【完結】虚

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
88 / 135
第三章

88.答えなんて、どこにもないのに

しおりを挟む
 ヴラゴの声が紡ぐ話は、オレの中で消化しきれずに回っていた。聞いた内容は分かるが、理解や吸収を拒む感情が受け付けない。

「だって」

 掠れた声が溢れる。だって、そんな話……誰も教えてくれなかった。違う、そうじゃない。言えなかったんだ。オレと親しい奴ほど、躊躇いは強いだろう。見送ったフェンリルのカインとアベルは知ってた。だから説明をヴラゴに託したのか。

「信じたくなくても、真実だ」

 現実はいつも残酷よ。そう告げたリリィの言葉が蘇った。なるほど、確かにリリィはオレに嘘を吐けない。こんな真実があったなら、誤魔化して口を閉ざした理由もわかる。

「……感謝して使えと、言われたんだ」

 魔力量が豊富なことに浮かれたオレへ、リリィは淡々と告げた。その魔力を使うときは感謝しなさい、と。感謝する相手を教えなかったのは、それが残酷すぎるからだ。

「そうか」

 ヴラゴの声に頷いた。

 ずっとヒントは示されていた。この世界の理の外にいるオレが、魔力を持っているのはおかしい。なぜなら前にいた日本で、オレに魔力なんてなかった。あの世界にそんな概念はない。知らずに持っていたと仮定しても、オレの状況は異常だった。

 魔族も人間も、己の内側に魔力を保有する。魔族は体内に魔石という臓器を持ち溜めるが、それも上限が決まっていた。人間は魔石を体内に持たないから、魔力量が少ない。この法則に当てはめるなら、オレの魔力量は魔石を持っていなければ、説明がつかなかった。だがそんな臓器はない。

 頭の上にある砂時計の砂が落ちるように、使った分は常に補充された。それはすなわち、オレの体に溜められる魔力が少ない証明だ。わずかな魔力を満たした器が空になり、外から補充される。異世界人だからと納得したが、おかしな理論だった。

 魔力を外から補充するには、他人の魔石を使うのが常識だ。ならば、魔石を持ち歩かないオレに補充される魔力は、どこから来たのか。答えはひとつだった。

 ――日本があった世界から、だ。

 召喚に使われた魔力がオレの家族や友人の生命力なら、今まで大盤振る舞いした魔力は……誰の命だった? 震える拳で地面を叩いた。

 あなたに帰れる場所はないんだもの。そう告げたのはリリィだ。出会ったあの日、そう言われた。その意味をもっと深く確認するべきだったのに、オレは手一杯で聞き逃した。

「もう、魔法は……使えない」

 無造作に振るった魔力は、日本の誰かの命だった。オレが召喚されて身近な人が消費されたのは知ってる。だが日本全体が消滅してたなんて、考えもしなかった。オレを知らない人の生命力を、何も知らずに消費し続けるなんて。

「悪魔の所業だ」

 怒りと嫌悪と憎悪。さまざまな黒い感情が目の奥を熱くする。だが涙を流す権利なんてない。オレに、死んだ人々を悼む権利も嘆く資格もなかった。あるのは……他人の命を勝手にすり潰した罪悪感だけ。

「好きにするがよい。だが覚えておけ。使わなくてもその魔力が生命に戻ることはない。変換された者らの怒りや悲しみを晴らすのは、お前以外の誰も出来ぬ」

 使い切ってしまえ。故郷の人々の復讐に、力をそのまま敵に叩きつけてやれ。そう言われた気がした。同族を殺されたヴラゴなら、そうするのか。

 ヴラゴはそれ以上、オレに答えを求めない。リリィと同等か、それ以上に厳しいヴラゴの前で、オレはじっと動かずに考え込んでいた。答えなんて、どこにもないのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...