して抱き着くエイシェットは可愛いが、思ったより力が強い。骨がぎしっと悲鳴を上げた。

「うっ……落ち着いたか?」

 馬鹿力を指摘したいが、女性に対して失礼だろう。オレの女性への対応はリリィ基準で叩き込まれている。オレを地に這わせるリリィであっても、淑女の扱いを求められた。圧倒的強さを誇っても、心は傷つきやすい乙女なのだとか。反論して数日動けないほどの重傷を負ったのは、懐かしい記憶だった。

「途中で起きたとき、何か飲ませてくれたの……エイシェットだったのか。よく眠れた、ありがとう」

 そろそろ離してくれないと、腰の骨が折れそうなんだが……焦りながらも優しい口調を心掛けた。ドラゴンの機嫌を損ねると後が怖いし、リリィが決めた婚約者だからな。彼女がオレに愛想を尽かすまで、紳士的に振舞うのは礼儀だろう。

 にっこり笑うエイシェットは、安心したのか。手を離してくれた。もう一度彼女の髪を撫でて振り返ると、ラミアがニヤニヤしながら見ていた。エルフはまだ起きない。ゴメン寝ポーズで目を隠すカインとアベルが、さっと横を向いた。お前ら、隙間から見ていたな?

「今日の作戦、どうする」

 人間になると片言のエイシェットは、おそらく発音しづらいのだろう。普段はドラゴンの姿なので唸り声で会話した。言葉を発する機能があっても滅多に使わないので、話しづらいのかも知れない。べったりと腕に抱き着いた彼女も作戦に参加したいようだ。

「残りの村から小麦を奪って、早朝に攻撃を仕掛ける」

 夕方から夜半にかけて小麦を奪う。多少危険は増すが、奪い尽くした後は休むことが出来た。夜明け前前後は一番油断する時間帯であり、眠っていて飛び起きた連中も動きづらい。朝日が昇る時間は急速に明暗が変化する。弓矢での攻撃を避けるのに最適だった。

「わかった」

「夜まで寝てるわ」

 アベルがのそりと動き出し、ラミアは再び横になった。この間にオレは獲物を捕まえてくる。麦は殻のついた状態なので、全部転送してしまった。今日の食事を捕まえるか。大急ぎでアベルを追いかけたオレに、尻尾を揺らすエイシェットが付いてくる。鋭い爪で彼女が仕留めた獲物をアベルが運び、オレは獲物を追い回すだけで終わった。

 丁寧にナイフで解体し、魔法を使って湯を沸かす。こんな場所で煙を上げたら、居場所がバレてしまうからな。煮込んだ肉をスープごと腹に納め、また寝転がる。エイシェットが隣に滑り込んできた。薄い皮しか身に着けていない彼女の肌は心地よくて、うとうとしながら抱き寄せたらしい。

 夕方に目覚めたオレは仲間に揶揄われ、真っ赤に照れたエイシェットから目を逸らした。
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