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40.悪い奴がくる
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朝からセティの機嫌が悪いみたい。ご飯を食べて一緒に外へ出たけれど、いつもより歩く速度が速い。僕の足はまだたくさん歩けなくて、靴を引きずってしまった。
「ん?」
振り返ったセティに、びくりと身体を震わせる。どうしよう、怒られちゃうのかな。セティにちゃんとついていけないと、もういらないと言われるかも。鼻の奥がツンとして目が熱くなった。じわじわと涙が滲んで、慌てて袖で擦る。
「ああ、悪い。お前に怒ってんじゃないから泣くな」
「……ぼく、ごめ、な……ぃ」
ちゃんと話したいのに、ひっくと変な息が出る。セティに謝る言葉も伝わらなくて、もう一度口を開いたら抱き上げられた。ふわっとした後、セティが抱っこして背中を叩いてくれる。こわごわ回した手を怒られなかったから、力を込めてみた。首のところに顔をうずめると、セティの匂いがする。
歩き出したセティに揺られながら、僕はまだひっくと変な息をしていた。これ、止めようとしても止まらない。苦しいからもう嫌なのに。
「ひっく」
「苦しいか? ごめんな、さすがにしゃっくりは治せない」
状態異常の一種だが病気じゃないから、そう謝るセティが僕の背中をとんとん叩く。しゃっくりあげる僕の音と背中のリズム、温かなセティの体温に気持ちが落ち着いてきた。鼻を啜る仕草に、布で丁寧に鼻を拭かれる。
「ごめん、イシスは何も悪くない」
「うん」
しゃっくりが徐々に減ってきた。呼吸が楽になると、ゆらゆら揺れるセティの抱っこが気持ちよくて眠くなる。
「泣くと疲れるんだ、寝てていいぞ」
そういって髪を撫でてくれた。今日は僕もセティも同じ赤い髪だ。目も青になってて、出会った頃と同じだった。昨日の黒と紫のセティも好きだけど、こっちも安心する。
うとうとしながらセティの首の向こうを眺めていると、見たことがある人がいた。黒い人は昨日の夜に宿の窓から見えた人?
声に出して知らせようとしたが、どうしても眠くて我慢できない。目を閉じてしまった。だから心の中で神様を呼ぶ。
神様、セティ……後ろに昨日の黒い人。
セティは振り返らずに、ゆっくり立ち止まった。屋台で買い物を始めた。その間に確認したらしく、僕の背中にぽんと合図をくれた。よかった……そこで僕は眠りに負けたみたい。
「っ! やめろ」
叫んだ声にびくっと肩を震わせた。誰もいない細くて暗い道だ。きょろきょろしていると、目を手で覆われた。
「イシス、目を閉じて耳を塞げ。悪い奴が入ってくるぞ」
前に聞いたことがある。お爺ちゃんが絵本を見ながら教えてくれた。子供を連れてっちゃう悪い奴がいて、それは黒い。だから目を閉じて耳を塞いで、何も話さない。そうしたら子供がいるって気づかないで、悪い奴は行っちゃう。慌てて僕は目をギュッと閉じた。それから耳を両手で塞いで、唇を尖らせる。これで平気。
セティに抱っこされたまま、僕は暗闇にいた。音も光もないけど、セティの温かさがある。胸がどきどきして、お臍の上がきゅっとした。
とんとん叩くセティの指に目を開こうとして、慌てて閉じ直す。悪い奴がきたら、セティから離されちゃう。すると額に、頬にキスがあったみたい。尖らせた唇にも触れた。
ゆっくり目蓋を上げると、セティが笑った。ほっとして手を離す。
「もういいぞ。よく出来たな」
そういってもう一度キスをくれた。唇に触れた後、ちゅっと音がする。これは終わりの合図――安心して僕はセティに抱きついた。
「ん?」
振り返ったセティに、びくりと身体を震わせる。どうしよう、怒られちゃうのかな。セティにちゃんとついていけないと、もういらないと言われるかも。鼻の奥がツンとして目が熱くなった。じわじわと涙が滲んで、慌てて袖で擦る。
「ああ、悪い。お前に怒ってんじゃないから泣くな」
「……ぼく、ごめ、な……ぃ」
ちゃんと話したいのに、ひっくと変な息が出る。セティに謝る言葉も伝わらなくて、もう一度口を開いたら抱き上げられた。ふわっとした後、セティが抱っこして背中を叩いてくれる。こわごわ回した手を怒られなかったから、力を込めてみた。首のところに顔をうずめると、セティの匂いがする。
歩き出したセティに揺られながら、僕はまだひっくと変な息をしていた。これ、止めようとしても止まらない。苦しいからもう嫌なのに。
「ひっく」
「苦しいか? ごめんな、さすがにしゃっくりは治せない」
状態異常の一種だが病気じゃないから、そう謝るセティが僕の背中をとんとん叩く。しゃっくりあげる僕の音と背中のリズム、温かなセティの体温に気持ちが落ち着いてきた。鼻を啜る仕草に、布で丁寧に鼻を拭かれる。
「ごめん、イシスは何も悪くない」
「うん」
しゃっくりが徐々に減ってきた。呼吸が楽になると、ゆらゆら揺れるセティの抱っこが気持ちよくて眠くなる。
「泣くと疲れるんだ、寝てていいぞ」
そういって髪を撫でてくれた。今日は僕もセティも同じ赤い髪だ。目も青になってて、出会った頃と同じだった。昨日の黒と紫のセティも好きだけど、こっちも安心する。
うとうとしながらセティの首の向こうを眺めていると、見たことがある人がいた。黒い人は昨日の夜に宿の窓から見えた人?
声に出して知らせようとしたが、どうしても眠くて我慢できない。目を閉じてしまった。だから心の中で神様を呼ぶ。
神様、セティ……後ろに昨日の黒い人。
セティは振り返らずに、ゆっくり立ち止まった。屋台で買い物を始めた。その間に確認したらしく、僕の背中にぽんと合図をくれた。よかった……そこで僕は眠りに負けたみたい。
「っ! やめろ」
叫んだ声にびくっと肩を震わせた。誰もいない細くて暗い道だ。きょろきょろしていると、目を手で覆われた。
「イシス、目を閉じて耳を塞げ。悪い奴が入ってくるぞ」
前に聞いたことがある。お爺ちゃんが絵本を見ながら教えてくれた。子供を連れてっちゃう悪い奴がいて、それは黒い。だから目を閉じて耳を塞いで、何も話さない。そうしたら子供がいるって気づかないで、悪い奴は行っちゃう。慌てて僕は目をギュッと閉じた。それから耳を両手で塞いで、唇を尖らせる。これで平気。
セティに抱っこされたまま、僕は暗闇にいた。音も光もないけど、セティの温かさがある。胸がどきどきして、お臍の上がきゅっとした。
とんとん叩くセティの指に目を開こうとして、慌てて閉じ直す。悪い奴がきたら、セティから離されちゃう。すると額に、頬にキスがあったみたい。尖らせた唇にも触れた。
ゆっくり目蓋を上げると、セティが笑った。ほっとして手を離す。
「もういいぞ。よく出来たな」
そういってもう一度キスをくれた。唇に触れた後、ちゅっと音がする。これは終わりの合図――安心して僕はセティに抱きついた。
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