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第三章
93.戦いの中で固めた決意
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何人殺したのか、真っ赤な袖で顔に飛んだ血を拭うが、まったく意味がない。逆にべちゃりと汚れて顔を顰めた。浄化を使いたいが、近くにいる魔族の中に浄化に弱い種族がいるため、諦めた。
魔王城の地下へ続く通路に折り重なった死体を蹴飛ばし、オレは肩で息をついた。この先は吸血種がヴラゴを守っている。絶対に突破されてはならない通路だった。この先に見つけた人間が湧いて出る魔法陣は、エイシェットが焼き払っている。もう援軍が追加される心配はなかった。
「くそっ、疲れた」
出来るだけ魔法を使わずに切り抜けたため、使ったのは移動や戦いに消費する身体強化くらいだ。一部届かない敵を切り裂くのに風を使った。
後ろから出てきた若い蝙蝠が心配そうに見つめる。ひらりと手を振って、問題ないと伝えてから外へ出た。失敗した。生け捕りにして吸血種の餌にすればよかったのに。全部殺しちまった。頭に血が上ると、まともな判断が出来なくなる。
「ケガ、した? 痛い?」
駆け寄ったエイシェットが、真っ赤なワンピースで駆け寄った。こっちもオレと一緒で返り血か。
「エイシェットも返り血だろ。オレもだ」
にやっと笑えば、彼女は安心した様子で腕にしがみついた。鋭い爪にも細い指先も血がこびりついている。お互い様なので指摘しない。ずるずると人を咥えて引き摺るカインが振り返り、ぐるると喉を鳴らした。
「おう、それ生け捕りか?」
「当然だよ、そっちは全部殺したって?」
「ごめん、勢い余ってつい」
両手を合わせて謝罪する。いつもの癖で手を合わせるが、当然魔族は意味を知らない。ただオレが謝るときは両手を合わせると認識しているだけ。日本じゃないと思い知らされるが、今さらだった。
「アベルも運んでるから手伝ってよ」
「了解。連中の手足を縛る作業は任せろ」
暴れる奴は数回ぶん殴るか、手足の1本も切り落とせばいい。ああ、でも切ると止血が面倒だな。森で捕まえる獲物のように処理してもいいなら、楽なんだが。
城の中を移動して反対側に抜けると、アベルと獣人達が協力して獲物を運んでいた。人肉を食べるのは限られた種族だから、あまり数は必要ないらしい。半分は死体になっていた。
「人間は腐ると面倒だからな」
疫病を起こして利用した立場としては、きちんと燃やすなり埋めるなりする必要性を理解している。まだ戦い足りないと訴える銀竜に任せて、焼き払ってもらうか。
「リリィ達は?」
「治療するってさ。手が空いたらサクヤも手伝ってくれ」
獅子獣人の若者に声をかけられ、わかったと返答する。つい数日前まで平和だった魔王城は、一瞬で戦場となった。これが現実だ。悩んだり後悔している間に、仲間が奪われていく。今回の死傷者は15人で、うち5人は子どもだった。
「後片付け終わったら、話を聞いてくれよ」
エイシェットにそう声を掛けると、少女姿の彼女は頷いた。何かを決意したような瞳は翡翠のように澄んでいる。この子の目は、嘘も誤魔化しも通用しないな。そう思わせる強さがあった。
「それじゃ、さっさと片付けるか」
覚悟は決まった。もう迷わない。その決意を聞いてほしい。復讐が終わった後のオレを引き受ける彼女だから、話しておきたかった。
顔を上げれば、どんよりと曇り空が広がっている。オレの心をそのまま写したような黒に近い灰色だ。滅入る気持ちを切り替えて、不要な死体を森の奥へ転送した。
魔王城の地下へ続く通路に折り重なった死体を蹴飛ばし、オレは肩で息をついた。この先は吸血種がヴラゴを守っている。絶対に突破されてはならない通路だった。この先に見つけた人間が湧いて出る魔法陣は、エイシェットが焼き払っている。もう援軍が追加される心配はなかった。
「くそっ、疲れた」
出来るだけ魔法を使わずに切り抜けたため、使ったのは移動や戦いに消費する身体強化くらいだ。一部届かない敵を切り裂くのに風を使った。
後ろから出てきた若い蝙蝠が心配そうに見つめる。ひらりと手を振って、問題ないと伝えてから外へ出た。失敗した。生け捕りにして吸血種の餌にすればよかったのに。全部殺しちまった。頭に血が上ると、まともな判断が出来なくなる。
「ケガ、した? 痛い?」
駆け寄ったエイシェットが、真っ赤なワンピースで駆け寄った。こっちもオレと一緒で返り血か。
「エイシェットも返り血だろ。オレもだ」
にやっと笑えば、彼女は安心した様子で腕にしがみついた。鋭い爪にも細い指先も血がこびりついている。お互い様なので指摘しない。ずるずると人を咥えて引き摺るカインが振り返り、ぐるると喉を鳴らした。
「おう、それ生け捕りか?」
「当然だよ、そっちは全部殺したって?」
「ごめん、勢い余ってつい」
両手を合わせて謝罪する。いつもの癖で手を合わせるが、当然魔族は意味を知らない。ただオレが謝るときは両手を合わせると認識しているだけ。日本じゃないと思い知らされるが、今さらだった。
「アベルも運んでるから手伝ってよ」
「了解。連中の手足を縛る作業は任せろ」
暴れる奴は数回ぶん殴るか、手足の1本も切り落とせばいい。ああ、でも切ると止血が面倒だな。森で捕まえる獲物のように処理してもいいなら、楽なんだが。
城の中を移動して反対側に抜けると、アベルと獣人達が協力して獲物を運んでいた。人肉を食べるのは限られた種族だから、あまり数は必要ないらしい。半分は死体になっていた。
「人間は腐ると面倒だからな」
疫病を起こして利用した立場としては、きちんと燃やすなり埋めるなりする必要性を理解している。まだ戦い足りないと訴える銀竜に任せて、焼き払ってもらうか。
「リリィ達は?」
「治療するってさ。手が空いたらサクヤも手伝ってくれ」
獅子獣人の若者に声をかけられ、わかったと返答する。つい数日前まで平和だった魔王城は、一瞬で戦場となった。これが現実だ。悩んだり後悔している間に、仲間が奪われていく。今回の死傷者は15人で、うち5人は子どもだった。
「後片付け終わったら、話を聞いてくれよ」
エイシェットにそう声を掛けると、少女姿の彼女は頷いた。何かを決意したような瞳は翡翠のように澄んでいる。この子の目は、嘘も誤魔化しも通用しないな。そう思わせる強さがあった。
「それじゃ、さっさと片付けるか」
覚悟は決まった。もう迷わない。その決意を聞いてほしい。復讐が終わった後のオレを引き受ける彼女だから、話しておきたかった。
顔を上げれば、どんよりと曇り空が広がっている。オレの心をそのまま写したような黒に近い灰色だ。滅入る気持ちを切り替えて、不要な死体を森の奥へ転送した。
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