【完結】年下夫は妻の訛りが愛おしい ~ただしヤンデレ風味~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
6 / 108

06.驚くほど立派なお部屋だわ

しおりを挟む
 離宮のお部屋は、すでに滞在準備が整っていた。王宮の侍女達は有能なのね。感心しながらお部屋を見て回る。入り口の正面に応接セット、扉はないけれど隣室にベッドがあった。寝室なのだけれど、ここはもう一つ扉がある。

 おそらく、夫になったシリル様のお部屋に繋がっているわ。お父様達のお部屋もそうだったもの。ただ、ヴァイセンブルクの王宮では、寝室の扉があったのよね。首を傾げたものの、慣習の違いでしょうと理解した。

 寝室には大きなベッドがあり……なぜ部屋の中央なのかしら。一辺くらい壁に接しているわよね? ど真ん中に置かれ、壁から離れている。よくわからないけれど、別に不自由はないからいいわ。頭の方角は壁に付いていたら、部屋が広く感じられるでしょうね。

 自室へ戻れば、左側の手前にアーチ状にくり抜かれた壁がある。中には小さめの部屋があった。窓がなく、壁に向かって机が備え付けられている。正面が棚になっているから、作業用? ラーラも後ろで首を傾げた。

「初めて見る造りでございますね」

「ええ、本を読むなら静かでいいかも」

「書斎はあちらにございましたし、暗いところで本を読むのは疲れます」

 違う目的の部屋かもしれない。後でシリル様に聞いてみよう。自室へ戻って隣の扉を開ければ、トイレやお風呂があった。書斎はどこかしら。尋ねたら、ラーラが一つの扉を示した。

「こちらでした」

「あら、広いのね」

 壁一面に本が並ぶ部屋は、窓からの光が差し込んで明るい。扉の先は少し通路になっていて、隠し部屋みたいに感じられた。この通路の幅が、お風呂やトイレの奥行きと同じみたい。歩数で数えて、頭の中に見取り図を描いた。

「クローゼットは?」

「こちらのようです」

 書斎の奥、本棚の影にやや細長い扉がある。案内されて入れば、広いクローゼットがあった。書斎と同じくらいある。お母様のクローゼットでも、こんなに広くないわ。ぽかんと口を開けて見まわし、慌てて手で隠した。はしたない。

「すごく広いのね」

「ドレスをトルソーで飾るようですね」

 大量のトルソーがあるので、ドレスの形が崩れないよう飾っておくみたい。ヴァイセンベルクは潰して吊るしていたから、その違いで広いのね。振り返れば、書斎側の壁に小さな引き出しがびっしりと並んでいた。

 本棚と背合わせで、お飾りを入れる棚がある。髪飾りやベルト、ショールなども細かく分けて収納できるので、効率的だわ。ここなら持ってきたドレスや宝飾品がすべて入るし、なんなら棚が余る。

「立派ね」

「褒めてくれてありがとう。マリー、兄上達がお呼びだから準備をしてもらえる?」

「は、はい!」

 寝室を抜けて、私達を探してくれたのだろう。細い通路の扉に寄りかかるシリル様に気づかなった。声をかけられて慌てたので、勢いよく振り返っちゃったわ。くすっと笑い、シリル様は「あとで迎えに来ます」と伝えて踵を返す。お礼を口にしてから、荷解きを……あの細い通路から?

「姫様、荷物を運びますので先に湯浴みをなさってください」

 専属侍女として連れてきたのは、ラーラだけ。きょとんとしている私を、王宮の侍女達が促す。あれよあれよと、お風呂に連れて行かれたが……服の下の包帯に気付き、彼女達は困惑した顔になった。

「拭くだけでいいわ。まだ包帯を解けないし」

 神殿でもそうだったの。付け加えた情報に、侍女達は顔を赤らめてお湯とタオルで身を清めてくれた。

 そこで気づく。もしかして、私とシリル様が閨事をしたと勘違いしている? 包帯の下に赤い印があると思われて? 言い訳しようとするも、なんと切り出せばいいのか。自分から違うんです、と言ったらおかしいし。どうしようか迷っている間に、香油も塗り終えてしまった。

 べ、別に言い訳しなくても……いいわよね? 国王陛下や王妃殿下にご理解いたければいいもの。開き直って、ラーラの選んだドレスに袖を通した。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

私に用はないのでしょう?

たくわん
恋愛
サクッと読める短編集

夏の眼差し

通木遼平
恋愛
 伯爵令嬢であるティナの婚約者とティナの妹が恋仲になり、ティナは婚約を解消することになる。婚約者に対して特に思い入れはなかったが、姉妹の婚約のすげ替えについての噂と勝手なことばかり言う妹に気疲れしたティナは、昔から彼女を気にかけてくれていたイライザ夫人の紹介で夫人の孫娘リネットの話し相手として雇われることになった。  家から離れ、リネット共に穏やかな日々を過ごすティナは、リネットの従兄であるセオドアと出会う。 ※他サイトにも掲載しています

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...