【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
201 / 321

200.主神の伴侶に暴力をふるうのか

しおりを挟む
 次の瞬間、僕は叩かれていた。恐ろしさで座った僕の髪を掴んで引っ張りながら、頬を叩かれる。両側叩かれたところで、隣室の扉が開いた。ぶわっと風が吹いて僕は転がる。聞き慣れたゲリュオンの声が怒りを孕んだ。僕を守るように、ゲリュオンが威嚇しながら近づく。

「おいおい、この神殿は主神の伴侶に暴力をふるうのか!?」

「うるさいっ! このような男娼がタイフォン様のお相手のはずが……この首の痕は誰かれ構わず男を漁った証拠っ!」

 何を言われてるのか分からない。怖い、やだ……嫌だよ。助けて! 痛い、怖い、苦しい。こんなの我慢できない。混乱して息が苦しくなった。吐いた息を吸い込むのって、どうやるの? 頭がずきずきして気持ち悪い。吐きそうになりながら叫んだ。

「助けてセティ! お父さん、お母さん!! 苦しいよ」

 ぐいと引っ張られた手をゲリュオンが撥ね退け、駆け寄ったシェリアが抱きしめてくれた。いつの間にか人の姿に戻っている。がたがたと震えながら頭を抱える僕を、少女の手が包んだ。強く弱く握る彼女の手に合わせて、呼吸を思い出す。苦しかった息が楽になってきた。大きく吐いて、吸いこむだけ。頭全体がしびれて、ふわふわした。

「遅いぞ、ティフォン」

「助かった、ゲリュオン……はぁ、本当にこの神殿の神官は使い物にならねえな。爺さん以外の神官は処分するか」

 セティの声が聞こえて、まだ震えの止まらない僕を慣れた香りが包んだ。セティの匂いだ。セティが来てくれた。僕、迷惑じゃないよね? 涙を浮かべた目で見上げた先で、セティが「もう大丈夫だ、離れて悪かった」と謝った。謝らなくていいから、僕が悪くてもいいから、手を離さないで。

 震えが止まらない手を伸ばすと、セティが苦しそうな顔で受け止める。シェリアが手を離し、僕はセティに抱き締められた。痛いくらい強く抱くセティの腕が、すごく嬉しい。苦しくても痛くてもいいから、僕を離さないで。ずっと一緒にいて。

 くらりと目の前の景色が歪む。セティに体を預けて目を閉じた。ゆっくり息をして、セティの匂いを胸いっぱいに満たす。騒々しくなる外の音は聞こえても無視した。今の僕に大切なのは、セティが僕に触れていること。

「何事が……っ、まさか!? 伴侶様に、何か……ああ、何という、申し訳ございませぬ」

 お爺ちゃんの声と何かが壊れる音、それから女の人の苦しそうな息が聞こえた。気持ちが少し落ち着いてきて、僕はゆっくり目を開く。見えたのは、豪華な絨毯とセティの首筋だった。滲んだ涙を瞬きして落とし、手を突っ張ってみる。抱き上げ直したセティは横抱きにしてくれた。

 絨毯の先でお爺ちゃんが床に頭を当てていて、外の武器を持った人たちも同じ姿だ。さっきの女の人は……壁に貼り付けられていた。仕組みは分からないけど、前に見た罪人の磔みたい。ゲリュオンが怖い顔で怒ってるし、シェリアも唇を尖らせていた。

「そこの女を含め、すべての神官は解雇する。神官長以外は出ていけ」

 警護は残ってもいい。そう付け足したセティの声は低くて、怖かった。何か言おうと口を開いた僕は、いきなり開けた天井に驚く。空が見えて、すぐにお父さんが顔を突っ込んだ。

『無事か、我が息子よ』

『イシス、大丈夫かい?』

『おい、押すなって』

 お母さんが心配の声を掛けた後、フェリクスお兄さんが首を突っ込もうとしてルードルフお兄さんと頭をぶつけた。騒がしくなった隙間からボリスが飛び降りる。立派な机もベッドも、全部踏み潰しちゃった。

「セティ、家壊れちゃったね」

「ん? 別に使わねえからいいよ。それより、今夜もどこかにお泊りだな」

 にやりと笑ったセティに、お父さん達が一斉に抗議したけど……何か言われて黙った。心配そうに僕を見るの、何で?
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと
BL
「こんな僕をお兄ちゃんは嫌ってるだろうな」 トップ俳優な完璧超人の義理の兄×不幸な自己肯定感低めのネガティブ義理の弟です。 お金ない受けが追い詰められて変なアルバイトしようとしたら、攻めと再会して……?みたいな話です。 攻めがヤンデレ気味で、受けがマジで卑屈なので苦手な人はブラウザバックで。 兄弟は親が離婚してるため、苗字が違います。 攻め:水瀬真広 受け:神崎彼方 ⚠️作者は芸能界にもお葬式ににもエアプなので、気にしないでください。 途中でモブおじが出てきます。 義理とはいえ兄弟なので、地雷の人はブラウザバックで。 初投稿です。 初投稿がちょっと人を選ぶ作品なので不安です。 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

新年に余り物でおせちを作ったら、冷酷と噂の騎士団長様に「運命の番」だと求婚されました

水凪しおん
BL
料理人だった俺が転生したのは、男性オメガというだけで家族に虐げられる不遇の青年カイ。 新年くらいはと前世の記憶を頼りに作ったのは、この世界にはない『おせち料理』だった。 それを偶然口にしたのは、氷のように冷酷と噂される最強の騎士団長リアム。 「お前は俺の運命の番だ」 彼の屋敷に保護され、俺の作る料理が彼の心を溶かしていく。 不器用で、だけどまっすぐな愛情を注いでくれる彼と、美味しい料理で紡ぐ、甘くて温かい異世界スローライフ。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

【本編完結済】神子は二度、姿を現す

江多之折(エタノール)
BL
1/7外伝含め完結 ファンタジー世界で成人し、就職しに王城を訪れたところ異世界に転移した少年が転移先の世界で神子となり、壮絶な日々の末、自ら命を絶った前世を思い出した主人公。 死んでも戻りたかった元の世界には戻ることなく異世界で生まれ変わっていた事に絶望したが 神子が亡くなった後に取り残された王子の苦しみを知り、向き合う事を決めた。 戻れなかった事を恨み、死んだことを後悔し、傷付いた王子を助けたいと願う少年の葛藤。 王子様×元神子が転生した侍従の過去の苦しみに向き合い、悩みながら乗り越えるための物語。 ※小説家になろうに掲載していた作品を改修して投稿しています。 描写はキスまでの全年齢BL

処理中です...