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第二章
75.唾棄すべき罪だった
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夜のうちに瓦礫を除去し、地下に避難したヴラゴのおっさんと部下を助ける算段を練った。勇者の頃もそうだが、誰も見捨てたくないから全力を尽くす。魔法で大地を裂き、切れ目を作り出し、内側に瓦礫を飲み込ませた。落ちる際の音を防ぐため、風を使って振動を遮断する。
音は空気を振動させる動きにより響く。風の振動を制限することで、遮音が可能だった。ごろごろと転がる瓦礫は無音で、音のないテレビ画面を見るような違和感がある。瓦礫の大半を捨てたところで、大きく裂けた大地を塞いだ。大量の魔力が必要だが、ゆっくり動かした。
こういった大きな現象は、雷のようにドカンと与えた方が魔力の消費量が少ない。じりじりと魔力が奪われる感じがした。額に汗が滲む。緊張と魔力の大量消費による怠さを誤魔化しながら、ようやく洞窟の出口を確保した。
「サクヤ、具合悪い?」
「平気だ。これで日が暮れたらすぐ入れるぞ」
空に君臨する太陽はかなり傾いて、東に沈むわずか手前だった。あと数十分で夕焼け色のオレンジが瓦礫を照らし出す。
ドーレク国を占拠した軍は動こうとしない。壁の外を歩くアンデッドの一部は無視され、当初与えられた畑仕事に精を出していた。命令が解除されていないなら、まだ吸血種達は無事だ。街の中にいたアンデッドは地面に崩れ落ち、壁に寄りかかり、動かなくなっていた。風と炎の熱を利用して蜃気楼のように、遠くの景色を投影して確認した状況に、首を傾げる。
アンデッドを動けなくする液体があるなら、魔王城侵略の際に持たせるはずだ。あの時オレがイヴリースに勝てる保証はなかった。全然弱い勇者が、最強の魔王に立ち向かう状況で、出し惜しみするのは変だ。実際、戦いの現場ではアンデッドの軍に苦しめられたし。
過去の戦いの記憶を辿りながら、先ほどの違和感の原因を探る。アンデッド対策の液体を持つなら、一気に吸血鬼を追い詰めなかった理由はなんだ? オレなら増援が来る可能性を考慮して、効果があるうちにヴラゴ達を壊滅させる作戦を立てる。地下へ逃げ込まれたら不利なのは承知だろう。
地下室に撤退したら、そこは吸血鬼にとって最高の陣地だ。攻め込まれても長い期間抗戦が可能だし、力を発揮できる暗闇が味方だった。なのに外へ脱出しようとした形跡もなければ、敵を倒そうとする様子もない。あのヴラゴが人間と手を組むはずはなく、考えは膠着した。
「仕方ねえ。おっさんを助けて聞き出すしかないな」
「私、強い。勝つ」
身を潜めるため人化したままのエイシェットが、ぐっと拳を握る。そこで気づいた。ヴラゴのおっさんの天敵はなんだ? 圧倒的な力を持ち、吸血鬼の体を再生不可能な状態に消滅させる者だ。ドラゴンや魔王などの最強種が思い浮かんだ。その中で、体液に力がある……くそっ、なぜ忘れていたんだ。
思い当たる液体がある。吸血鬼の長であるヴラゴより強く、血に力を宿した存在を……だが、本当に正解なのか?
木の枝にぶら下がり、心配そうな眼差しを向ける若い蝙蝠に尋ねた。
「なあ、変な液体って血の匂いがしなかったか? 色は赤じゃなかったはず」
「血……かもしれません。黒色でした」
誘導の形だが、望んだ答えが引き出せた。死んで黒く血の濁った強者がいる。ヴラゴは肯定も否定もしなかったが、リリィが口にした言葉――吸血鬼は死人の血を飲むと消滅する、と。あの話が事実なら、黒い死人の血を浴びせられたら、無傷では済まない。
「おっさん達は裏から引っ張り出す」
人間がまだ彼の血を持っているなら、抜け道を使っての救出以外はリスクが高すぎた。
オレは忘れていた。殺されかけたから? 修行が厳しかったから? そんな言葉で誤魔化しても、心は泣き叫ぶ。オレの忘却や薄情さは唾棄すべき罪だった。
音は空気を振動させる動きにより響く。風の振動を制限することで、遮音が可能だった。ごろごろと転がる瓦礫は無音で、音のないテレビ画面を見るような違和感がある。瓦礫の大半を捨てたところで、大きく裂けた大地を塞いだ。大量の魔力が必要だが、ゆっくり動かした。
こういった大きな現象は、雷のようにドカンと与えた方が魔力の消費量が少ない。じりじりと魔力が奪われる感じがした。額に汗が滲む。緊張と魔力の大量消費による怠さを誤魔化しながら、ようやく洞窟の出口を確保した。
「サクヤ、具合悪い?」
「平気だ。これで日が暮れたらすぐ入れるぞ」
空に君臨する太陽はかなり傾いて、東に沈むわずか手前だった。あと数十分で夕焼け色のオレンジが瓦礫を照らし出す。
ドーレク国を占拠した軍は動こうとしない。壁の外を歩くアンデッドの一部は無視され、当初与えられた畑仕事に精を出していた。命令が解除されていないなら、まだ吸血種達は無事だ。街の中にいたアンデッドは地面に崩れ落ち、壁に寄りかかり、動かなくなっていた。風と炎の熱を利用して蜃気楼のように、遠くの景色を投影して確認した状況に、首を傾げる。
アンデッドを動けなくする液体があるなら、魔王城侵略の際に持たせるはずだ。あの時オレがイヴリースに勝てる保証はなかった。全然弱い勇者が、最強の魔王に立ち向かう状況で、出し惜しみするのは変だ。実際、戦いの現場ではアンデッドの軍に苦しめられたし。
過去の戦いの記憶を辿りながら、先ほどの違和感の原因を探る。アンデッド対策の液体を持つなら、一気に吸血鬼を追い詰めなかった理由はなんだ? オレなら増援が来る可能性を考慮して、効果があるうちにヴラゴ達を壊滅させる作戦を立てる。地下へ逃げ込まれたら不利なのは承知だろう。
地下室に撤退したら、そこは吸血鬼にとって最高の陣地だ。攻め込まれても長い期間抗戦が可能だし、力を発揮できる暗闇が味方だった。なのに外へ脱出しようとした形跡もなければ、敵を倒そうとする様子もない。あのヴラゴが人間と手を組むはずはなく、考えは膠着した。
「仕方ねえ。おっさんを助けて聞き出すしかないな」
「私、強い。勝つ」
身を潜めるため人化したままのエイシェットが、ぐっと拳を握る。そこで気づいた。ヴラゴのおっさんの天敵はなんだ? 圧倒的な力を持ち、吸血鬼の体を再生不可能な状態に消滅させる者だ。ドラゴンや魔王などの最強種が思い浮かんだ。その中で、体液に力がある……くそっ、なぜ忘れていたんだ。
思い当たる液体がある。吸血鬼の長であるヴラゴより強く、血に力を宿した存在を……だが、本当に正解なのか?
木の枝にぶら下がり、心配そうな眼差しを向ける若い蝙蝠に尋ねた。
「なあ、変な液体って血の匂いがしなかったか? 色は赤じゃなかったはず」
「血……かもしれません。黒色でした」
誘導の形だが、望んだ答えが引き出せた。死んで黒く血の濁った強者がいる。ヴラゴは肯定も否定もしなかったが、リリィが口にした言葉――吸血鬼は死人の血を飲むと消滅する、と。あの話が事実なら、黒い死人の血を浴びせられたら、無傷では済まない。
「おっさん達は裏から引っ張り出す」
人間がまだ彼の血を持っているなら、抜け道を使っての救出以外はリスクが高すぎた。
オレは忘れていた。殺されかけたから? 修行が厳しかったから? そんな言葉で誤魔化しても、心は泣き叫ぶ。オレの忘却や薄情さは唾棄すべき罪だった。
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