26 / 80
26.まだ王のつもりなのね
披露宴が始まってすぐ、捕物があるみたい。ルフォルの正装ばかりの会場で、ヴァレス聖王国の衣装は目立つ。上下の色がチグハグなので、そちらの意味でも悪目立ちしていた。
周囲の貴族が警戒する中、ル・ノートル伯爵が距離を詰める。お父様に騎士団長を任せられた伯爵なら、遅れを取ることもないでしょう。任せると目配せし、私はレオと前を向いた。セレーヌ叔母様は、笑顔で貴族に応じる。その優雅さも美しさも、衰えは感じなかった。
視界の隅で、捕物に気づいた叔母様は隣のエナン卿を促した。ああ、もうユーグ叔父様とお呼びしなくてはいけないわね。このル・フォール大公家に婿入りなさったんですもの。
すでに神前式は終えたため、二人は正式に夫婦となった。それ故の余裕かしら。セレーヌ叔母様は押さえつけられた国王アシルの前に立つ。見下ろしながら、小首を傾げた。
しゃらんと耳飾りが音を立てる。どうやら絹房の中に金属が入っているようね。鈴のように甲高い音ではなく、柔らかく心地よく響いた。叔母様の雰囲気によく似合うわ。
「あら、元国王陛下ではございませんの。いえ、まだ国はありましたわね」
強烈な嫌味は、ヴァレス聖王国の未来を示す。このままなら滅びは確実だった。ただ、報告を受けた私達は知っている。王宮に金はなく、信用もない。商人は手を引き、街の民は逃げ出し、もぬけの殻だということを。
その現実を覆そうとしたのか、それとも叔母様に未練があるのか。どちらにしても、一度手放した時点で終わりなの。
「っ、ぶれ、ぃ」
必死で絞り出した叱責の声に、伯爵が少しだけ手を緩める。息を吸い込み、咳をして喉を整えたアシルは予想通りの暴論を展開した。
「貴様ら、国王に対して無礼であろう。セレスティーヌ、貴様もだ! 王妃でありながら、異国人と腕を組んで歩くなど……うぐっ」
それ以上は聞くに耐えない。伯爵の判断で、口に布が押し込まれた。その布、テーブルの布巾かしら? もったいない。でも披露宴会場に窓拭き布やモップはないから、仕方ないわね。
「勝手に名を呼ばないで。私はすでに人妻なのですもの」
「そうです。僕の大切な妻に、妄想を突きつけないでいただきたい」
ユーグ叔父様、中々に強烈だけれど……ご自分も該当するので注意さなさって。ふふっと笑いながら、レオにもたれかかる。しっかりと肩を抱き寄せられた状態で、彼らに近づいた。騒動に気づいて集まった貴族が、さっと道を開けてくれる。
お父様達はどこかしら。これだけの騒動で顔を見せないなんて。そう思った私の目に映ったのは、壁際でお母様といちゃつく姿だった。この程度、お父様が出向くまでもない。そう判断したのね。
「叔母様もユーグ叔父様も、そのような意地悪はいけませんわ。この方、おそらく離婚成立をご存知ないの。一から説明して差し上げなくては、ね」
「まあ、王族を名乗る者が情報に疎いなど……無能だと吹聴する行為よ」
叔母様ったら辛辣ね。でも気持ちもわかるわ。政略とはいえ、こんなおバカに嫁がされたんですもの。腹立つでしょう。ユーグ叔父様の笑顔が怖いわね。
周囲の貴族が警戒する中、ル・ノートル伯爵が距離を詰める。お父様に騎士団長を任せられた伯爵なら、遅れを取ることもないでしょう。任せると目配せし、私はレオと前を向いた。セレーヌ叔母様は、笑顔で貴族に応じる。その優雅さも美しさも、衰えは感じなかった。
視界の隅で、捕物に気づいた叔母様は隣のエナン卿を促した。ああ、もうユーグ叔父様とお呼びしなくてはいけないわね。このル・フォール大公家に婿入りなさったんですもの。
すでに神前式は終えたため、二人は正式に夫婦となった。それ故の余裕かしら。セレーヌ叔母様は押さえつけられた国王アシルの前に立つ。見下ろしながら、小首を傾げた。
しゃらんと耳飾りが音を立てる。どうやら絹房の中に金属が入っているようね。鈴のように甲高い音ではなく、柔らかく心地よく響いた。叔母様の雰囲気によく似合うわ。
「あら、元国王陛下ではございませんの。いえ、まだ国はありましたわね」
強烈な嫌味は、ヴァレス聖王国の未来を示す。このままなら滅びは確実だった。ただ、報告を受けた私達は知っている。王宮に金はなく、信用もない。商人は手を引き、街の民は逃げ出し、もぬけの殻だということを。
その現実を覆そうとしたのか、それとも叔母様に未練があるのか。どちらにしても、一度手放した時点で終わりなの。
「っ、ぶれ、ぃ」
必死で絞り出した叱責の声に、伯爵が少しだけ手を緩める。息を吸い込み、咳をして喉を整えたアシルは予想通りの暴論を展開した。
「貴様ら、国王に対して無礼であろう。セレスティーヌ、貴様もだ! 王妃でありながら、異国人と腕を組んで歩くなど……うぐっ」
それ以上は聞くに耐えない。伯爵の判断で、口に布が押し込まれた。その布、テーブルの布巾かしら? もったいない。でも披露宴会場に窓拭き布やモップはないから、仕方ないわね。
「勝手に名を呼ばないで。私はすでに人妻なのですもの」
「そうです。僕の大切な妻に、妄想を突きつけないでいただきたい」
ユーグ叔父様、中々に強烈だけれど……ご自分も該当するので注意さなさって。ふふっと笑いながら、レオにもたれかかる。しっかりと肩を抱き寄せられた状態で、彼らに近づいた。騒動に気づいて集まった貴族が、さっと道を開けてくれる。
お父様達はどこかしら。これだけの騒動で顔を見せないなんて。そう思った私の目に映ったのは、壁際でお母様といちゃつく姿だった。この程度、お父様が出向くまでもない。そう判断したのね。
「叔母様もユーグ叔父様も、そのような意地悪はいけませんわ。この方、おそらく離婚成立をご存知ないの。一から説明して差し上げなくては、ね」
「まあ、王族を名乗る者が情報に疎いなど……無能だと吹聴する行為よ」
叔母様ったら辛辣ね。でも気持ちもわかるわ。政略とはいえ、こんなおバカに嫁がされたんですもの。腹立つでしょう。ユーグ叔父様の笑顔が怖いわね。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫(9/10受賞作発売中!)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。
【完結】え、別れましょう?
須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう
さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」
殿下にそう告げられる
「応援いたします」
だって真実の愛ですのよ?
見つける方が奇跡です!
婚約破棄の書類ご用意いたします。
わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。
さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます!
なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか…
私の真実の愛とは誠の愛であったのか…
気の迷いであったのでは…
葛藤するが、すでに時遅し…
お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(9/10受賞作発売中!)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!