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本編
109.籠の中でも自由はあるの
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籠の鳥は二度と御免だわ。そう思ったのに、自ら籠に入ることは苦にならないのね。状況は同じでも、自分が選んだ道ならば心は自由なままでいられる。
私が愛馬リディと遠乗りして襲われた日から、二年近くが経過した。穏やかな日常が続く庭は今年も美しい緑を輝かせる。護衛を連れて屋敷の近くを散策することも、お兄様達を誘って公爵家の森を駆けることも慣れた。常に誰かがいる生活は窮屈だと思っていたのに、今ではこれが当たり前だ。
私が傷つくと、それ以上に傷つく人がいる。この身が危険に晒されると、己の命を投げ出しても救おうとする人がいる。理解してしまえば、すとんと胸に落ちた。私は愛され大切にされている。だからと言って自由をはき違えて周囲を混乱させていい理由にはならないの。
「ティナ、今日の予定は?」
朝食の席で尋ねる兄に微笑む。
「リディをブラッシングする約束なの」
昨日は遠乗りした。シルお兄様だけじゃなくお父様も一緒だったから、少しだけ足を伸ばした。挫いた足の後遺症もなく走るリディだけど、もうすぐ赤ちゃんが産まれるわ。だからしばらく遠乗りはお預けだった。昨日の疲れを労わりながらブラシをかける予定で、アリスも準備している。
「それはいい。久しぶりにわしもやるか」
お父様、執事のクリスチャンが渋い顔をしています。お仕事が溜まっているのではありませんか? 昨日に続いて今日も仕事をしなければ、ジョゼフおじ様が厩まで追いかけてきそうです。
「僕は時間があるから付き合うよ」
「残念だ、私は国から届いた書類の整理がある」
嬉しそうなリッドと対照的に、カールは仕事が届いたらしい。ここで放り出して逃げない辺りが、お父様より立派ね。15歳になった私は、普段着のワンピースをすべて綿に変えた。こういった自由を楽しむことで、十分すぎるほど恵まれている。
今日はクリーム色に青い糸で刺繍の入った小花の柄。緑の服を着ると、リディがふざけて齧るんだもの。笑顔の絶えない食事を終えて、護衛を四人連れて移動する。私を心配する家族や婚約者が選び抜いた護衛は、たとえ屋敷内であっても私を一人にしなかった。
部屋に入ればアリス達侍女が控える。それが当たり前になった私に大きな変化がひとつ。
「午後からクリステルが遊びに来るわ」
忘れる前に、と予定を口にした。覚えていますと優秀な侍女アリスが頷く。毎日綿のワンピースを着るようになって、私達の関係はまた変わった。人前でなければ、いつも気軽に話してくれる。家族もそれを許した。
いつも家に友人がいる生活に慣れたら、前回はどうやって友人なしで生きて来られたのか不思議なくらい。お茶会用のドレスを選ぶアリスに勧められて、久しぶりにピンクを選ぶ。濃淡が美しくフリルの多いドレスは、お父様のプレゼントだった。
「これにするわ」
お飾りや靴なども選び、準備を終えてから部屋を出た。腕まくりをして、厩に向かう。リディが満足するまでブラシを置かないわよ! 意気込む私にリディがぶるると鼻を震わせて鳴いた。
私が愛馬リディと遠乗りして襲われた日から、二年近くが経過した。穏やかな日常が続く庭は今年も美しい緑を輝かせる。護衛を連れて屋敷の近くを散策することも、お兄様達を誘って公爵家の森を駆けることも慣れた。常に誰かがいる生活は窮屈だと思っていたのに、今ではこれが当たり前だ。
私が傷つくと、それ以上に傷つく人がいる。この身が危険に晒されると、己の命を投げ出しても救おうとする人がいる。理解してしまえば、すとんと胸に落ちた。私は愛され大切にされている。だからと言って自由をはき違えて周囲を混乱させていい理由にはならないの。
「ティナ、今日の予定は?」
朝食の席で尋ねる兄に微笑む。
「リディをブラッシングする約束なの」
昨日は遠乗りした。シルお兄様だけじゃなくお父様も一緒だったから、少しだけ足を伸ばした。挫いた足の後遺症もなく走るリディだけど、もうすぐ赤ちゃんが産まれるわ。だからしばらく遠乗りはお預けだった。昨日の疲れを労わりながらブラシをかける予定で、アリスも準備している。
「それはいい。久しぶりにわしもやるか」
お父様、執事のクリスチャンが渋い顔をしています。お仕事が溜まっているのではありませんか? 昨日に続いて今日も仕事をしなければ、ジョゼフおじ様が厩まで追いかけてきそうです。
「僕は時間があるから付き合うよ」
「残念だ、私は国から届いた書類の整理がある」
嬉しそうなリッドと対照的に、カールは仕事が届いたらしい。ここで放り出して逃げない辺りが、お父様より立派ね。15歳になった私は、普段着のワンピースをすべて綿に変えた。こういった自由を楽しむことで、十分すぎるほど恵まれている。
今日はクリーム色に青い糸で刺繍の入った小花の柄。緑の服を着ると、リディがふざけて齧るんだもの。笑顔の絶えない食事を終えて、護衛を四人連れて移動する。私を心配する家族や婚約者が選び抜いた護衛は、たとえ屋敷内であっても私を一人にしなかった。
部屋に入ればアリス達侍女が控える。それが当たり前になった私に大きな変化がひとつ。
「午後からクリステルが遊びに来るわ」
忘れる前に、と予定を口にした。覚えていますと優秀な侍女アリスが頷く。毎日綿のワンピースを着るようになって、私達の関係はまた変わった。人前でなければ、いつも気軽に話してくれる。家族もそれを許した。
いつも家に友人がいる生活に慣れたら、前回はどうやって友人なしで生きて来られたのか不思議なくらい。お茶会用のドレスを選ぶアリスに勧められて、久しぶりにピンクを選ぶ。濃淡が美しくフリルの多いドレスは、お父様のプレゼントだった。
「これにするわ」
お飾りや靴なども選び、準備を終えてから部屋を出た。腕まくりをして、厩に向かう。リディが満足するまでブラシを置かないわよ! 意気込む私にリディがぶるると鼻を震わせて鳴いた。
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