4 / 123
04.誰が迎えに行くかで剣を抜く公爵家
しおりを挟む
エインズワース家――オリファント王国で唯一の公爵家であり、最高位の貴族だ。あらゆる面で王国を支える重鎮だった。分家のテルフォード侯爵は宰相職に就き、同じく分家のブレスコット伯爵は騎士団長を務める。文官武官共に最高位をエインズワースの分家が占めるのは、他に有能な配下がいない王国の現状が関係していた。
数年前に大きな戦いがあった。オリファント王国の南にある森から、大量の魔物が溢れ出したのだ。その前線で先頭を切って戦い、勝利を収めたのがエインズワース公爵家だった。通常、王族の血を引く者以外が「公爵」の地位を引き継ぐことはない。
だが、公爵を名乗れる理由があった。エインズワース家の当主アイヴァンの妻は、マーランド帝国の皇女ジャスミンなのだ。公爵の地位は帝国で与えられた爵位だった。オリファント王国の東は海に接している。南から西にかけ魔物が発生する森、北は巨大な軍事国家マーランド帝国が押さえていた。
逃げ場のない小国が生き残れた理由は、海産物や塩による利得だ。貿易により得られる利益は国を富ませ、帝国に対しての切り札となった。それは同時に、攻め込まれる要件を満たしたことと同意語だ。豊かな土地と塩を継続的に手に入れようと思うなら、己の領地に組み込むのが早い。
待ったをかけたのがアイヴァンだった。南の危険な森を領地とする彼は、魔物から採れる魔力石や毛皮などの副産物を餌に帝国を踏みとどまらせた。救国の英雄と呼んでも差し支えない。ゆえに危険な領地と知りながらも、森と接するエインズワース領に移住する民は絶えなかった。民に慕われているのだ。
その救国の英雄は、届いた知らせに顔を歪めた。
「なんだと?! あのバカ王子が我らが珠玉の姫グレイスに……婚約、破棄? 破棄できる立場かっ、あのクソガキめ。盟約を破棄するぞ」
王国との間に設けられた盟約を破棄すれば、エインズワースの総力がこの領地に集結する。それを知りながら、つなぎの王子を宛がっただけではなく……娘の面目を潰したのだ。殺しても飽き足りない。口から火炎を噴きそうな勢いで呻く当主に、使者となった騎士は一言添えた。
「あの王子は浮気相手を両手に」
火に油を注ぐ言葉に、アイヴァンはにたりと笑った。厳つい顔に残る魔獣の爪痕が歪み、より恐ろしさを演出する。
「姫様は気高く美しいまま、毅然と王城を後になさいました。今から迎えを出せば、貿易都市ウォレスで合流可能かと思います」
「うむ、ご苦労だった。しっかり休め」
労われた騎士達が最敬礼で部屋を出る。見送った途端、部屋の扉を蹴破らん勢いで息子達が飛び込んだ。父によく似た長男カーティス、母親似の次男メイナードは妹グレイスを溺愛している。
「父上、今のお話はっ」
「何ということだ。グレイスが泣いているかも知れません」
迎えに行きたい! そう主張する息子達に、父は大きく頷いた。
「分かっておる。グレイスの迎えにはわしが出る故、そなたらは領地を守れ」
「これから王家との戦になるのに、当主が陣地を離れるなど問題です!」
「私が行ってきます」
息子らの反論に、アイヴァンも譲らない。
「何を言うか! わしが行くんじゃ!!」
「……誰でも構いません。いっそ剣で決着をおつけなさい」
おっとりした口調に呆れを滲ませながら、扉の先で麗しき公爵夫人がとんでもない提案をする。男達は頷きあうと武器を手に中庭に出た。その間に夫人は手を回す。
「決着がつくまでに半日はかかるわね。弟のユリシーズを向かわせましょう」
中庭では、実戦さながらの剣戟の音が響き渡る。公爵夫人ジャスミンは扇で口元を隠しながら「暑苦しいこと」と微笑んだ。
数年前に大きな戦いがあった。オリファント王国の南にある森から、大量の魔物が溢れ出したのだ。その前線で先頭を切って戦い、勝利を収めたのがエインズワース公爵家だった。通常、王族の血を引く者以外が「公爵」の地位を引き継ぐことはない。
だが、公爵を名乗れる理由があった。エインズワース家の当主アイヴァンの妻は、マーランド帝国の皇女ジャスミンなのだ。公爵の地位は帝国で与えられた爵位だった。オリファント王国の東は海に接している。南から西にかけ魔物が発生する森、北は巨大な軍事国家マーランド帝国が押さえていた。
逃げ場のない小国が生き残れた理由は、海産物や塩による利得だ。貿易により得られる利益は国を富ませ、帝国に対しての切り札となった。それは同時に、攻め込まれる要件を満たしたことと同意語だ。豊かな土地と塩を継続的に手に入れようと思うなら、己の領地に組み込むのが早い。
待ったをかけたのがアイヴァンだった。南の危険な森を領地とする彼は、魔物から採れる魔力石や毛皮などの副産物を餌に帝国を踏みとどまらせた。救国の英雄と呼んでも差し支えない。ゆえに危険な領地と知りながらも、森と接するエインズワース領に移住する民は絶えなかった。民に慕われているのだ。
その救国の英雄は、届いた知らせに顔を歪めた。
「なんだと?! あのバカ王子が我らが珠玉の姫グレイスに……婚約、破棄? 破棄できる立場かっ、あのクソガキめ。盟約を破棄するぞ」
王国との間に設けられた盟約を破棄すれば、エインズワースの総力がこの領地に集結する。それを知りながら、つなぎの王子を宛がっただけではなく……娘の面目を潰したのだ。殺しても飽き足りない。口から火炎を噴きそうな勢いで呻く当主に、使者となった騎士は一言添えた。
