【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

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41.絵本を買おうか(SIDEセティ)

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*****SIDE セティ



 昨夜のアトゥムの訪問を引きずったせいで、イシスを不安にさせた。不甲斐ない。感情ひとつ抑えられない男だったか? それ以前に、人間らしく装うことはあっても、実際に感情に揺らされたのは記憶になかった。

 こんなに儘ならないものが感情なら、人間が不安定なのも理解できる。慰めて歩く間に、イシスが頭の中でオレを呼ぶ。声に出さない理由は、後ろの追跡者に気づかれるからか。物は知らないが賢い子だ。追跡者には、宿を出る前から監視されていた。

 イシスが気付いたなら、頃合いだ。裏路地へ入って叩きのめした。監視や暗殺を請け負う者は、命乞いしないし叫ばない。そんな不文律を平然と破った素人を殴り飛ばし、イシスに見せないよう隠した。

 唇を尖らせた姿が、キスを強請るみたいで可愛い。もういいと伝えようとして、耳も目も塞いだ状態に気づいた。背を叩いて合図しても動こうとしない。悪戯とオレの役得を合わせて、キスで気づかせることにした。

 イシスは絵本が好きだ。文字は読めないが、絵を見るのが楽しいらしい。あの洞窟の神殿から持ってきた絵本を何度も眺め、あれこれと考えを巡らせていた。いつか字を教えるつもりだが、そのために今日は絵本を買い与えるつもりだ。

 いつまでも目を閉じて耳を塞いでいては、何も手にできない。ふと、この子の人生はずっとこうだったのかと思い至る。寂しいのに手を伸ばせず、怖いから我慢して、ずっと目も耳も口も塞いできた。そう思ったら愛しさが溢れる。触れるだけのキスに想いを乗せて、額、頬、鼻、唇と順番にたどった。

「もういいぞ。よく出来たな」

 褒めるささやかな言葉に目を輝かせて、嬉しいと心の中を喜びで埋め尽くす。可愛くて哀れで、どこまでも愛しかった。これが愛情ならば、確かに狂う奴もでる。この子が望んだら、他の神をすべて敵に回しても戦えるだろう。

「絵本を買わないか? せっかくだから文字を覚える本も探そう」

「絵本? いっぱい色がある本がいい」

 外見は12歳だが、おそらく16歳前後か。本当なら文字の読み書きや計算はもちろん、さまざまな知識を蓄えている年齢だ。だが何もわからず、無垢で純粋な子供は色の名前すらろくに知らなかった。

 これが慈愛や共存共栄を説く教会のやり方なら、残酷にも程がある。生命も身体も心も、神に捧げる為に閉じ込められた贄――オレだけの存在だった。もしオレが気紛れを起こさず、あの日迎えに行かなければ、まともな食事も与えられないこの子は死んでいた。

 教会や大司教との面会は明日にしよう。もう1日、イシスのこの笑顔に免じて命を伸ばしてやる。

 口角を持ち上げて笑ったオレは、目をつけていた本屋がある通りへ向かって足を踏み出す。細くて痩せた子供を抱っこして移動するオレは目立つだろう。他の追跡者や監視者も手を出しづらい状況を作り上げ、オレはイシスが満足する絵本を探すために本屋の敷居を跨いだ。
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