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第二章
76.軟弱者が、何しにきた
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勇者であるオレに随行したメンバーの中に、魔術師がいた。大量の魔法陣を使い分ける天才的なセンスがあり、魔力量も人間としては随一。頭ひとつ抜き出た魔術師は、魔王討伐後にオレを害悪だと非難する側に回った。バルト国の王女を妻に娶り、偽勇者を殺せと周囲を唆す。卑劣な男は、いま賢者を名乗っている。
あいつの仕業だ。彼の血を持つのは、あの男以外にいない。忌々しい思い出と共に浮かんだ感情に、ゆらりと目の前が歪んだ。殺したくて仕方ない。あの男が元凶だ。国王より早く声をあげ、オレを罪人に仕立てた。勇者と結婚させようとする国王を牽制し、王女を口説いた魔術師レオン。アイツなら今回の件もやりかねない。死者を冒涜する行為に傷つく柔な精神を、奴は持たなかった。
日暮れを待って、まだ追い付かないカインとアベルへの伝言を頼む。吸血蝙蝠達は同行を申し出たが、オレが断った。せっかくヴラゴのおっさんが逃した同族だ。若者を使者にして遠ざけたのに、オレが連れ戻ったら台無しだった。滅びる気はなくても、いつ滅ぼされるか怯えてきた魔族の一種族の長として、彼は一族が生存する可能性を増やしたのだ。そこまで話す気はないので、伝言係を言いつけた。
「重要な役目だから、絶対に追うなよ」
「わかりました」
「カインとアベルが来ても、ここで待て」
「……それはその……はい」
睨みつけ魔力で威嚇したら、震えながら頷く。恐怖で縛るのが一番効果的だからな。追いかけるなよ。フォローせずに背を向け、並び立つエイシェットと駆け出した。昼間のうちに準備した抜け道の出口から侵入する。
そういや、エイシェットのやつ何も言わなかったな。蝙蝠を脅したとき、止めるかと思ったが。
「この先、少し狭い」
指差した彼女が、無造作に瓦礫を退けようとする。慌てて止めた。
「ちょ、崩れるぞ。先に周囲を固定してからだ」
「わかった」
ドラゴンは丈夫なので、崩れて生き埋めになっても平気だろうが、オレは潰れる。内臓出るし、ぐちゃぐちゃだからな? 気を遣ってくれ。手を触れて朝まで支えてくれと願う。対価の魔力を与えたことで、気を利かせた大地の精霊が瓦礫を砂に変えてくれた。
「サンキュ、助かった」
礼を言って広くなった通路を進む。薄暗い道の奥で、爛々と輝く瞳に出迎えられた。心臓が止まりそうな光景だが、相手が分かっていれば恐怖心は薄い。
「お待たせ、迎えに来たぜ。ヴラゴのおっさん」
蝙蝠の群れに声をかけたオレは、足元の岩に躓いた。転びかけたところを、隣のエイシェットが掴む。腕が痛いぞ、こら。でも助かった。
「ありがとう」
「軟弱者が、何しにきた」
「逃げ損ねたおっさんの回収だけど?」
喧嘩を売る口調でヴラゴに対すると、むっとした顔で牙を剥いた。伸ばされた手を跳ね除けずにいるオレに、くしゃりと顔を崩して笑う。
「いい度胸よな、我にそのように歯向かうのはお前くらいだ」
「リリィに鍛えられたからな」
肩を竦めるオレに、ヴラゴも苦笑いして事情を話し始めた。
あいつの仕業だ。彼の血を持つのは、あの男以外にいない。忌々しい思い出と共に浮かんだ感情に、ゆらりと目の前が歪んだ。殺したくて仕方ない。あの男が元凶だ。国王より早く声をあげ、オレを罪人に仕立てた。勇者と結婚させようとする国王を牽制し、王女を口説いた魔術師レオン。アイツなら今回の件もやりかねない。死者を冒涜する行為に傷つく柔な精神を、奴は持たなかった。
日暮れを待って、まだ追い付かないカインとアベルへの伝言を頼む。吸血蝙蝠達は同行を申し出たが、オレが断った。せっかくヴラゴのおっさんが逃した同族だ。若者を使者にして遠ざけたのに、オレが連れ戻ったら台無しだった。滅びる気はなくても、いつ滅ぼされるか怯えてきた魔族の一種族の長として、彼は一族が生存する可能性を増やしたのだ。そこまで話す気はないので、伝言係を言いつけた。
「重要な役目だから、絶対に追うなよ」
「わかりました」
「カインとアベルが来ても、ここで待て」
「……それはその……はい」
睨みつけ魔力で威嚇したら、震えながら頷く。恐怖で縛るのが一番効果的だからな。追いかけるなよ。フォローせずに背を向け、並び立つエイシェットと駆け出した。昼間のうちに準備した抜け道の出口から侵入する。
そういや、エイシェットのやつ何も言わなかったな。蝙蝠を脅したとき、止めるかと思ったが。
「この先、少し狭い」
指差した彼女が、無造作に瓦礫を退けようとする。慌てて止めた。
「ちょ、崩れるぞ。先に周囲を固定してからだ」
「わかった」
ドラゴンは丈夫なので、崩れて生き埋めになっても平気だろうが、オレは潰れる。内臓出るし、ぐちゃぐちゃだからな? 気を遣ってくれ。手を触れて朝まで支えてくれと願う。対価の魔力を与えたことで、気を利かせた大地の精霊が瓦礫を砂に変えてくれた。
「サンキュ、助かった」
礼を言って広くなった通路を進む。薄暗い道の奥で、爛々と輝く瞳に出迎えられた。心臓が止まりそうな光景だが、相手が分かっていれば恐怖心は薄い。
「お待たせ、迎えに来たぜ。ヴラゴのおっさん」
蝙蝠の群れに声をかけたオレは、足元の岩に躓いた。転びかけたところを、隣のエイシェットが掴む。腕が痛いぞ、こら。でも助かった。
「ありがとう」
「軟弱者が、何しにきた」
「逃げ損ねたおっさんの回収だけど?」
喧嘩を売る口調でヴラゴに対すると、むっとした顔で牙を剥いた。伸ばされた手を跳ね除けずにいるオレに、くしゃりと顔を崩して笑う。
「いい度胸よな、我にそのように歯向かうのはお前くらいだ」
「リリィに鍛えられたからな」
肩を竦めるオレに、ヴラゴも苦笑いして事情を話し始めた。
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