106 / 117
本編
106.今度こそ守れた
しおりを挟む
騒がしくなった外が静まり、焦った表情のパトリスが私を立たせた。足はケガしていないので構わないけど、掴まれた腕が痛い。顔を顰めると、申し訳なさそうに謝る。でも手は緩めない。
この人は違う。父や兄だけじゃなく、カールやリッドもこの状況なら手を緩めるわ。離せない状況でも、私の痛みを優先して緩和してくれるはず。パトリスは私に好意を寄せている話をしたけれど、違うの。それは執着よ、愛情じゃないわ。
前回の記憶を少し話した彼は、あの夜会の前から私を好きだったと告げた。本当に好きなら、痛い思いをする私を気遣う。口先じゃなくて、行動で示してこそよ。だから、私は覚悟を決めた。
いざとなったら、彼を見捨てるしかない。私は私を愛して認めてくれる人と生きたいの。この決断が人として間違っていても、後悔しないわ。
バタンと扉を蹴破る音がして、人影が現れる。後ろから光が差す状況で、暗い室内から侵入者の顔は見えなかった。でも分かる、このシルエットはお兄様よ!
「おに……「ティナ、危ないっ!」」
小さな声を掻き消すシルお兄様の叫び。直後に飛び込んだ兄の手が伸ばされ、私は信じて目を閉じた。動かない、こういう場面で助けられる側の心得は動かないこと。合図もないのに不用意に逃げたりすれば、お兄様の行動を妨げてしまう。
大丈夫よ、怖いけれど平気。今回のお兄様は私を助けてくれる。ただ信じて待つのが、囚われた私の役目よ。ぎゅっと己を抱き締める私を、兄の左腕が抱き込む。強く引き寄せる力に逆らわず身を任せた。
「ぐぁああ!」
「無事か?」
痛みに叫んだ男性の声に重なる兄の声。恐る恐る目を開くと、私は兄の胸に抱かれていた。額に汗を浮かべた兄は、ぎこちなく笑う。右手の剣は私の後ろにいたパトリスの肩に刺さっていた。剣を離した兄が私の上に巻かれた布を裂き、ケガがないか確認していく。
「打った背中が痛いだけよ。ありがとう、お兄様」
「僕らもいたんだけどね」
くすくす笑いながら入ってきたのは、リッド。上着を脱いで私の肩に掛けたのはカールだった。
「あ、ずりぃ」
「女性を気遣うのは最優先だ」
リッドとカールの言い合いが始まり、ほっとした顔の兄が私を抱き上げようとした。だが左腕から力が抜ける。気になって伸ばした手に、ぬるりと血がついた。
「お兄様!?」
「ああ、心配するな。その男のナイフが掠めただけだ」
軽いケガだと笑うが、その左腕は大きく切り裂かれていた。流れる血に、私は慌ててブラウスの裾を破いた。包帯代わりに巻き付けるが、出血量が多過ぎて滑ってしまう。
「義兄上殿、おケガを!」
カールが自分のシャツを脱いで大きく引き裂き、肘から下の傷を覆った。その間にサッシュを解いたリッドが上から巻いていく。滲む血が痛々しいが、これ以上の応急処置は無理だろう。
「ごめんなさい、お兄様。私が勝手な行動をしたから……」
「いや? 守れただけで満足だよ。この程度のケガ、すぐに治るさ」
兄は全く気にした様子なく笑った。その笑顔に嘘はなくて、私は泣きそうになりながらも微笑む。そんな私達を見守る二人の表情も明るかった。
この人は違う。父や兄だけじゃなく、カールやリッドもこの状況なら手を緩めるわ。離せない状況でも、私の痛みを優先して緩和してくれるはず。パトリスは私に好意を寄せている話をしたけれど、違うの。それは執着よ、愛情じゃないわ。
前回の記憶を少し話した彼は、あの夜会の前から私を好きだったと告げた。本当に好きなら、痛い思いをする私を気遣う。口先じゃなくて、行動で示してこそよ。だから、私は覚悟を決めた。
いざとなったら、彼を見捨てるしかない。私は私を愛して認めてくれる人と生きたいの。この決断が人として間違っていても、後悔しないわ。
バタンと扉を蹴破る音がして、人影が現れる。後ろから光が差す状況で、暗い室内から侵入者の顔は見えなかった。でも分かる、このシルエットはお兄様よ!
