【完結】虚

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
117 / 135
第三章

117.届きそうで届かない果実

しおりを挟む
「サクヤ、私がいる」

 抱きしめるエイシェットは、明らかにオレより小柄で細い。ドラゴンの時は大きいが、今の彼女はまだ成熟していない少女だった。なのに、エイシェットの腕が背中に回されて……オレは泣いた。零れる涙は止まらず、下に散らかったヴラゴの灰に染みていく。

 おかしくもないのに笑い、涙を溢れさせる。不安定なオレの姿に、双子も言葉を掛けられなかった。代わりに寄り添う温もりが遠慮がちに触れる。頭の上に蝙蝠が舞い降り、続いて数匹が肩や背中の空いた場所を埋めるように貼り付いた。

 慰められているのか。彼らの悔しさと痛みが突き刺される気がした。オレがいなければ、こんな事態にならなかった。5年前にオレが死んでいたら……彼らは今も生きていたのか? 違う、そうじゃない。こんな後悔は婆さんに殴られる。ヴラゴの生き方を否定する行為だ。

 婆さんもヴラゴも己の信条に従い散った。己の感情を信じてオレを助けた。その想いを後悔なんて汚い色で塗り潰すのは失礼だ。胸を占める黒い感情を抑え込んだ。

 リリィは簡単にオレを殺せた。後ろから胸を貫いた時、無防備に背を晒したオレの首を刎ねることも出来ただろう。だが動けなくするだけに留めた。その理由は何だ? オレは何かを見落としている。決定的な何かだ。おそらくリリィの弱点に当たる部分だろう。

 思いだせ。あの時彼女は何を言った? どう振舞った?

 いつも通りに整った姿で笑いながら、オレを罵った彼女は美しかった。あの姿は幻影ではない。ならば魔王城から離れられないはずの彼女が、どうやって移動したのか。前回のバルト国周辺でエイシェットが嗅ぎ取ったのも、間違いなくリリィだろう。

 彼女が現れる場所か、時間か、何かに共通点がある。魔王城から離れられない実体を、どうやって移動させた? 何が座標となり……ん?

 違和感がちりりと肌を焼く。オレは今、重要な部分に触れたかも知れない。意味のない笑いが収まったオレは、ぶつぶつと口の中で呟く。考えを整理するオレの姿に、エイシェットは抱き締める腕に力を込めた。直後、後頭部に痛みを感じる。

 がくんと倒れて意識を失ったのだろう。薄れていく意識の中で聞き取ったのは、カインとアベルの声だった。

「休ませるしか……」

「……狂っては」

「意味が……」

 心配する響きに「大丈夫だ」と答えてやりたくて、でももう動けなくて。吸い込まれるように意識が螺旋を描く。吐き気を催す不安定な感覚がオレを飲み込んだ。ダメだ、まだ考えている途中で……何か重要な部分にあと少しで手が届くのに。

 暗闇に伸ばしたつもりの手が灰を掴み、オレは完全に落ちた。暗闇の中で誰かが呼んでいた気がする。聞いただけで涙が浮かぶほど懐かしくて、優しくて、胸が痛かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...