【完結】虚

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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第二章

82.高みの見物と洒落込もうか

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 逃げ出した連中は封鎖した門の脇から、槍や剣で土壁を壊したらしい。出入りに使える門は土で封鎖したが、塀は放置していた。使える物は再利用するオレだが、出てくるならそれも面白いと考えたのだ。

 吸血種は目がいいのかと思ったが、説明を整理するとソナーに近かった。平原が続くこの場所なら、放った音波の屈折で動く人影も数えられるとか。何もない場所だと音波が反射しないので、それで広さが分かるらしい。暗闇で過ごす蝙蝠の特性をそのまま引き継いでいた。

「エイシェット、脅しに行くぞ」

 目を輝かせるドラゴンの背に飛び乗り、革の手綱を掴む。当然のように革を咥えた彼女が舞い上がり、外へ出てきた連中の近くを焼き払った。

 麦が勿体無いと思うが、今年はアーベルラインから奪った麦で足りる。作戦のために犠牲になるのも仕方ない。今後のために、離れた国々には病が蔓延しないよう、避難する方角を限定した。

 バルト国方面以外に逃げようとすれば、エイシェットが容赦なく焼き払う。フェンリルの攻撃は爪や牙が主体なので、今回はヴラゴ達の護衛に徹してもらった。遠距離攻撃の魔法ならいいが、直接攻撃は病を持ち帰る恐れがある。

 人間のオレは結界膜で防ぐとしても、獣人はノミ経由の病が広がる可能性も考慮しなくてはならなかった。同様の理由で魔獣である狼達と触れ合うフェンリルへ、ノミが移るのを防ぎたい。

 6日近く閉鎖された空間にいた彼らの思考能力は落ちている。その上、水や食料も尽きた状態で、ドラゴンに追われて逃げ出した。汚れた彼らの姿を上から見下ろし、オレは口角を歪める。

 なるほど。あの頃のオレはこう見えていたのか。踏み付けにしたくなる気持ちも分かるな。理解出来る時点で、いかに自分が壊れているか自覚した。もし日本に戻れたとしても、この精神状態で戻ったら異常者扱いだな。

 汚物に塗れた恰好で制服だったボロ布を纏い、空腹と渇きにふらつく足取り。すでに病が進行した連中は捨ててきたのだろう。動ける者だけで脱出した。あの時のオレは靴も与えられなかったな。足元にはガラスを撒かれた。

「針を」

 短い指示を大地の精霊はきっちり受け取った。小さな無数の針が大地に突き出る。その上を歩かねば後ろからドラゴンに焼かれるため、嫌でも進むしかなかった。石を投げられたオレの境遇に近い。

 くつりと笑ったオレに、エイシェットがぐるるぅと心配そうに鳴く。ぽんと彼女の首を叩いて、平気だと伝えた。追い立てられた兵士や騎士が、街道にたどり着く。ここからは誘導も不要だ。勝手に街の中へ入っていくだろう。

 この街道の先はバルト国ではなく、隣国タイバーの貿易要塞都市だった。要塞都市と呼ぶだけあり、戦への備えは十分だ。人間同士の戦争なら長く持ち堪えるが、病への対策はどうかな?

 タイバーは魔石の最大輸入国だった。バルトの作り出す魔石を買い付ける最大のお得意様、当然バルトに恩を売るため兵士を受け入れる。一人でも内側に入れたら最後だ。感染力が強いペスト菌は容赦しない。楽しみだ。

 ――新たな地獄の釜の蓋が開く様を、高みの見物と洒落込もうか。
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