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第三章
94.綺麗事なんていらねえ
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革の手綱を咥えたエイシェットの背に飛び乗り、アベルに声をかける。
「死体を焼いてくる」
「頼んだ!」
ドーレク国で行った疫病作戦を覚えているからか、あっさり許可が降りる。舞い上がるドラゴンの背から眺める景色は、どこまでも広がる美しい緑の森だった。ぼんやりとかかった黒い霧さえなければ、この広い大地で魔族は人間と関わらずに生きていける。
ぐぁああ! 気を引く彼女の声に視線を落とし、足元に放り出された死体の山に溜め息を吐いた。
「焼き払う、か?」
彼女に任せるつもりだったが、それでいいか。尋ねるオレに高々と同意の声を上げたエイシェットが急降下した。手綱がなければ落とされたかも知れない。距離を詰めがら、炎のブレスが口から溢れでる。近づいた地上へ炎を吐き出し、急上昇に転じた。熱によって引き起こされた上昇気流を上手に利用し、ドラゴンは空を旋回する。
真っ赤に燃える木々の間で燻る黒い塊が人間の死体だろう。炎が弱かったか、重なった部分の死体はまだ残っている様子だ。
「エイシェット、もう少し旋回して」
その間に魔力を高めて、僅かに迷い深呼吸する。もう決めただろう、躊躇うな。自分に言い聞かせて命じた。
「ひっくり返せ」
大地がぐにゃりと盛り上がり、黒い塊をひっくり返した。鎧や剣などの金属ごと焼かれた死体は、溶けて混じり合っている。高温すぎるブレスを蓄え、エイシェットが期待の唸りを放つ。
「いいぞ」
許可を出した途端、下降して距離を詰めた彼女のブレスが死体に直接火をつけた。吐き気を催す不快な臭いが充満し、すぐに臭いすら焼き尽くす温度で二発目が追加される。完全に焼き尽くした銀竜は、興奮した声を上げて勝利をアピールした。
単純なようだが、これがドラゴンだ。オレに嘘をつかず、裏切らず、愛してくれる存在だった。焼き尽くした灰を大地に埋め、後始末を終えたオレはゆっくり舞う彼女を抱き締めるように倒れ込んだ。気遣って速度を落としたエイシェットに、遠回りしてくれるよう頼む。
「オレ、魔力の源が同族……元いた世界の仲間だと知って混乱した。だけどさ、復讐は諦められない。仲間を殺して魔力に変換したのも、今のオレの境遇も、全部アイツらのせいだ。だから戦う。魔力をぶつけて消滅させ、この世界で仲間が生まれ変われるように……」
綺麗事だな。そう思った。生まれ変われるとしても、それはもうオレの知ってる仲間じゃない。だから奪われたオレに返ってくることはないんだ。
いいじゃねえか、本音をぶちまけてしまえ。
「許せない! 平凡だったけど、オレのすべてを壊した連中を壊して、潰して、後悔させて、それでも殺したい。這いつくばって許しを乞う頭を踏み潰したい! だから――隣にいてくれ」
助けてくれなくていい。同情や協力は好きにしたらいい。ただ、この世界で一人にしないでくれ。ヴラゴは動けなくなり、リリィが信じられなくなった今、オレに残されたのはお前と双子だけだから。
ぐーるる、喉を僅かに振動させるものの、エイシェットは言葉を作らなかった。聞いていると相槌を打つだけの響きに、鱗を撫でることで返す。弱音を吐くのも迷うのも今日までだ。
必ず、後悔させてやる。
「死体を焼いてくる」
「頼んだ!」
ドーレク国で行った疫病作戦を覚えているからか、あっさり許可が降りる。舞い上がるドラゴンの背から眺める景色は、どこまでも広がる美しい緑の森だった。ぼんやりとかかった黒い霧さえなければ、この広い大地で魔族は人間と関わらずに生きていける。
ぐぁああ! 気を引く彼女の声に視線を落とし、足元に放り出された死体の山に溜め息を吐いた。
「焼き払う、か?」
彼女に任せるつもりだったが、それでいいか。尋ねるオレに高々と同意の声を上げたエイシェットが急降下した。手綱がなければ落とされたかも知れない。距離を詰めがら、炎のブレスが口から溢れでる。近づいた地上へ炎を吐き出し、急上昇に転じた。熱によって引き起こされた上昇気流を上手に利用し、ドラゴンは空を旋回する。
真っ赤に燃える木々の間で燻る黒い塊が人間の死体だろう。炎が弱かったか、重なった部分の死体はまだ残っている様子だ。
「エイシェット、もう少し旋回して」
その間に魔力を高めて、僅かに迷い深呼吸する。もう決めただろう、躊躇うな。自分に言い聞かせて命じた。
「ひっくり返せ」
大地がぐにゃりと盛り上がり、黒い塊をひっくり返した。鎧や剣などの金属ごと焼かれた死体は、溶けて混じり合っている。高温すぎるブレスを蓄え、エイシェットが期待の唸りを放つ。
「いいぞ」
許可を出した途端、下降して距離を詰めた彼女のブレスが死体に直接火をつけた。吐き気を催す不快な臭いが充満し、すぐに臭いすら焼き尽くす温度で二発目が追加される。完全に焼き尽くした銀竜は、興奮した声を上げて勝利をアピールした。
単純なようだが、これがドラゴンだ。オレに嘘をつかず、裏切らず、愛してくれる存在だった。焼き尽くした灰を大地に埋め、後始末を終えたオレはゆっくり舞う彼女を抱き締めるように倒れ込んだ。気遣って速度を落としたエイシェットに、遠回りしてくれるよう頼む。
「オレ、魔力の源が同族……元いた世界の仲間だと知って混乱した。だけどさ、復讐は諦められない。仲間を殺して魔力に変換したのも、今のオレの境遇も、全部アイツらのせいだ。だから戦う。魔力をぶつけて消滅させ、この世界で仲間が生まれ変われるように……」
綺麗事だな。そう思った。生まれ変われるとしても、それはもうオレの知ってる仲間じゃない。だから奪われたオレに返ってくることはないんだ。
いいじゃねえか、本音をぶちまけてしまえ。
「許せない! 平凡だったけど、オレのすべてを壊した連中を壊して、潰して、後悔させて、それでも殺したい。這いつくばって許しを乞う頭を踏み潰したい! だから――隣にいてくれ」
助けてくれなくていい。同情や協力は好きにしたらいい。ただ、この世界で一人にしないでくれ。ヴラゴは動けなくなり、リリィが信じられなくなった今、オレに残されたのはお前と双子だけだから。
ぐーるる、喉を僅かに振動させるものの、エイシェットは言葉を作らなかった。聞いていると相槌を打つだけの響きに、鱗を撫でることで返す。弱音を吐くのも迷うのも今日までだ。
必ず、後悔させてやる。
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