「おに……「ティナ、危ないっ!」」
小さな声を掻き消すシルお兄様の叫び。直後に飛び込んだ兄の手が伸ばされ、私は信じて目を閉じた。動かない、こういう場面で助けられる側の心得は動かないこと。合図もないのに不用意に逃げたりすれば、お兄様の行動を妨げてしまう。
大丈夫よ、怖いけれど平気。今回のお兄様は私を助けてくれる。ただ信じて待つのが、囚われた私の役目よ。ぎゅっと己を抱き締める私を、兄の左腕が抱き込む。強く引き寄せる力に逆らわず身を任せた。
「ぐぁああ!」
「無事か?」
痛みに叫んだ男性の声に重なる兄の声。恐る恐る目を開くと、私は兄の胸に抱かれていた。額に汗を浮かべた兄は、ぎこちなく笑う。右手の剣は私の後ろにいたパトリスの肩に刺さっていた。剣を離した兄が私の上に巻かれた布を裂き、ケガがないか確認していく。
「打った背中が痛いだけよ。ありがとう、お兄様」
「僕らもいたんだけどね」
くすくす笑いながら入ってきたのは、リッド。上着を脱いで私の肩に掛けたのはカールだった。
「あ、ずりぃ」
「女性を気遣うのは最優先だ」
リッドとカールの言い合いが始まり、ほっとした顔の兄が私を抱き上げようとした。だが左腕から力が抜ける。気になって伸ばした手に、ぬるりと血がついた。
「お兄様!?」
「ああ、心配するな。その男のナイフが掠めただけだ」
軽いケガだと笑うが、その左腕は大きく切り裂かれていた。流れる血に、私は慌ててブラウスの裾を破いた。包帯代わりに巻き付けるが、出血量が多過ぎて滑ってしまう。
「義兄上殿、おケガを!」
カールが自分のシャツを脱いで大きく引き裂き、肘から下の傷を覆った。その間にサッシュを解いたリッドが上から巻いていく。滲む血が痛々しいが、これ以上の応急処置は無理だろう。
「ごめんなさい、お兄様。私が勝手な行動をしたから……」
「いや? 守れただけで満足だよ。この程度のケガ、すぐに治るさ」
兄は全く気にした様子なく笑った。その笑顔に嘘はなくて、私は泣きそうになりながらも微笑む。そんな私達を見守る二人の表情も明るかった。
101
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
婚約破棄の代償
nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」
ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。
エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。
【完結】優しいあなたに、さようなら。二人目の婚約者は、私を殺そうとしている冷血公爵様でした
ゆきのひ
恋愛
伯爵令嬢であるディアの婚約者は、整った容姿と優しい性格で評判だった。だが、いつからか彼は、婚約者であるディアを差し置き、最近知り合った男爵令嬢を優先するようになっていく。
彼と男爵令嬢の一線を越えた振る舞いに耐え切れなくなったディアは、婚約破棄を申し出る。
そして婚約破棄が成った後、新たな婚約者として紹介されたのは、魔物を残酷に狩ることで知られる冷血公爵。その名に恐れをなして何人もの令嬢が婚約を断ったと聞いたディアだが、ある理由からその婚約を承諾する。
しかし、公爵にもディアにも秘密があった。
その秘密のせいで、ディアは命の危機を感じることになったのだ……。
※本作は「小説家になろう」さん、カクヨムさんにも投稿しています
※表紙画像はAIで作成したものです
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる