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第二章

66.信用しすぎだろ

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 攻撃は静かに進行した。剣戟の音も、魔術による抵抗や爆発も見られない。夜の闇に紛れて、吸血種の狩りは着々と効果をもたらし、朝には決着がついていた。

「お疲れさん、用意した寝床はオレとフェンリルで守るよ」

「任せたぞ」

 ヴラゴのおっさんは、朝日が出ると大きな欠伸をして木陰で眠ってしまった。吸血種が地下に住むのは、単に日差しが鬱陶しいからだ。陽光を浴びたからと灰になる心配はないし、川で水浴びをするため流水を怖がらない。十字架も飾りとして自ら装着するほど実害がなかった。

 長寿な彼らを殺せる方法があるとすれば、ドラゴンなど強力な火力による消滅だけだ。一気にすべての細胞を滅するなら、復活は不可能だった。手足を切り落としたり、胴体を半分に割る程度なら数時間で復活できる。圧倒的な強さを誇る種族は、イヴリースの前の魔王を生み出していた。

 丈夫で長寿な魔族の中でも、特にその能力が高い。魔力量も多いため、息をするように簡単に魔法を使いこなすのも特徴だった。黒い森に魔力を対価として、木の枝を増やしてもらった木陰はお気に召したらしい。ヴラゴは枝にぶら下がると熟睡し始めた。

「信用しすぎだろ」

 裏切ったらどうするんだよ。ぼやいたオレの頭上から、ヴラゴ自身の返答があった。

「その程度で殺されるなら、俺が未熟な証拠だ」

「あっそ。つうか聞いてるなよな」

 独り言に返事があるのは恥ずかしいものだ。昨夜は見張りを兼ねて起きていたこともあり、オレも欠伸をひとつ。ごろりと寝転がった。カインとアベルも、吸血種が休む木陰を守る形で寝そべっている。魔狼は3交代制でドーレク国を見張る手筈だった。

 抜けはないよな。考えながら目を閉じる。王侯貴族の屋敷にありがちな抜け道は塞いだし、出てきたとしても魔狼の包囲網の内側だった。空を飛ぶ魔術を使える魔術師はいないし、転移は魔術で発動しない。脳裏であれこれと潰しながら、うとうとと微睡み続けた。

 他国が気づいて包囲するのは数日後。それまでに結果は出るだろう。ちょうど、作物を作らせる人手が足りなかったし。奴隷を使って楽をしてきたんだから、今度は魔族に使役されて恩返しをしてもらわなきゃな。

 閉じた瞼の上をちらちらと揺らす木漏れ日が減り、徐々に気温が下がっていく。ぶるりと身を震わせて丸まったオレの背中に、温かな何かが触れた。小さく触れた何かに強張りを解くと、徐々に広がってオレを後ろから包む。気持ちいいな。全身の緊張を解いて、少し深く眠った。

「ん……」

 目を開けて、腕の中にいる銀髪の少女に驚く。エイシェットだった。餌を獲りに行くと言い置いて出かけた彼女は、両手でオレを抱くようにして眠っている。

「僕らが温める前に抱き合ってるんだもんね」

 揶揄う口調のカインを睨み、大きく息を吐き出した。寝てる間に冷えた背中を温めたのは、彼女だったのか。人化すると幼く見えるエイシェットはまだ起きそうにない。見上げた空は夕焼けで、まだ時間に余裕があった。

「もう少ししたら起こすか」

「似合いかも知れんな」

 見上げた大木の枝に逆さになって、オレを見下ろすヴラゴにべっと舌を出した。木の実を顔に落とされる。くそ、大人げないおっさんだ。
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