「あの王子は浮気相手を両手に」
火に油を注ぐ言葉に、アイヴァンはにたりと笑った。厳つい顔に残る魔獣の爪痕が歪み、より恐ろしさを演出する。
「姫様は気高く美しいまま、毅然と王城を後になさいました。今から迎えを出せば、貿易都市ウォレスで合流可能かと思います」
「うむ、ご苦労だった。しっかり休め」
労われた騎士達が最敬礼で部屋を出る。見送った途端、部屋の扉を蹴破らん勢いで息子達が飛び込んだ。父によく似た長男カーティス、母親似の次男メイナードは妹グレイスを溺愛している。
「父上、今のお話はっ」
「何ということだ。グレイスが泣いているかも知れません」
迎えに行きたい! そう主張する息子達に、父は大きく頷いた。
「分かっておる。グレイスの迎えにはわしが出る故、そなたらは領地を守れ」
「これから王家との戦になるのに、当主が陣地を離れるなど問題です!」
「私が行ってきます」
息子らの反論に、アイヴァンも譲らない。
「何を言うか! わしが行くんじゃ!!」
「……誰でも構いません。いっそ剣で決着をおつけなさい」
おっとりした口調に呆れを滲ませながら、扉の先で麗しき公爵夫人がとんでもない提案をする。男達は頷きあうと武器を手に中庭に出た。その間に夫人は手を回す。
「決着がつくまでに半日はかかるわね。弟のユリシーズを向かわせましょう」
中庭では、実戦さながらの剣戟の音が響き渡る。公爵夫人ジャスミンは扇で口元を隠しながら「暑苦しいこと」と微笑んだ。
155
あなたにおすすめの小説
【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。
どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!
スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!
天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。
【完結】侍女が王女に転生?!英雄と結婚して破滅の国を救います!
カナタカエデ
ファンタジー
八十歳で生涯を終えた、元王宮侍女カリナ。
その最期の瞬間――枕元に、かつて仕えた王女アメリアが現れた。
「お願い…私の人生をやり直して。国を、私を、救って――」
次に目を開くと、カリナは十八歳の“王女アメリア”として転生していた。
彼女は知っている。
このままでは王国は滅び、愛する主君が破滅する未来を。
未来を変えるため、アメリアは
冷徹と噂される英雄ヴァルクとの政略結婚を選ぶ。
これは、かつて守れなかった主人のための転生。
そのはずなのに――彼への想いは、気づけば変わり始めていた。
王女と英雄が紡ぐ、破滅回避ラブファンタジー開幕。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
挿絵はA I画像を使用
10/20 第一章完結
12/20 第二章完結
2/16 第三章完結
他サイト掲載
(小説家になろう、Caita)
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される
黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」
無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!?
自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。
窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!
本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?
今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。
バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。
追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。
シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
【完結】そして異世界の迷い子は、浄化の聖女となりまして。
和島逆
ファンタジー
七年前、私は異世界に転移した。
黒髪黒眼が忌避されるという、日本人にはなんとも生きにくいこの世界。
私の願いはただひとつ。目立たず、騒がず、ひっそり平和に暮らすこと!
薬師助手として過ごした静かな日々は、ある日突然終わりを告げてしまう。
そうして私は自分の居場所を探すため、ちょっぴり残念なイケメンと旅に出る。
目指すは平和で平凡なハッピーライフ!
連れのイケメンをしばいたり、トラブルに巻き込まれたりと忙しい毎日だけれど。
この異世界で笑って生きるため、今日も私は奮闘します。
*他サイトでの初投稿作品を改稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる