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13.身勝手で気まぐれなのは(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
固形物をほとんど食べたことがないのだろう。いつまでも肉を噛んで飲み込まないイシスに付き合うのも、面倒ではなく楽しい。もぐもぐと動く唇が肉の脂で光って、まるで誘うように動くのも目に嬉しい。だが、噛み過ぎじゃないか?
喉に詰まるのか。飲み込むのが難しいなら、出来るだけ柔らかい物から挑戦させた方がいいかも知れない。そう考えていれば、イシスは慌てて飲み込んだ。喉がごくりと動く。その喉に噛みつきたい衝動に駆られるから、肉の皿にさりげなく視線を逸らした。
「ん……もしかして固形物はダメか」
もっと細かく切ってやらないとな。自分が知る常識が当てはまらないイシスのために、肉を出来るだけ小さく切った。こんな子供相手に欲を覚えた自分に苦笑いし、イシスの口に小さな肉片を入れる。ついでにスプーンで食べられないか試してみたが、手に持ったままだった。
そうだよな、あの神殿に食器はなかった。スープも口をつけて飲まされてたんだから、スプーンの扱いなんて知ってるわけがない。後で使い方を覚えようと笑えば、にこにこと笑い返してきた。仕草が幼いせいか、庇護欲を誘う子供だ。
切り分けた肉や魚介類を口に運び、残りを自分の口に片付ける。味気ないと思っていた食事という作業が、イシスと一緒だと楽しくなるのは不思議だった。こういう感覚は初めてだ。
子供が一緒だからか、いつもなら食事中に男女問わず寄ってくる連中もない。気分よく食事を終える頃、腹が満ちて眠くなったイシスからカトラリーを取り上げる。フォークを目の近くに持っていたのは焦った。金属製の道具が、どれだけ危険か教えるのも忘れないようにしないと。
店の女将に片づけを頼み、イシスを抱き上げた。顔が見えないようしっかりガードするのは当然だ。
「さっきの部屋で寝よう。疲れただろ」
うとうとしているのか、返事はない。だが小さく動いた首が答えだった。部屋に戻ると、ベッドの上に降ろしたイシスの手が足を撫でている。それから足首を見つめて、ふわっと見惚れる笑みを浮かべた。寝転がる子供に近づき、頭を撫でてやる。
目線より高い位置から手を近づけると怖がる。撫でてもらうことを知らない。明らかに痩せて栄養不足の身体、鎖で繋がれていた足首。この子は神殿に供物として捧げられたのではなく、生贄として捨てられたのだ。最低限の餌に近い冷たい食事しか知らず、叩かれ殴られて神官の感情のはけ口にされた。
「しばらく留守にした間に、随分と舐めた真似してくれたもんだ」
人間のフリをして生活してみたい。彼らのいう感情を実感してみたい。そんな我が侭を振りかざして神殿を放り出したのは自分だ。だが……オレの加護色を持つ子供を虐待する許可は与えてないぞ。八つ当たりに近い感情は身勝手だった。
一方通行の怒りだが、これもまた神と呼ばれる者の特徴だ。人を助けるのも殺すのも、オレにとっては大差ない。だから過去に恩恵を受けた国が、オレに滅ぼされるのもまた……ひとつの気まぐれに過ぎなかった。
夜中にふと、子供が動いた。腕の中から逃げ出そうとする細くて柔らかい身体を捕まえる。
「……どうした? 便所か」
夜中に起きる理由がそのくらいしか思いつかない。声をかけると振り向いて両手でしがみつかれた。驚いて目が冴えてしまう。オレがいなくなると思ったのか、彼愛用の毛布に顔を埋めて両手で掴んでくる。小さな手に手を重ねれば、驚くほど気持ちが安らいだ。
人間が言う感情に振り回されるという表現が、やっと理解できてきた。存外悪くないかも知れない。すっかり目が覚めてしまったので、次はこの子に何を教えようと考えながら寝顔を眺めて朝を迎えた。
固形物をほとんど食べたことがないのだろう。いつまでも肉を噛んで飲み込まないイシスに付き合うのも、面倒ではなく楽しい。もぐもぐと動く唇が肉の脂で光って、まるで誘うように動くのも目に嬉しい。だが、噛み過ぎじゃないか?
