【完結】虚

綾雅(りょうが)今年は7冊!

文字の大きさ
65 / 135
第二章

65. 奴隷解放は勇者の証だ

しおりを挟む
 ヴラゴに提案した通り、ドーレクの住民を王都に集結させた。といっても、この小国の人口は壊滅させた城塞都市ラウガと大差ない。小さな村や町の住人が逃げ込んだ。災害への備えも十分ではない国にドラゴンが飛来すれば、さぞ恐ろしかっただろう。

 ドーレクがエルフの御子を手に入れたのは、偶然だった。自然に近い御子は、他者への恐怖心や警戒が薄い。同族のエルフからは大切にされたし、魔王の命令で他の魔族も手出ししなかった。だから人間が恐ろしい存在だと聞いていても、理解しなかったのだ。出会った少女と仲良くなり、手を引かれて森を出てしまった。

 黒い森の養い子と言われるほど森と親和性の高い御子は、外へ出れば無力な子どもだ。特徴ある耳のせいでエルフとバレて拘束された。取り返そうとしたエルフが、御子を盾にすると手が出せなくなる。向こうからやって来る丈夫で長生きなエルフを捕らえた人間は、彼らを奴隷として使役することを思いついた。

 体に焼き印を押し、魔術師が魔力を封じる。御子を害すると言われ、手足を切られて泣く子どもを見たら、エルフは叛逆できなかった。そんな状況を打破しようとした魔王をオレが討ってしまったことで、状況は最悪の方向へ向かっている。償いはオレの義務だった。

 王都と呼ばれていても、実際に他の都は存在しない。ドーレクの都にすべての奴隷は集められている。ならば、都を落とせば、エルフの解放は可能だった。彼らを傷つけないよう、魔物による都の蹂躙は行わない。

「準備完了だ。後は夜の支配者が降臨するのを待つばかり」

 ぐあぁ、同意するエイシェットの背中から見下ろした街は、すべて青い屋根だった。白い壁と青い屋根が名物で、街自体が保養地として外貨を稼ぐ。いつ、どの国に占領されてもおかしくない国だった。勇者として訪れたとき、奴隷の存在は知らなかったが。

「奴隷解放ってのは、どの物語でも勇者の証だ」

 助けた元奴隷が仲間になるなんて設定、飽きるほど見てきた。別に仲間になれとは言わないが、魔族が増えるのは歓迎だ。エイシェットに向けて飛んでくる矢を叩き落とし、彼女は軽く王城の屋根を炙った。他国のように立派な塔や城ではなく、一番大きな屋敷程度の権威を吹き飛ばすのは簡単だ。

「頑張り過ぎると、ヴラゴのおっさんに怒られちゃうぞ」

 エイシェットにやり過ぎ注意を言い渡し、東の山の裾野に暮れていく夕日を見送った。これから暗くなり、星空が広がる頃……人間への復讐が始まる。魔狼率いるフェンリルが、逃亡者を防ぐために駆けつけた。ぐるりとドーレク国への包囲網を敷く。夜目の利く夜行性の狼達の目を掻い潜れる人間はいない。

 狩場の準備は整った。

「あとは任せるぜ、ヴラゴのおっさん」

「ヴラゴ様と呼べ」

 滑空してきた巨大な蝙蝠に頭を叩かれ、後ろから来た吸血種の蝙蝠の群れに取り込まれた。足元の街を見下ろし、蝙蝠達は音にならない音で作戦を確認し合うと……分散して消えていく。作戦決行は月が昇り切る夜中――ここからは高みの見物と洒落込もうか。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...