【完結】やり直しの人形姫、二度目は自由に生きていいですか?

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢

文字の大きさ
55 / 117
本編

55.栄光の裏で味わった屈辱

しおりを挟む
 過去の栄光に縋る気はない。前回は救国の英雄と呼ばれたが、王家は働きに見合う報酬を用意しなかった。与えられたのは爵位と階級章のみ。軍の中での地位も安定せず、貴族としての振る舞いだけで金は消えていく。軍の報酬も上がらない状況で、出費だけが増えた。

 いっそ爵位の返上を願い出ようとしたが、そんなみっともないことは許さないと言われた。何がみっともないのか。元平民が、平民に戻るだけの話だ。これなら一兵卒の方がよほど豊かな暮らしをしている。すでに妻は亡く、残された一人娘の衣食に事欠く有様だった。

 家は妻の実家だった小さな屋敷だが、住む場所があるだけで有難い。妻同様に心優しい義父母はこの家を、孫娘に遺してくれた。舞踏会に呼ばれても、娘クリステルのドレスを誂えてやることも出来ない。そんな窮状を知り、手を差し伸べてくれたのは――肩を並べ戦ったオードラン辺境伯だった。

 町を歩く平民より貧しい暮らしを強いられる我らに、最初に届けられたのは食料だ。辺境伯ダヴィド卿自ら訪ねて来られ、日持ちのする食料から新鮮な肉や野菜を積み重ね「戦にはまず食料ぞ」と笑った。感謝の言葉と同時に笑いが零れ、礼を言う我ら親子に逆に頭を下げる。

「救国の英雄の窮状を、我らからも王家に陳情した。返答はない、それこそが答えであろうな」

 王家はバシュレ子爵家を英雄として利用する気だ。そう告げる彼の表情は曇っていた。かつては同じ学び舎で学年こそ違えど、共に学んだ国王陛下への怒りや失望が滲む。己の忠誠を尽くすに値する人物か見極めているようにも見えた。

「救国の英雄などと持ち上げてくださいますな。私は家族を守りたかった。その行動が結果として国をも救っただけのこと。爵位を返上し、平凡に生きていきたいのです」

 隣で一緒に頭を下げた娘を見て、辺境伯は話題を変えた。湿っぽい雰囲気は苦手らしい。

「我が妻は娘が欲しかったと、しきりに俺を責め立てる。可能であるなら、我が辺境伯家で妻の相手をしてもらえぬか? もちろん報酬は弾もう」

 譲り受けた祖父母の家を放置できないと言えば、管理人を手配された。報酬の低い軍を退役するつもりの英雄を惜しんだオードラン辺境伯は、己の領地内にある砦をひとつ任せたいと言う。正直、軍人以外の仕事を経験したことがないので助かる。有難く申し出を受けた。

 いずれ平民に戻るにしても、娘クリステルに教養や作法を学ばせることが出来れば、彼女の助けになるだろう。高位貴族の侍女になる道も開ける。そんなある日、呼ばれた夜会で蛮行を見た。

 地位が低く元平民であったため、入り口付近に控えていたのが悔やまれる。もっと近くにいれば、我が身を盾にしても公爵令嬢をお助けしたものを……。悔やむ私にダヴィド様は仰った。英雄の苦境を助けよと命じ、辺境伯家に予算を振り分けたのはフォンテーヌ公爵家であった――と。

 私は前回、恩人の宝を守ることが出来なかった。あの後の奮闘も、王家との戦いも、すべてが後悔の黒に染まっていた。だが今回は違う。目覚めた運命の朝、娘クリステルと誓ったのだ。救国の英雄でなくて構わぬ、今回はコンスタンティナ様を守る盾になる。

 クリステルはオードラン辺境伯夫人指導の下、淑女教育を頑張っている。あと少しで認めてもらえると笑った。フォンテーヌ公爵家のご令嬢を守るため、短剣での戦い方も身に付けた。今度こそ我らがお守りいたします。
しおりを挟む
感想 410

あなたにおすすめの小説

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです

田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。 「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」  どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。 それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。 戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。 更新は不定期です。

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係

つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...