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78.林檎味のキス(SIDEセティ)
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*****SIDE セティ
猫を閉じ込める籠を買ってくるよう、ゲリュオンに命じた。というのも、夜にイシスを抱き寄せるオレの邪魔をするのだ。アトゥムだった頃の記憶や人格が消えた途端に、イシスに懐いてしまった。あの子が喜んでいるので、取り上げるわけにもいかない。
昨夜も仲良しのお呪いをすると寄ってきたイシスを抱き寄せたら、足に噛みつきやがった。爪を立てて抵抗する子猫を風呂場の扉の向こうに追いやったら、同情を誘う鳴き声でイシスの気を引く。おかげで、キスも満足にできなかった。
宿の人間に聞いたところ、猫は狭くて暗い籠や箱の中が好きだという。近くに慣れた人の気配があれば、大人しく寝ているそうだ。籠は必須アイテムとなった。
「今日は上手にできたな」
食事のマナーは、覚えておいて損はない。オレは手づかみでも気にしないが、イシスに神格を下ろすことになれば、彼が恥をかく可能性があった。一緒に未来を歩くことを考えても、立場に相応しい立ち居振る舞いを覚えておいた方がいい。
時間はたっぷりある。イシスのペースでゆっくり、無理をしない範囲で覚えたらいいだろう。膝の上に乗せたイシスに、剥いた果物を差し出す。赤い皮を綺麗に残して、模様切りをしてみた。これは先日購入した本に混じっていた料理本を参考にしたが……。
「きれぇ」
嬉しそうに呟いていつまでも眺めている。可愛いのだが、食べないと無駄になるぞ。笑いながら指摘すると、慌てて口に運んだ。
お腹がいっぱいになるまで食べることがないイシスは、いつも食事を残そうとする。最初は胃が小さくて受け付けなかったようだが、今は違った。尋ねたら明日の分だと言われたので切なくなる。毎日用意するから出された分は食べていいと教え、ようやく納得させたばかりだった。
イシスは名前も与えられず、生け贄として神殿へ捧げられた。連れ出したときも執着した私物は毛布だけ。実用品だ。だからぬいぐるみを与えた。フォンと名付けて大切にしている。灰色の犬らしきぬいぐるみを抱っこするイシスは、理屈抜きで可愛かった。
膝の上に座り、自分の膝にフォンを乗せる。ご機嫌のイシスは右手で林檎を食べ終えると、汚れた手をじっと見つめた。そっと左手でぬいぐるみを横に置き、テーブルの上の布で手を拭く。それから慌てて戻ってきた。
「急がなくても大丈夫だぞ」
「ううん。セティがいなくなると困るもん」
頬を赤く染めてそう呟くイシスの首筋にキスをした。擽ったいと首を竦めたら、黒髪に、それから頬や額に……期待を込めて振り向くのを待つ。イシスに教え込んだのは、キスを含めた触れ合いの心地よさだ。キスの最後は必ず唇で終わるように、何度も同じ手順で接吻けてきた。
「ここ、も」
足りないと訴えて振り返ったイシスが、唇を指で示す。だから愛らしい唇を塞いでぺろりと舐め、オレは「ご馳走様」と呟いた。キスはほんのり林檎の味がした。
猫を閉じ込める籠を買ってくるよう、ゲリュオンに命じた。というのも、夜にイシスを抱き寄せるオレの邪魔をするのだ。アトゥムだった頃の記憶や人格が消えた途端に、イシスに懐いてしまった。あの子が喜んでいるので、取り上げるわけにもいかない。
昨夜も仲良しのお呪いをすると寄ってきたイシスを抱き寄せたら、足に噛みつきやがった。爪を立てて抵抗する子猫を風呂場の扉の向こうに追いやったら、同情を誘う鳴き声でイシスの気を引く。おかげで、キスも満足にできなかった。
宿の人間に聞いたところ、猫は狭くて暗い籠や箱の中が好きだという。近くに慣れた人の気配があれば、大人しく寝ているそうだ。籠は必須アイテムとなった。
「今日は上手にできたな」
食事のマナーは、覚えておいて損はない。オレは手づかみでも気にしないが、イシスに神格を下ろすことになれば、彼が恥をかく可能性があった。一緒に未来を歩くことを考えても、立場に相応しい立ち居振る舞いを覚えておいた方がいい。
時間はたっぷりある。イシスのペースでゆっくり、無理をしない範囲で覚えたらいいだろう。膝の上に乗せたイシスに、剥いた果物を差し出す。赤い皮を綺麗に残して、模様切りをしてみた。これは先日購入した本に混じっていた料理本を参考にしたが……。
「きれぇ」
嬉しそうに呟いていつまでも眺めている。可愛いのだが、食べないと無駄になるぞ。笑いながら指摘すると、慌てて口に運んだ。
お腹がいっぱいになるまで食べることがないイシスは、いつも食事を残そうとする。最初は胃が小さくて受け付けなかったようだが、今は違った。尋ねたら明日の分だと言われたので切なくなる。毎日用意するから出された分は食べていいと教え、ようやく納得させたばかりだった。
イシスは名前も与えられず、生け贄として神殿へ捧げられた。連れ出したときも執着した私物は毛布だけ。実用品だ。だからぬいぐるみを与えた。フォンと名付けて大切にしている。灰色の犬らしきぬいぐるみを抱っこするイシスは、理屈抜きで可愛かった。
膝の上に座り、自分の膝にフォンを乗せる。ご機嫌のイシスは右手で林檎を食べ終えると、汚れた手をじっと見つめた。そっと左手でぬいぐるみを横に置き、テーブルの上の布で手を拭く。それから慌てて戻ってきた。
「急がなくても大丈夫だぞ」
「ううん。セティがいなくなると困るもん」
頬を赤く染めてそう呟くイシスの首筋にキスをした。擽ったいと首を竦めたら、黒髪に、それから頬や額に……期待を込めて振り向くのを待つ。イシスに教え込んだのは、キスを含めた触れ合いの心地よさだ。キスの最後は必ず唇で終わるように、何度も同じ手順で接吻けてきた。
「ここ、も」
足りないと訴えて振り返ったイシスが、唇を指で示す。だから愛らしい唇を塞いでぺろりと舐め、オレは「ご馳走様」と呟いた。キスはほんのり林檎の味がした。
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