喉に詰まるのか。飲み込むのが難しいなら、出来るだけ柔らかい物から挑戦させた方がいいかも知れない。そう考えていれば、イシスは慌てて飲み込んだ。喉がごくりと動く。その喉に噛みつきたい衝動に駆られるから、肉の皿にさりげなく視線を逸らした。
「ん……もしかして固形物はダメか」
もっと細かく切ってやらないとな。自分が知る常識が当てはまらないイシスのために、肉を出来るだけ小さく切った。こんな子供相手に欲を覚えた自分に苦笑いし、イシスの口に小さな肉片を入れる。ついでにスプーンで食べられないか試してみたが、手に持ったままだった。
そうだよな、あの神殿に食器はなかった。スープも口をつけて飲まされてたんだから、スプーンの扱いなんて知ってるわけがない。後で使い方を覚えようと笑えば、にこにこと笑い返してきた。仕草が幼いせいか、庇護欲を誘う子供だ。
切り分けた肉や魚介類を口に運び、残りを自分の口に片付ける。味気ないと思っていた食事という作業が、イシスと一緒だと楽しくなるのは不思議だった。こういう感覚は初めてだ。
子供が一緒だからか、いつもなら食事中に男女問わず寄ってくる連中もない。気分よく食事を終える頃、腹が満ちて眠くなったイシスからカトラリーを取り上げる。フォークを目の近くに持っていたのは焦った。金属製の道具が、どれだけ危険か教えるのも忘れないようにしないと。
店の女将に片づけを頼み、イシスを抱き上げた。顔が見えないようしっかりガードするのは当然だ。
「さっきの部屋で寝よう。疲れただろ」
うとうとしているのか、返事はない。だが小さく動いた首が答えだった。部屋に戻ると、ベッドの上に降ろしたイシスの手が足を撫でている。それから足首を見つめて、ふわっと見惚れる笑みを浮かべた。寝転がる子供に近づき、頭を撫でてやる。
目線より高い位置から手を近づけると怖がる。撫でてもらうことを知らない。明らかに痩せて栄養不足の身体、鎖で繋がれていた足首。この子は神殿に供物として捧げられたのではなく、生贄として捨てられたのだ。最低限の餌に近い冷たい食事しか知らず、叩かれ殴られて神官の感情のはけ口にされた。
「しばらく留守にした間に、随分と舐めた真似してくれたもんだ」
人間のフリをして生活してみたい。彼らのいう感情を実感してみたい。そんな我が侭を振りかざして神殿を放り出したのは自分だ。だが……オレの加護色を持つ子供を虐待する許可は与えてないぞ。八つ当たりに近い感情は身勝手だった。
一方通行の怒りだが、これもまた神と呼ばれる者の特徴だ。人を助けるのも殺すのも、オレにとっては大差ない。だから過去に恩恵を受けた国が、オレに滅ぼされるのもまた……ひとつの気まぐれに過ぎなかった。
夜中にふと、子供が動いた。腕の中から逃げ出そうとする細くて柔らかい身体を捕まえる。
「……どうした? 便所か」
夜中に起きる理由がそのくらいしか思いつかない。声をかけると振り向いて両手でしがみつかれた。驚いて目が冴えてしまう。オレがいなくなると思ったのか、彼愛用の毛布に顔を埋めて両手で掴んでくる。小さな手に手を重ねれば、驚くほど気持ちが安らいだ。
人間が言う感情に振り回されるという表現が、やっと理解できてきた。存外悪くないかも知れない。すっかり目が覚めてしまったので、次はこの子に何を教えようと考えながら寝顔を眺めて朝を迎えた。
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