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第三章
97.守れるのは一人だけだ
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女神の祠を調べたが、どうやって転移したのか。痕跡は見当たらなかった。ここを逆に利用して入り込む方法は使えない。だが祠を残すことで、また侵入される危険があった。話し合った結果、この祠を破壊する案は却下される。人間のために、魔王城の敷地内にあるものを壊すこともない。封じればいいのだ。
「出口の穴を閉じたら、中に入った奴、どうなるんだろうな」
純粋な興味で呟いたところ、恐ろしいことを考えるなとエルフの婆さんに叱られた。転移に使う空間は特殊で、一種の異次元だと認識される。その空間に閉じ込められたら、時間が停止して死ぬことも出来ないと考えられていた。実際に閉じ込められて戻った奴がいないので、事実は不明だ。
巨人族は、引き千切られて何処かに落下すると伝わったらしい。どちらにしても余り良い結果ではない。まあ人間相手なので、出口は封じることにした。魔術により人間が転移する可能性はゼロだ。魔術の仕組みとして、転移は考えられない。ならば、この祠と対になる何かに、魔力を持つ者が触れたら作動した可能性があった。
出口を縛り上げて、魔力で囲った。徹底的に隙間を塞ぎ、二重三重に封じたところで安堵の息をつく。エルフの婆さんや獣人達の顔色も、目に見えて改善した。殺人犯がうろつく夜中の住宅街で、自宅の玄関の鍵が閉まらないのと同じだ。鍵を新調すれば安心できた。これでオレも出かけられる。
「バルトにしっかり報復してやるから、まあ吉報を待っててくれ」
「吉報以外寄越すんじゃないよ」
「お前なら楽勝だろ」
「せいぜい脅して苦しめてやれ」
エルフの婆さん、巨人、獣人とそれぞれの代表が手荒に送り出す。リリィとイヴは塔の上階にいて、綻んだ結界の修理をしながら見送ってくれた。エイシェットは魔王城の上をぐるりと周り、同族がいる方角へ一声鳴いた。返ってくる声を受け止めると、夕暮れの空をゆったりと飛ぶ。
「バルトはもう少し南だ」
方角を示して、置いてきた双子を思い浮かべた。カインとアベルは魔王城の防衛ラインとして残ってもらう。オレの気持ちが安定するから、そう言い聞かせた。実際は違う。もう親しい人を失いたくなかった。
エイシェットだけなら、オレの命に代えても逃す。空を飛べるし、圧倒的な火力を誇るドラゴンだ。それに加え、番という関係もあった。オレが置いていったら、無理しても追いかけてくる。知らない場所で危険な目に遭わせるくらいなら、隣で守った方が安心できた。
双子は魔力量の違いがなければ、オレより戦闘能力が高い。守るなんて烏滸がましいのだろう。だが……彼らは地上を駆ける森の王だ。獣の頂点に立つフェンリルである以上、地上で戦うことになる。直接人間と接して、その卑劣な罠にかかりでもしたら? 想像するのも恐ろしかった。
せめて片方は連れて行けと唸る彼らに、魔王城の守護として残って欲しいと頭を下げた。危なくなったら呼ぶことを条件に、ようやっと許可される。
くくっと喉を震わせて笑うと、エイシェットが不思議そうに喉を鳴らした。ぐる? 尋ねる響きに答える。
「カインもアベルも、まるでオレを幼児のように扱うんだぜ。おかしいだろ」
同意するエイシェットの首筋を撫でながら、オレは滲む涙を拭った。笑ったせいだ、悲しくなんてない。ヴラゴのおっさんの仇を取りに行くんだからな。自分に言い聞かせ、前を睨みつけた。左に沈んでいく夕日が最後の赤光を消し去る。暗闇が冷気を連れて訪れた。
――弔い合戦だ、派手に行こう。
「出口の穴を閉じたら、中に入った奴、どうなるんだろうな」
純粋な興味で呟いたところ、恐ろしいことを考えるなとエルフの婆さんに叱られた。転移に使う空間は特殊で、一種の異次元だと認識される。その空間に閉じ込められたら、時間が停止して死ぬことも出来ないと考えられていた。実際に閉じ込められて戻った奴がいないので、事実は不明だ。
巨人族は、引き千切られて何処かに落下すると伝わったらしい。どちらにしても余り良い結果ではない。まあ人間相手なので、出口は封じることにした。魔術により人間が転移する可能性はゼロだ。魔術の仕組みとして、転移は考えられない。ならば、この祠と対になる何かに、魔力を持つ者が触れたら作動した可能性があった。
出口を縛り上げて、魔力で囲った。徹底的に隙間を塞ぎ、二重三重に封じたところで安堵の息をつく。エルフの婆さんや獣人達の顔色も、目に見えて改善した。殺人犯がうろつく夜中の住宅街で、自宅の玄関の鍵が閉まらないのと同じだ。鍵を新調すれば安心できた。これでオレも出かけられる。
「バルトにしっかり報復してやるから、まあ吉報を待っててくれ」
「吉報以外寄越すんじゃないよ」
「お前なら楽勝だろ」
「せいぜい脅して苦しめてやれ」
エルフの婆さん、巨人、獣人とそれぞれの代表が手荒に送り出す。リリィとイヴは塔の上階にいて、綻んだ結界の修理をしながら見送ってくれた。エイシェットは魔王城の上をぐるりと周り、同族がいる方角へ一声鳴いた。返ってくる声を受け止めると、夕暮れの空をゆったりと飛ぶ。
「バルトはもう少し南だ」
方角を示して、置いてきた双子を思い浮かべた。カインとアベルは魔王城の防衛ラインとして残ってもらう。オレの気持ちが安定するから、そう言い聞かせた。実際は違う。もう親しい人を失いたくなかった。
エイシェットだけなら、オレの命に代えても逃す。空を飛べるし、圧倒的な火力を誇るドラゴンだ。それに加え、番という関係もあった。オレが置いていったら、無理しても追いかけてくる。知らない場所で危険な目に遭わせるくらいなら、隣で守った方が安心できた。
双子は魔力量の違いがなければ、オレより戦闘能力が高い。守るなんて烏滸がましいのだろう。だが……彼らは地上を駆ける森の王だ。獣の頂点に立つフェンリルである以上、地上で戦うことになる。直接人間と接して、その卑劣な罠にかかりでもしたら? 想像するのも恐ろしかった。
せめて片方は連れて行けと唸る彼らに、魔王城の守護として残って欲しいと頭を下げた。危なくなったら呼ぶことを条件に、ようやっと許可される。
くくっと喉を震わせて笑うと、エイシェットが不思議そうに喉を鳴らした。ぐる? 尋ねる響きに答える。
「カインもアベルも、まるでオレを幼児のように扱うんだぜ。おかしいだろ」
同意するエイシェットの首筋を撫でながら、オレは滲む涙を拭った。笑ったせいだ、悲しくなんてない。ヴラゴのおっさんの仇を取りに行くんだからな。自分に言い聞かせ、前を睨みつけた。左に沈んでいく夕日が最後の赤光を消し去る。暗闇が冷気を連れて訪れた。
――弔い合戦だ、派手に行こう。
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